第百二十四話 ショートカット
バ〇オは楽して周回したいけど無限弾は使いたくないジレンマが
あと今回も高難易度だと乗り物バトルと別キャラパートで地獄を見そうな予感で今からビビってます
(――クソ、どうしてだ?)
あまりにも早すぎる二回目のイベントシーンに、俺の思考は空転する。
(このイベントのためだけに、俺は数ヶ月ずっと準備してきたんだぞ! ここまで、ずっと順調だったじゃないか! なのに、何でこんな……!!)
混乱する俺を置き去りにしたまま、映像の中では王子と〈魔王〉の激しい戦いが続いていた。
「――〈一閃〉! 〈夢幻爪〉! 〈エアスラッシュ〉!」
殺到する小さな目玉の怪物を、アインが華麗な剣捌きで次々に片付けていく。
「鬱陶シイ! イイ加減ニ落チロ!!」
それに業を煮やして〈魔王〉自身もその目から致死性の光線を放つが、
「――〈疾風剣〉!」
それは、まさに疾風のごとく動くアインの身体を捉えることは出来ず、それどころか配下のフローティングアイを巻き込み、その数を減らしただけだった。
戦況は、今のところはアインにとって優勢に進んでいると言っていい。
……だからこそ、なおさら分からない。
(どういうことだ? どうしてイベントは早まった。こうして見る限り、イベントの内容自体は別に悪くはなっていない。むしろ、アインがマニュアルアーツを使いこなしている分、ゲームよりも順調に……あ)
自然と思い浮かべた言葉に、自分自身で戦慄する。
思い至ったのは、あまりにも意外すぎる可能性。
(まさか、アインが強くなりすぎたから、イベントの展開が早まったのか?)
はっきりと言えば、アインと〈魔王〉の戦いはほぼ「負けイベント」に近いものだ。
だから、アインがゲームより弱くならないようにというのは少し気を付けていたが、まさか強くなることでイベントが不利になるなんて可能性、検討すらしなかった。
だが、いや、でもそうか。
このイベントの流れを考えるとありえない話じゃない。
二回目のイベントシーンは、アインが眷属のフローティングアイを一掃するところから始まる。
だったら、アインが強くなることで、それがゲームより早く発生しても……。
そんな俺の推測を裏付けるように、アインがフローティングアイの最後の一匹を撃ち落とす。
「バカナ! アレホドノ数ノ眷属ガ、全滅!?」
「ロスリットの力を、侮ったようだね。彼女の結界で身体を休めることが出来た。魔力さえ十分なら、この程度の数を蹴散らすくらい難しいことじゃない」
静かに勝ち誇るアインと、狼狽する〈魔王〉。
そして、事態は俺の想像通りに、最悪の方向へと流れ始める。
「ロスリット!」
アインが背後を向いて叫んだ瞬間に、今まで物陰で戦いを見守っていたロスリットが顔を出す。
「〈ホーリーチェイン〉!!」
そうして即座に放たれた魔法が、空を浮く〈弐の魔王〉を拘束した。
「ナニ! コレハ!?」
いくらロスリットが年の割に優れた魔法の使い手であるとはいえ、本来であれば〈魔王〉を単独で拘束出来る魔法なんてものを使えるはずがない。
しかし、聖なる鎖は、一時的とはいえ、〈魔王〉の身体を捉え、その動きを封じた。
「やっぱり、ね。おかしいとは思っていたんだ。〈魔王〉が本来の力を振るえば、弱体化した僕らなんて一瞬で倒せるはず。なのに眷属をけしかけるばかりだったのは、お前もこの〈試練〉によって少なくない弱体化を受けているからだろう?」
そう静かに語るアインの剣に、どんどんと魔力が集まっていく。
「キサマ! ワタシニ……」
「僕らには、果たさなければならない使命がある。だからこれで、終わりにさせてもらう!」
アインが剣を掲げる。
空に一直線に伸びた力を、そのまま剣へと伝えるように、アインは手にした剣を振り下ろした。
「――魔法剣、〈ライト・ブリンガー〉!!」
それは、剣撃の形をした光の奔流。
おそらくはアインの全ての魔力を結集した一撃は、拘束された〈魔王〉の身体を打ち、その身を焼いた。
「キサマアアアアアアアア!!!」
〈魔王〉が叫ぶが、それで何が変わる訳でもない。
圧倒的な光の一撃は〈魔王〉の肉体を再生不可能なほどに焼き尽くす。
「……終わっ、た?」
流石に疲労した様子のアインが、手にした剣をそっと下ろした、その瞬間、
「ソノ強サヲ、称エヨウ。キサマハ、確カニ英雄ダ。……ダガ!!」
聞き間違えるはずのない、特徴的な声。
「――ソレモマタ、徒労」
アインが〈魔王〉を倒したのとは逆の方向に、もう一体の〈魔王〉が浮かんでいた。
「〈魔王〉が、二人?」
思わずこぼれたロスリットのつぶやきを、〈魔王〉が拾う。
「笑止。〈魔王ディブル〉ハ、一人ダケ」
異変はそれだけに留まらない。
アインによって焼き尽くされたはずの〈魔王〉の肉体までも、まるで逆再生のようによみがえって……。
「「ワタシタチガ〈魔王ディブル〉。〈一対二体ノ魔王〉ナリ!!」」
真の姿を現した「弐」の〈魔王〉の名乗りを最後に、空に映し出された映像は途切れたのだった。
※ ※ ※
「し、師匠! あれって……」
常識外れの光景を目にしたルインは動転していたが、実を言うとこの展開を予想させる材料自体はいくらかあった。
二人一組で挑むはずのこの〈試練〉にディブルがどうやってもぐりこんだのか。
それに、ディブルが「弐」の〈魔王〉だということや、「目」の魔物だというのも、あいつが二体で一人のボスだというヒントにはなっていたのだろう。
「それよりも、急ぐぞ。アインが危ない」
「危ない、って……」
問題なのは、あいつに備わった特性だ。
RPGで二体で一人のボスの特性と言えば、そんなの答えは一つしかない。
――〈弐の魔王〉は、二つの身体を同時に撃破しないと、倒すことが出来ないのだ。
能力に制限があるのか、一体だけが極端に離れて戦ったり、というのは出来ないようだが、いくらアインでも戦場にしている浮島の両端にいる〈魔王〉を同時に倒すなんて神業は到底不可能だ。
だからこそ、「主人公」が駆けつけないといけないんだが……。
(間に合う、か?)
余裕をかなぐり捨てて、最短距離を進む。
それでも、四回目のイベントシーンまでにゴールまで辿り着けるかは微妙だった。
(クソ! 最初から安全策なんて取らずに全力で進めばよかったのか!?)
そう自問するが、やはり最初の時点でその判断を下すのは難しかったのは分かっていた。
ゲームでの〈魂の試練〉は確かに難しいイベントだったが、その難しさは初見殺しの意味合いも強い。
きちんと準備をして、専用の対策をして挑めばかなりの余裕を持ってクリア出来る……はずだったのだ。
(今、後悔したって仕方ない。それより分岐点になるのは、イベントシーンが早まったのが二回目だけかどうかってことだ)
シーン発生が早まるのが二回目だけで、三回目と四回目のイベントがゲーム通りの間隔で発生するなら、今のペースならギリギリ間に合う。
だがもし、三回目も四回目も、いや、どちらか一回だけでも発生が早まってしまったら……。
(クソ、考えるな! もう、祈るしかない!)
不吉な予感を振り払い、俺たちは余裕も警戒もかなぐり捨てた全力の走りで「試練の道」を駆け上がる。
そうしてようやく、そろそろ全体の半分ほどは進めたんじゃないか、と思ったその時、
「……あぁ」
無情にも、空に異変が生まれた。
――三回目の、イベントシーン。
それを見た瞬間、俺の足は止まってしまった。
(ああ……。こりゃもう、ダメだな)
空を見上げれば、先ほどよりもボロボロになった光の王子と、笑う二体の〈魔王〉。
「師匠? どうしたんですか、師匠!」
ルインの声に、反応する気力もない。
ただじっと、空を見つめる。
視線の先に映し出された戦場では、至るところに傷を負い、息を切らしたアインが、それでも必死で〈魔王〉に食らいついていた。
「ナゼダ? 魔力ハ尽キ、助ケガ来ル望ミモナイ。全テガ徒労ト知ッテナゼ、ソウマデ戦エル?」
会話の合間にも放たれる〈魔王〉の苛烈な攻めを、アインは紙一重で躱していく。
「生憎と、僕はそんなに物分かりのいい人間じゃないんだ。それに、助けが来ない? 馬鹿なことを言わないでくれ」
長い戦闘を重ねたアインは、見るからに満身創痍。
けれど、
「――助けは来るよ。そう、約束したんだ」
そう口にするアインの目だけは、変わらずに強く輝いていた。
「……バカな、奴」
思わず、そんなつぶやきが口から漏れた。
「師匠……?」
不思議そうな顔をするルインに、やっと向き直る。
「……右、左、右、右、左、だ」
「え?」
怯んだ様子のルインに、一方的に告げる。
「ここからの最短経路だ。右、左、右、右、左。忘れるなよ」
「師匠、何を……」
疑問符を浮かべるルインだが、もう時間がない。
遥か空の上では、〈魔王〉が猛り狂っていた。
「愚カ! 愚カ! 愚カナリ!! ナラバソノ希望ヲ奪ワネバナラヌ!」
〈魔王〉はギョロリとその目をアインの背後、ロスリットに向けて、その巨大な二つの目が「何か」を見つける。
「ソウカ、ソウイウ、コトカ!! ……キサマ! 見テイルナッ!」
今度こそ、勘違いでも錯覚でもなく、〈魔王〉の視線が「俺たち」を捉えた。
「――見ルガイイ! 偽リノ英雄ヨ! ソノ希望ガ、絶望ニ変ワルサマヲ!!」
そうして、〈魔王〉の瞳に光が宿る。
明らかに、大きな攻撃の兆候。
その目標は、もちろん……。
「師匠!」
「走れ!!」
こんな時でも俺に判断を仰ごうとするルインを叱りつけ、その背中を押す。
ルインはレベルアップによって戻った速度で、一息にその場を離れる。
(……そうだ。それで、いい)
遠ざかる背中を、俺はその場に留まったまま見ていた。
「師匠!!」
俺がついてこないことに気付いたルインが振り返り、必死に手を伸ばそうとするが、間に合うはずもない。
「――滅ビヨ!!」
一拍遅れ、膨れ上がった〈魔王〉の魔力が、光線となって放たれる。
俺にはもう、逃げる暇なんてない。
放たれた光は大気を切り裂き、呼吸するほどの時間で立ち尽くす俺の頭上に至り、
「――〈瞬身〉」
攻撃者の背後を取る剣聖の妙技が、それ以上の速さで遥かな距離を駆ける。
ほんの一瞬の間に、俺の目の前の景色は一変していた。
「消エタ……!?」
まず見えたのは、巨大な怪物、その背中。
それからその奥には、映像で見た通りの、ボロボロになったアインが唖然としてこちらを見つめていて……。
「――よぉ、アイン。約束を、果たしに来たぜ」
そんな悪友に向かって俺は、精一杯の虚勢と共に不敵な笑みを投げかけたのだった。
レクス(レベル0)、参戦!!
次回は読者の皆さんがたくさん応援してくれたら明日更新!
別に応援されなくてもたぶん明日更新です!
でもまあそれはそれとして感想とか評価はください!(強欲)





