第百二十話 光の王子アインの消失
更新つらい……
にじゅゆに帰りたい……
――〈王の試練〉開始の日。
集まった人々に手を振り、王都を意気揚々と出発するアインたちを、俺は遠くから眺めていた。
「あれで慕われてるんだよなぁ」
最近は身近に接しすぎて悪友のようなイメージになっているが、本来は身分という意味でも中身という意味でも俺なんかが対等に話が出来るような相手じゃない。
アインの下に集っている人々の表情を見ると、やっぱりアインはすごい奴なんだなと再認識させられる。
「声、かけなくてもよかったんですか?」
アインとロスリットが街を出ていくのをぼんやりと眺めていた俺に話しかけてきたのは、ルインだ。
パレードの様子を特に興味もなさそうに横目にしながら、俺を見ていた。
「まあ、昨日あいさつは済ませておいたからな」
それに、これからアインが窮地に陥るのを分かっていて黙っているという負い目もある。
そんな相手を笑顔で送り出せるほど、俺は面の皮が厚くはない。
(いや……)
それは、ルインに対しても、同じか。
思わずルインに視線を向けると、こちらを見ていたルインと目が合った。
「……師匠?」
怪訝そうに問いかけるルインを、俺はあらためて観察する。
出会った頃の張りつめた表情は幾分かやわらぎ、年相応の少年らしい雰囲気がわずかだが戻ってきているように見えた。
自惚れでなければ、それは俺という信頼出来る相手が出来たから、という理由も大きいだろう。
その笑顔を曇らせたくなくて、俺は話題を変えることにした。
「いや、ルインもずいぶん強くなったな、と思ってな」
「それはもちろん、師匠がいいですから!」
打算で口にしているのではなく、本心から言っていると分かるその言葉に、俺はわずかに怯んだ。
「な、何度も言っているが、それはルインの素質と努力が……」
「その努力ができたことも含めて、師匠のおかげです。オレ、訓練が楽しいなんて思ったの、初めてなんです。それも全部、師匠がいてくれたからで……」
「い、いや、だから、な?」
俺はタジタジになってルインをなだめながらも、頭の中の冷静な部分で「これは絶対にステータス振り直しのことを話す訳にはいかないな」と密かに計算を巡らせていた。
真実を話せば、この好意が全て裏返って俺に牙をむく可能性はゼロじゃない。
こうまで素直な信頼を寄せてくるルインを利用するのは気が引けるところではあるが、俺は、誰がなんと言おうと最強を目指す。
今さら、退く訳にはいかないのだ。
(しかし、本当にこの短期間でよくレベル四十まで上げられたよな)
ラッドたちがアホみたいな勢いでレベルを上げていたから感覚が麻痺してしまうが、本来は二週間程度でレベルを五も上げられるはずがない。
高レベルになればなるほど必要な経験値量は増え、潜らなければいけないダンジョンも探索困難な場所になるからだ。
それを可能にしたのは俺の持つゲーム知識と、それを利用出来るだけのルインの能力。
本来はチームで攻略するべきダンジョンを、実質たった一人で攻略したからこそ可能になったレベルアップだったと言えるだろう。
(本当なら、ソロ攻略ってのは経験値効率的にはあんまりよくないんだが……)
ソロで敵を倒すとパーティで敵を倒した時よりも一人当たりの経験値量は多くなるが、経験値の総量だけで言えばパーティで攻略した時の方が多い。
それに、一人だけレベルが突出してしまうとレベルキャップにかかりやすくなるため、レベル上げはパーティ単位で行う方が効率的なのだ。
(ラッドたちのために目星をつけてたダンジョンの敵、全滅させちまったしなぁ)
王都でのレベル上げは、今後やりにくくなるだろう。
そういう意味では様々な犠牲を出したレベルアップと言えるが、その見返りは十分にあった。
「ルイン。それよりちょっと、ステータスを見せてくれ」
一言断って、もう一度ルインに〈看破〉をかける。
―――――――
ルイン
LV 40
HP 850
MP 180
筋力 475(A)
生命 370(B+)
魔力 125(C-)
精神 355(B+)
敏捷 235(B-)
集中 410(A-)
能力合計 1970
ランク合計 68
―――――――
レベルが三十五から四十にまで上がり、凶悪だったステータスはさらに増加。
特に筋力については七十も伸び、ラッドたちの特化した攻撃力にも完全に追いついたと言っていいだろう。
この伸びには、生来の高い素質値や〈シャイニングレオ〉の高い補正値ももちろんだが、装備品の力が関係している。
王都に出てきたこととラッドたちの強さが上がってきたこともあり、攻略可能なダンジョンが増えた。
さらに王都でも金をばらまいて装備品を集めたこともあって、成長に補正のつく装備を今まで以上に豊富に集めることが出来たのだ。
しかも、初心者向けの育成装備は鉄下駄やバネ仕掛けの鎧などネタっぽい見た目のものが多かったが、上級の装備になると見た目や防御力を保持しつつ、そのうえで成長値にも補正のある装備が増えてくる。
ラッドたちが「オレたちもやっとまともな装備がつけられる!」と目に涙を浮かべながら感動していたのは割と印象的だった。
防具が装備可能なのは、頭、胴体、腕、足の四箇所なので、レベルアップの際に実質四点分の自由な成長値を得られることになる。
ルインについては本人の戦闘スタイルを考慮して、筋力に二、生命に一、集中に一ずつ振り分けた。
これは、来る〈魂の試練〉での戦闘を見込んでの分配だ。
それに、ステータスだけではなく、スキルや戦闘技術の面についてもルインは長足の進歩を遂げた。
まだ一種類だけだがマニュアルアーツも使えるようになったし、〈オーラ斬り〉という新しい〈光技〉も覚えた。
(これなら、〈魂の試練〉では楽が出来そうだな)
もともと、〈魂の試練〉で俺が出しゃばるつもりはなかったが、もしかすると俺が一度も戦闘をせずにイベントが終わる、なんてこともあるかもしれない。
「頼りにしてるぞ、ルイン」
「はいっ!」
その素直な返事になぜだかチクリと胸が痛むのを自覚しながら、俺はアインたちが街を出ていくのをじっと見守ったのだった。
※ ※ ※
アインとロスリットが街を出発してから、三日。
王都全体に不穏な空気が漂っていた。
本来であれば移動を含めても一日で終わるはずの〈王の試練〉から、いつまで経っても二人が戻ってこないのだ。
(……始まった、な)
だが、そんな混乱の中でも俺は冷静なものだった。
それはもちろん、俺だけがその裏で何が起こっているのかを、正確に把握しているからだ。
――〈光の王子の失踪〉イベント。
一年目の二月に固定で発生するこのイベントは、クリアが必須ではないイベントだ。
王都で王子の失踪が告げられてから、約四週間が経てばアインは自力で「試練」を乗り越えて戻ってくる。
最愛の婚約者、ロスリットの命を犠牲にして……。
(とはいえ、移動に時間がかかるゲームで、四週間ってのは短すぎるんだよな)
それが、この連続イベントの厳しいところの一つだ。
四週間以内にアインの手がかりを突き止めなければ〈魂の試練〉イベントに突入することなくイベント自体が消えてしまうし、失踪から二週間以上経ってから〈魂の試練〉イベントに突入しても、時間制限の関係でほぼバッドエンドが確定してしまう。
(あと一週間なら、たぶん粘れるが……)
アインが囚われている場所は時空が歪んでいるらしく、時間の流れが外界とは違う。
外での一週間が中での一時間程度になるようなので、外にいる俺たちが多少のんびりと構えていても大した影響はない……はずだ。
しかし、俺は首を振って自分の甘さを振り落とす。
今のルインの仕上がりなら特に苦戦する要素はないはずだが、不測の事態に備えて時間には出来るだけ余裕を残しておいた方がいいだろう。
失踪直後は国の調査によって〈王家の試練場〉は封鎖されているが、試練から三日後の今日には調査隊ももう引き上げているはず。
最速で行くなら、このタイミングだ。
俺は即座に決断すると、傍で修業をしていたルインに呼びかけた。
「――ルイン、出発だ。約束通り俺に『協力』してもらうぞ」
魂の試練スタート出来なかった!
ちらっと見たら漫画版の二話の最初が無料公開されるの18日の昼前までっぽいので、まだの人は急いで読んでってください(下にリンクあります)
いえ、別に単行本買って読んでくれてもいいんですけどね(ニヤリ





