第百十五話 光と影
バ〇オ最初の館だけはクリアしましたけどやっぱり3D酔いで体調崩しました
ガンパウダーが枠取らないとか箱で勝手にナイフ使ってくれるとか合成可能な換金品がちゃんと事前に通告されてるとか、システム周りはなかなか好きです
「――証明してやったぜ、おっさん!」
試合が終わって、真っ先に俺のところにやってきたラッドはそう言って親指を立てた。
「……そうだ、な」
ルインはゲームに、いや、この世界に優遇された存在だ。
優れた成長値に優れた初期職業、誰も持っていない強力な技。
生まれながらの英雄、とまで言うと言い過ぎかもしれないが、英雄になるべくして生まれてきた存在だとは言えるだろう。
それを、俺のゲーム理論で強くなったラッドが打ち破ったのだから、流石の俺も感慨深いものがある。
「よくやったな、ラッド。よくここまで、マニュアルアーツを使いこなした。お前は、俺の誇りだよ」
「お、おっさん……」
ただ、ラッドが理論だけで勝った訳では決してない。
こいつは最初、マニュアルでアーツを発動させるどころか、武器に魔力をまとわせることすらまともに出来なかった。
だがそこから努力を続け、一歩ずつ出来ることを増やし、四ヶ月経った今、ついにはマニュアルアーツの到達点とも言える〈ダブルアーツ〉まである程度自由に扱えるようになったのだ。
少し恥ずかしいことを言えば、これは俺だけの勝利でも、ラッドだけの勝利でもない。
俺とラッド、二人の勝利だ。
「へっ! ま、まあ、オレはおっさんの一番弟子だからな。このくらい、なんてことないさ」
そう言って、ラッドは顔を赤くしてそっぽを向いた。
分かりやすい照れ隠しに、思わず笑いそうになる。
そうして、
「面白い話をしていますね。ならどちらが兄さんの一番弟子か、剣で語ることにしましょう」
「あ、レ、レシリア!? あ、いや、ちょっ……」
不用意なことを言ったばかりにレシリアにどこかに連行されていくラッドを笑顔で見送ってから、俺はもう一人の当事者、ルインの方へと向かう。
この世界の「主人公」。
未来の英雄たる銀髪の少年は、いまだに自分が負けたことが信じられないというように、悄然とその場に立ち尽くしていた。
「強かっただろ、ラッドは」
「は、い……」
俺が問いかけると、ルインは焦点の合わない目を俺に向けて、コクンとうなずいた。
かすれた声で、俺に問いかける。
「あなたの、弟子は、みんなあれほどの腕を……?」
「んー、まあ、あの剣の技ほどの隠し玉はないけどな。実力って意味なら、全員ラッドと肩を並べても見劣りしないくらいには強いぞ」
「……そう、ですか」
ふたたびうつむいたルインに、不安が首をもたげる。
(荒療治した方がいいと思ったが、少し薬が効きすぎたか?)
だからその不安を吹き飛ばすように、明るく言った。
「ま、今は負けたとしても、それは当然だ。ラッドはお前の知らないことを知っていて、四ヶ月も前からそれを練習してたんだからな。むしろ今のお前には、その分だけの伸びしろがあると考えればいい」
「伸び、しろ……」
ぼんやりと、自分の手を見るルインに、俺は言葉を重ねた。
「まだ訓練も初日だ。焦ることはない。まずはラッドたちを見て、自分に何が足りないのか、何を伸ばしたいのかを考えてみればいい」
「……分かり、ました」
神妙にうなずくルイン。
ひとまず、これで大丈夫だろうか。
俺はどこか覇気を失ったようなルインの姿に一抹の不安を覚えながらも、訓練場へと戻ったのだった。
※ ※ ※
ルインは、レクスと同じ、ソロの冒険者だ。
ソロであるがゆえに、全ての能力に秀で、全ての技能に長じている。
しかも、単なるお助けキャラであるレクスとは違い、ルインは「主人公」だ。
全ての技能が平均より高く、剣だけでなく、探索能力や罠対策、回復魔法、遠距離攻撃の全てに長けていた。
しかし、それらはあくまでも平均より優れている、だけでしかない。
「――〈ミラージュ〉〈ピアシング〉」
プラナは静かにスキルを使い、分身したその姿のまま、はるか遠くのモンスターを穿つ。
「……な」
それを呆然と見守るのが、ルインだ。
確かにルインは全てに優れているし、その能力値は総合的に見ればラッドたち全員より高い。
しかし、
―――――――
ルイン
LV 35
HP 740
MP 165
筋力 405(A-)
生命 320(B)
魔力 115(C-)
精神 335(B+)
敏捷 205(C+)
集中 360(B+)
能力合計 1740
ランク合計 64
―――――――
―――――――
プラナ
LV 36
HP 450
MP 211
筋力 296(B)
生命 174(C)
魔力 160(C)
精神 142(C)
敏捷 300(B)
集中 468(A)
能力合計 1540
ランク合計 60
―――――――
ラッドと違い、プラナやマナ、ニュークはその能力を得意分野に特化させている。
特化させたその分野においてだけは、彼らはルインを超える。
そして、俺も実際にプラナを見るまでは分からなかったが、弓での射撃はステータスだけではないセンスが物を言う。
エルフとしての優れた聴覚と射撃のセンスは、プラナの弓兵としての能力を額面以上に高くさせていた。
プラナだけじゃない。
―――――――
マナ
LV 35
HP 476
MP 402
筋力 111(C-)
生命 188(C+)
魔力 352(B+)
精神 478(A)
敏捷 174(C)
集中 262(B-)
能力合計 1565
ランク合計 60
―――――――
「――アンデッドは任せてください! 〈ホーリーライト〉!!」
チーム〈ブレイブ・ブレイド〉が誇る、不動のヒーラーであるマナ。
彼女もまた、一種の天才だ。
祈りによって異様なまでに精神の値を伸ばし、誰よりも高い回復魔法の適性によって、その魔法は通常の何倍にも効果を増幅させる。
ルインのそこそこの高さの精神値と、「主人公」による光適性の高さをもってしても、回復、浄化魔法という分野ではマナに太刀打ちは出来なかった。
―――――――
ニューク
LV 36
HP 540
MP 469
筋力 110(C-)
生命 219(C+)
魔力 418(A-)
精神 230(B-)
敏捷 235(B-)
集中 269(B-)
能力合計 1481
ランク合計 59
―――――――
「まず先制して雑魚を一掃します! 〈フレアフィールド〉!」
そして、最後に残ったニューク。
能力値という面ではほかの面々に一歩遅れている彼だが、ニュークこそが一番ルインにとって遠い存在だった。
ルインのステータスの唯一の穴が、魔力。
無数の補助魔法を使ってパーティを支援し、時には属性魔法で的確にモンスターを屠るその役割だけは、ルインにはどうあっても行きつけない領域にある。
おそらく、ルインが初めて出会った「格上」の同世代。
それを前にしても、ルインがあきらめるということはなかった。
むしろその全てで食らいついていこうと、訓練の鬼みたいなラッドですら驚くほどのストイックさで訓練に打ち込んでいく。
とはいえ、いくらルインが「主人公」とは言っても、自分を追い込むような訓練を続けて疲弊しない訳がない。
明らかなオーバーワークに、ルインの顔からどんどんと余裕が消えていく。
その姿に危なっかしさを感じながらも、いまだに「主人公」であり、同時に特大の危険物でもあるルインへどう接するべきかを決めかねていた俺は、それを強くいさめることが出来ないでいた。
「――兄さん!」
そんな中、ついに恐れていた事態が起こる。
騎士団の指導中にレシリアから告げられた言葉。
それは、「訓練中にルインが倒れた」という報告だった。
ルイン君は下手すればこの作品で一番不幸なキャラなんですよね
まあ詳細は次回以降に
次回、次々回は書くことがガッチガチに決まってるのでたぶんしばらく更新安定します
とか言ってると意外と突然エタったりするんですけどね!!





