第百十二話 告解
ラグったせいで一瞬だけ二重投稿に……
最近うちの環境だとなろうのマイページ異様に重いんですよね
散々俺を悩ませてくれた〈極みの剣〉。
その正体は、どうやら俺だったらしい。
「君は仮にも〈剣聖〉と〈王子〉に勝った人間なんだ。むしろそれなりの箔をつけてもらわないと困るというものさ」
〈光の王子〉なんて二つ名をつけられて平然としている王子さまはそう言うが、でも黒尽くめの格好で〈極みの剣〉とか名乗るソロ冒険者とかなんかもう……いや、気にしないことにしよう。
俺が一応飲み込んだことを見て取ったのだろう。
アインは少し眉を寄せ、また声を潜めて話し出した。
「その話はともかく、もう一つ気になっていることがあってね。あの子はルイン・スラーツと名乗っていただろう? 実は、スラーツという姓には、僕も聞き覚えがある」
「そう、なのか?」
少なくとも、ゲームではそんな名前の人間はいなかったように思う。
いや、俺だって全ての人間の名字まで知っている訳じゃないが、十中八九、DLCで追加された設定だろう。
「十数年前になるけれど、僕が幼い頃に王宮付きの錬金術師が失踪してね。その男の姓が、確かスラーツと言ったのさ」
「錬金術師……」
その失踪した錬金術師とやらが、ルインの父親なのだろうか。
何ともまあ、ゲームのシナリオになりそうな展開だ。
俺が次から次へともたらされる情報にオーバーヒート気味になった頭を冷やしていると、「さて」と言って、アインが動き出す。
「それじゃ、僕たちはもう行くよ。あまり王宮の方を離れる訳にもいかなくてね」
「そうか。今日は助かったよ」
俺が言うと、アインはふっと顔を緩ませて、
「それはお互い様だ。……〈勇者〉のことは、任せたよ」
小声でそう付け足してから、隣にいるロスリットの手をさりげなく取ってその場を去っていく。
ロスリットも、ペコリ、とこちらに小さく頭を下げて、彼に続いた。
※ ※ ※
アインとロスリットがいなくなって、リングの外には俺とマナの二人だけが残った。
「マナも付き合わせて悪かったな。もし退屈だったら、先に上に帰っても……マナ?」
振り向いた俺は、異常に気付く。
「あ……。レクス、さん?」
マナは、どこか怯えたように俺を見ていた。
いや、怯えたように、じゃない。
マナの手の先が、はっきりと震えていた。
(……しまったな。ルインとの戦いで、怖がらせちまったか)
考えてみれば、ニルヴァと戦った時も〈魔王〉と戦った時も、彼女は過剰なくらいに気を揉んでいた。
冒険者と言っても数ヶ月前はただの女の子だったマナには、先ほどのルインとの戦いは苛烈に映ったのかもしれない。
「そ、の……。助けていただいて、ありがとうございました!」
しかし、心優しい彼女は、そう言って深く深く俺に頭を下げた。
「こっちこそ悪かったな。怖い思いを……」
「ち、違います! わたしが悪いんです! あなたに何度も助けてもらったのに、怖くて、なにも……」
今度こそ、俺は目を見開いて驚いた。
いつも明るかったマナが、裏ではそんな劣等感を抱えているとは思わなかった。
確かに、マナはラッドたちの中では直接の戦闘力は低いし、一番レベルが低い。
しかしそれは単純にヒーラーという役割の問題であって、マナが前に出て戦えないからといって非難されるようなものじゃない。
ましてや、アインほどではないとはいえチートの塊のようなルインとの戦いに割って入るなんて、自殺行為もいいところだ。
とはいえ……。
(理屈じゃ、ないんだろうな)
なまじ真面目だからこそ、他人の……いや、少し自惚れてもいいなら親しい人間の危機に、自分が何も出来ないというのがつらいのだろう。
だから俺は意識して明るく笑い飛ばすと、コツンとマナの頭を小突く。
「バーカ。半人前が、そんなこと気にするな。心配しなくても、あとでたっぷり恩を返してもらうさ」
俺の言葉程度で悩みがなくなった訳でも、吹っ切れた訳でもないだろう。
それでもマナは、俺が小突いた場所を撫でると、
「――はい! 絶対に!」
わずかに涙の浮かんだ瞳に光を宿し、やっと笑顔を見せてくれたのだった。
※ ※ ※
(……こういうの、柄じゃないんだよな)
マナとの間に出来た微妙な空気になんとなくむずがゆくなった俺は、リングの上へと避難した。
彼女のことは心配ではあるが、時間が解決してくれるのを待つしかないだろう。
リングに上がると、ルインが俺を何か言いたげに見ていた。
「なんだ?」
「いえ、英雄色を好む、って本当なんだなって」
言葉面だけならとんでもない皮肉だが、恐ろしいことにこの銀髪の少年は素直に感心しているらしかった。
「そういうんじゃない。そもそも、俺は英雄じゃないしな」
しかし、そう口にしてもルインはきょとんとするだけ。
不思議そうに問いかけてくる。
「でも、あなたはあの〈極みの剣〉なんですよね?」
「他人が勝手に言ってるだけだ。俺が名乗った訳じゃない」
「自分で名乗ってもないのにほかの人が呼んでる方が、よっぽどすごいと思いますけど」
ド正論だった。
思わず言葉に詰まる。
「〈極みの剣〉の話は街で聞きました。画期的な剣技を開発して、冒険者の育成にも多大な貢献をした英雄。それに、試合とはいえ〈剣聖〉と〈光の王子〉に勝ち、それから……」
今まで抑え気味だったルインの声に、途端に熱がこもり、そして……。
「――〈魔王〉を、倒したって」
あぁ、なるほど、と俺はうなずく。
こいつが〈極みの剣〉にこだわっていた理由も、それからあそこであっさりと矛を収めた理由も、それでようやく合点がいった。
ストーリーの説明によれば、こいつは〈魔王〉に家族を殺されている。
つまり……。
「そんなに急いで力を求めているのは、〈魔王〉と戦うためか?」
俺の言葉に、ルインはハッと息を呑んだ。
うつむき、拳を握りしめる。
「オレは、以前に暮らしていた場所で〈魔王〉に襲われたんです。そして、大切な家族を失いました」
「つまり復讐のため、って訳か」
俺が確認するように問いかけると、ルインは神妙な顔でうなずいた。
ここまでは、予想通り。
しかしルインは、さらに言葉を継いだ。
「半分は、そうです」
「半分?」
じゃあ残りの半分はなんなのか。
その問いの答えは、すぐにルインの口からもたらされた。
「――オレは、〈魔王〉に命を狙われてるんです」
レクス「聞かなきゃよかった……」
次回はラッドvsルインの弟子対決!!
更新はもちろん明日……だといいですね!





