第百十一話 極みの剣
〈ブレイブリーブレイド〉ってゲーム作ってる話しましたけど、こっちの方にも一応ほのかにストーリーあるんですが、ちょっと実装しにくいんですよね
何しろこっちのブレブレの元ネタなので、どっちがでがっつりストーリー書くと相互にネタバレになるという
――「主人公」が俺の弟子になった記念すべき日。
俺はアインにも協力してもらってルインのスペックを調べたが、流石に公式チート主人公。
女神に選ばれた〈勇者〉の能力は尋常じゃなかった。
まず、本人の素質は、こうだ。
―――――――
ルイン
筋力 7(究極)
生命 4(スゴイ)
魔力 1(全然ダメ)
精神 3(ふつう)
敏捷 3(ふつう)
集中 7(究極)
合計 25
―――――――
この世界に来たばかりの俺だったら、嫉妬でマスクでも被りたくなりそうなほどの優秀さだ。
合計値が二十五、というのはまあいい。
いや、素質値の合計が九しかない俺からすると本当に羨ましいが、「主人公」の素質は二十五と決まっているものだから、むしろそれ以下が出ていたら不安になっていたところだ。
だからまあ、百歩譲ってそれは許す。
だが特筆すべきは「筋力」と「集中」の七。
普通の「主人公」であればどうやっても二つの能力値を七にすることは不可能だったはずなので、これはやはり「魔の島の主人公」の特典ということだろう。
しかし、「筋力」が七というのは羨ましいが、「集中」が七というのは微妙だ。
集中は技能の成功率に影響する能力で、もちろん低いよりは高い方がいいのだが、器用さが必要なアーチャーやシーフ系統、あるいは魔法を覚えるために必要なため魔法使いにとっては大事だが、剣士にとってはさして優先度は高くない。
これは事故ってるな、と思ったのだが、そんな考えはルインの〈光技〉の検証によって粉々に砕け散った。
光の女神に選ばれた〈勇者〉が扱う〈光輝の剣〉は、様々な特性を持っているほか、威力については独特な特徴を持っている。
〈光輝の剣〉による攻撃の威力は、使い手の「総合ステータス」によって決まる、という点だ。
例えば、バランス型だろうが物理型だろうが魔法型だろうが、どんな型を取っていても能力値の総量が同じなら全く同じ威力が出る。
どんなスタイルの「主人公」を作ったとしても、〈光輝の剣〉はどんな時も変わらず頼りがいのある武器となる訳で、それは実にうまい調整だと言える。
しかし一方、それは欠点にもなり得る。
その性質上、この〈光輝の剣〉は攻撃特化型と相性が良くないのだ。
いや、決して相性が「悪い」訳ではなく、「良くはない」というだけなので使えない訳ではないのだが、これは地味に大きな問題になる。
例えば斧を振るう場合、その威力は武器の性能と使い手の「筋力」によって決まる。
だから斧使いは筋力だけをあげれば攻撃の威力が上がる。
しかし、その斧使いが〈光輝の剣〉を使った場合、自慢の「筋力」が威力に与える影響は斧を使った場合の六分の一。
特に振り直しによって「筋力特化の戦士」を作った場合などは、〈光輝の剣〉を使った攻撃よりも、特化した筋力を使った武器による攻撃の方が強くなってしまうことがある。
いや、あった……のだが。
「――〈光輝の剣〉!」
王宮のリングの上で、〈光輝の剣〉を顕現させるルインを眺めながら、羨望のため息をつく。
DLCの説明文にあった「改善」というのが気になったため、〈光輝の剣〉についても検証をしてもらったところ、とんでもないことが分かった。
まず、ルインの〈光輝の剣〉はゲームの……ほかの「主人公」の〈光輝の剣〉と違い、完全に「剣」だった。
全ての能力をまんべんなく上げるより、「筋力」が高い方が攻撃力が明らかに上昇。
さらにもう一つの特徴として、〈光輝の剣〉の部分の攻撃力がどうやら「集中」に依存しているということが分かった。
つまり〈光輝の剣〉を強くするためには「筋力」と「集中」をあげればいい訳で、汎用性がなくなった代わりに剣士プレイで〈光輝の剣〉の恩恵が大きく受けられるようになっていた。
(フリーシナリオと育成の自由度が売りのゲームで、思い切ったことをするな、とは思うが、まあ出自自体が「最強の剣士を目指す」って設定だからな)
そういう路線もありだと考えたんだろう。
そして、〈光輝の剣〉に関する「改善」はそれだけじゃなかった。
ゲームでは〈光輝の剣〉はいわゆる必殺技だった。
ゲームが進んで強力にはなっていくものの、最初は〈光輝の剣〉が使えるのは一日に一回だけ。
それも一分程度しか維持出来ないまさにここぞという時のための「切り札」だった。
だが、ルインの〈光輝の剣〉にそういった制限はない。
発動にHP消費が必要という仕様に変更され、別の意味で必殺技っぽくなったものの、逆にHPが続く限りは何度でも、いつでも出現させられるらしい。
いや、なんだよそれ、チート過ぎだろ。
開発の奴ら、一体どんだけDLC売りたかったんだよ……。
と、この時点でもうおなかいっぱい、という感じだが、ルインへの優遇はそれだけじゃなかった。
ルインがついている専用職業だが、これがまたすごい。
―――――――
シャイニングレオ
筋力 5
生命 5
魔力 1
精神 1
敏捷 3
集中 2
合計 17
―――――――
(おいおい! ユニーククラス並みかよ!)
補正値計算をした俺は、そう叫びそうになるのを必死で堪えなくてはいけなかった。
ブレブレに膨大な数が存在する「クラス」だが、成長補正の値によって大まかにランク分けが出来る。
まず、大体の「主人公」の初期職業になる〈ヤングレオ〉の補正合計値はたったの二。
次に普通の冒険者の初期職業、〈ファイター〉などの一次職業は六。
一般にレベル十くらいで転職可能な〈ソードマン〉などの二次職業で九。
そして、レシリアの初期職業でもある〈インペリアルソード〉などの三次職業でやっと十二。
通常手段での転職では最高峰になる〈ソードマスター〉などの四次職業で十五だ。
レクスのスタート時の職業であり、〈ブレイブソード〉で転職出来る〈ブレイブレオ〉は四次職業相当なので、これを序盤で使えればかなりチートだと思ったものだが、〈シャイニングレオ〉の補正値は十七なので、ルインは初期の状態でそれを超えていることになる。
(ま、まあ、今は負けてねえけどな!)
今のラッドがついているユニーククラスである〈トレジャーハンター〉は補正値十八。
そして、俺が持っている中で最強の職業〈剣聖〉の補正値はなんと二十四だ!
苦労して得ただけのことはある超ぶっ壊れ職業。
たとえ素の素質値が低くても、これだけは誰にも負けは……。
「――やぁ、どうだい?」
その時、ちょうど目の前に補正値合計三十六の〈ライトプリンス〉を持つチート王子様が現れて、俺の脳内イキリタイムは幕を閉じた。
「見ての通り、順調だよ」
初対面でぶっ飛んだ行動をかましてきたルインだったが、今のところは素直に俺の言うことを聞いて様々な検証に付き合ってくれている。
というより、俺が教える自分の能力値や能力の検証が楽しいらしく、積極的に動いている、という感じか。
「それより、助かったよ。俺じゃ、こんな場所使えなかったからな」
ゲームと違い、ここではメニューを操作して、キャラクターのステータスを見る、という訳にはいかない。
いや、「主人公」ならあるいは、と思ってルインに「ステータスとか見られないか?」と尋ねてみたが、「なんだこいつ」という顔をされただけだった。
フリーレアとは違って闘技場で〈魂の決闘〉を出来ない王都ではステータス検証が出来ないと思っていたのだが、アインが「同じことが出来そうな場所を知っている」と言って王宮の地下にあるこの場所に連れてきてくれたのだった。
「役に立てたなら何より。僕も、自分たちの能力がはっきりと分かってよかったしね」
そう口にするアインの手には、数枚の紙が握られている。
―――――――
アイン
筋力 6(天才)
生命 6(天才)
魔力 6(天才)
精神 6(天才)
敏捷 6(天才)
集中 6(天才)
合計 36
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―――――――
ライトプリンス
筋力 6
生命 6
魔力 6
精神 6
敏捷 6
集中 6
合計 36
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―――――――
アイン
LV 45
HP 1320
MP 660
筋力 600(S-)
生命 600(S-)
魔力 600(S-)
精神 600(S-)
敏捷 600(S-)
集中 600(S-)
能力合計 3600
ランク合計 96
―――――――
「そ、そうか……」
あいかわらず悪夢のような能力から目を逸らす。
返事が少しひきつったものになってしまったが、それもしょうがないだろう。
「まあなんというか、自分で想像していたよりちょっと平坦な能力ではあるけれど、この情報は有益だよ。王都で君を囲い込むことを本気で検討するくらいにはね」
「物騒なこと言うなよ」
俺が腰を引きながら言うと、アインは「あはは。冗談だよ、冗談。三分の一くらいはね」とにこやかに手を振った。
そして、不意に真剣な目をして声を潜めると、
「――レクスは、あの子が〈光の勇者〉だと思っているんだろう?」
ズバリと切り込むアインに、俺は一瞬言葉を失った。
しかし、アイン相手に隠す意味もない。
俺はちらりとルインの方を見て、彼がまだ検証に熱中しているのを見て、声を潜めて尋ねた。
「……気付いてたのか?」
「僕にだって、子供の頃があったんだ。輝く剣で魔を払う〈勇者〉と、それを支える〈聖女〉の物語には憧れて、何度も話をせがんだよ。そういえば、ロスリットと一緒にごっこ遊びなんかもしたっけね」
そこでちらりと自分の婚約者に目を向けて、視線だけで会話をしてクスリと笑い合う。
いや、真面目な話をしてるんだから隙あらばイチャイチャするのやめてもらっていいかな?
「もし本当に〈光の勇者〉なら、下手なことをする訳にはいかない。まあその点、〈極みの剣〉様に預けておけば安心だろう?」
茶目っ気たっぷりに言い放つアイン。
女だったら見とれてしまうような仕種ではあるが、俺はその程度では誤魔化されない。
むしろ、アインに問い正したいことがあるのを思い出した。
「そうだ! その〈極みの剣〉って恥ずかしい名前の野郎は結局誰なんだよ。お前の部下か?」
いくらルインを説得するためとはいえ、趣味の悪い二つ名の奴の真似をさせやがって、と恨みを込めてアインをにらんだのだが、当のアインは全く悪びれた様子もなかった。
「部下、というか……。え、もしかして、本当に知らないのかい?」
むしろ心底意外な言葉を聞いたと言わんばかりに目を見開き、そして、
「――アレ、王都での君のあだ名だよ?」
あっけらかんと、とんでもない爆弾発言を落としていったのだった。
レクス、厨二になる!
シャイニングレオにはちょっと元ネタがあって、別に合わせる必要ないので迷ったんですが、奇跡的にステ補正そのまま使えそうなので補正値も名前もまんまで採用しちゃいました
ジル〇ールは(ロードとかテンポとかアレな部分もあるけど)名作だからみんなやろうね!





