第百九話 VS「主人公」
大昔になろうのにじファンに載せた「ぼくのかんがえたさいきょうのぽけっともんすたー」ってまたどっかに載せたりしないですか?って聞かれたんですが、もうデータないんですよね
一昨年の猫耳猫の四月バカネタとか、割と色んな小説データロストしてます
(――やっぱりこいつが〈魔の島の少年〉なんだよな?)
俺はもう一度、目の前の銀髪の少年を見やる。
銀髪と大まかな顔立ちは公式ページで見たものと同じ気がするが、動画も紹介ページも見たのは数年前だ。
装備やら服装やらが違うこともあって、断言するほどには自分の記憶に自信は持てない。
(……いや、これは逃げだな。〈光輝の剣〉が使えて〈ルイン〉って名前の時点で疑いようもない)
流石にそこまで一致して、偶然でした、なんてことはありえないだろう。
だとしたら……。
「――おしゃべりは、終わりだ!」
しかし、俺にそれ以上考える時間は与えられなかった。
どうやら痺れを切らしたらしい銀髪の少年が、〈光輝の剣〉を振りかざして襲いかかってくる。
「くっ! 〈疾風剣〉!」
「速い!?」
少年の繰り出す一撃をかいくぐるように剣を振るい、交差するようにすり抜ける。
俺の頭上を〈光輝の剣〉が通り過ぎていき、同時にかすめるように撃ち放ったこちらの一撃もまた、少年が慌てて身を躱したことで空を切る。
(クソ! やりにくい!)
相手が「主人公」なら、まさか殺してしまう訳にはいかない。
かといって、逃げ回るには相手が強すぎる。
特に厄介なのが右手の〈光輝の剣〉。
確かあの剣はガードもパリィも不可能だ。
なら……!
「〈稲妻〉、〈Vスラッシュ〉!」
ルインの前方で空を切るようにスキルを放ち、〈ダブルアーツ〉につなげて一気呵成に攻め立てる。
「な、なっ!?」
おそらく初めて見た〈ダブルアーツ〉に戸惑い、対応が遅れたルインは俺の一撃を剣で受けるしかなかった。
「ぐ、ぅっ!」
能力値に差があるとはいえ、〈ダブルアーツ〉に対してアーツなしでは勝負にならない。
剣のガードごと、ルインを吹き飛ばす。
これで数秒の猶予が出来たが、解決策が見えない。
(どうする? どうすればいい?)
見る限り、ルインはスペックが高いだけで、戦闘はほとんど素人も同然だ。
ただ勝つだけなら難しくはない。
ただ、殺さずに戦闘を終了させる、となると、どうすればいいのか途端に分からなくなる。
(問題は、このイベントの着地点はどこなのか、ってことだ)
常識で考えれば、王子にいきなり斬りかかったらそんなもん衛兵に捕まって縛り首で終わりだ。
しかし、これはゲームの世界。
ブレブレの傾向からしてもプレイヤーがいきなり捕まって死刑になるような結末にはならないはずだ。
俺の身体が勝手に動いたことから考えると、これはイベントの一部だったのは間違いない。
つまり、何かしらのゲーム的な結末が用意されている可能性が高い……はずだ。
「レクス、手助けは……」
「必要ない! 下がってろ!」
後ろでアインが尋ねてくるが、俺はすぐにそう返した。
いくら身分制度が緩い世界でも、王子を傷つけたとなればどんな事態を呼ぶか分からない。
今のところルインはまだ誰も傷つけてはいない。
ルインが罪に問われないように、何とかこのまま、ルインを説得して……。
「ま、まだだ!!」
しかし俺の思索を、その当のルインが遮った。
よろよろと立ち上がったルインは、それでもしっかりと〈光輝の剣〉を構え直す。
「まだ、終わってない! オレは負けられない!」
まるでその意思の強さを示すかのように〈光輝の剣〉は輝きを増し、ルインは強い決意をにじませた瞳で俺を見据え――
「アイツのためにも、オレ……」
「うるさい!」
――話の途中で俺のアーツを食らって何メートルも後ろに吹っ飛んでいった。
「レ、レクス?」
驚いたようなアインの声が耳に届いたが、俺はもうどうでもよくなっていた。
(――ああああ! もう! めんどくせえ!!)
どうして俺がこの通り魔野郎のことを気遣ってやらなきゃならないんだ。
そう考えると、沸々と怒りが湧き上がってくる。
いきなり自国の王子を襲うとか、いくら「主人公」様だからって無茶苦茶すぎるだろ!
もっと後先を考えろ!
そもそも強い剣士になりたいからって他人を襲うなよ!
人と戦ってもレベルなんて上がらないんだから強くなれる訳ないだろ!
あと戦闘の最中に長台詞話すな!
ゲームのテンポが死ぬ!
ひとしきり頭の中で罵詈雑言を吐きまくると、不思議と頭がスッキリした。
(ごちゃごちゃ考えるのはやめ。こうなりゃ、力押しだ)
どうせ未実装のイベントがどうなるかなんて、分かる訳がない。
だったらとにかく状況を制して、イベントの結果なんて関係なく強引に事を運んでしまえばいい。
だから俺は、自分から前に進む。
倒れた銀髪の少年の眼前に立ち、剣を向ける。
「その程度か?」
「なっ!?」
明らかな侮蔑を含んだ俺の言葉に、ルインは激昂する。
「ま、まだまだぁ!」
立ち上がり、剣を振り上げようとするその出先に、
「〈ウインドボム〉、〈尖衝波〉!」
風の魔法をぶつけて体勢を崩させ、避けようのない姿勢にしてからノックバック技を叩き込む。
碌な戦闘の経験のないルインは、成す術もなく地面に転がった。
倒れたルインの喉に、剣を突きつける。
「ぬるいな。欠伸が出る。……まさか、これがお前の全力か?」
「な、舐めるな! 〈バーニング――」
「〈風神来〉!」
立ち上がり、おそらくは未知の技を放とうとするルインに先撃ちで加速技をぶち込み、出足を潰す。
「〈飛閃掌破〉!」
「が、はっ!」
剣が泳ぎ、死に体となった胴体に、続けざまに格闘スキルを叩き込んだ。
ルインは三度、地面に転がる。
もうヤケクソだった。
憎悪すら浮かべて俺をにらむルインの顔を、今だけは心地よく感じながら、俺は悪役さながらに手をくいくいっと動かして挑発する。
「――さぁ、こいよ。俺が稽古をつけてやる」
※ ※ ※
そうして、何十回ルインを地面に叩きつけただろうか。
ついに、時間切れの時がやってきた。
「くぅ! まだ……え?」
振り上げたルインの手から、〈光輝の剣〉が薄れて消える。
そして同時に、まだ何の攻撃も受けていないはずのルインの膝が、ガックリと折れて崩れ落ちた。
(……はぁ。やっとか)
確か、ブレブレの〈光輝の剣〉は、覚えたばかりでは一分程度しか維持出来なかったはずだ。
優に二分くらいはやり合っていた気がするが、これが新主人公だけの独自仕様ということなのだろうか。
ゲーム時代、この時間制限に散々悩まされた身としては、正直めっちゃくちゃ羨ましい。
ともあれ、ある意味ここからが本題だ。
もう戦う力は残っていないだろうが、この復讐の鬼をどうにかなだめて、ついでに身柄を何とかこっちに……。
「――すみませんでした!」
「……へ?」
しかし、そんな俺の計算は、ルインの想像もしなかった行動によって木端微塵に打ち砕かれた。
ほんの数秒前まで、殺意すら感じられるほどに激しく俺をにらみ、剣を交えていた銀髪の少年は、
「――無理を承知で、お願いします! どうかオレに、剣を教えてください!!」
額を地面にこすりつけ、必死の声音でそんなことを頼んできたのだった。
わりぃ……
毎日更新、やっぱつれえわ
まあでもたぶん明日も更新します!
おうえん…して……(日記はここで途切れている)





