第百八話 蘇った少年
レクスは怒ってますが、個人的にはまあ価格次第でありかなと思います
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DLC第五弾!
空前絶後の超超アップデート!!
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確か、当時のDLCの予告には、そんなことが書いてあったと思う。
その時ブレブレにドはまりしていた俺は、その予告が目に入るや否や、光の速さでブレブレの公式ページに飛んだ。
そこで最新情報の欄に飛ぶと、短い紹介動画が入った。
銀髪の少年と、邪悪な魔法使いが向かい合っているゲーム画面。
特に美しい映像という訳でもなかったが、俺は引き込まれた。
(どっちも見覚えがない! 追加キャラか!?)
俺が身を乗り出して見つめる中、銀髪の少年が右手を掲げ、〈光輝の剣〉を呼び出す。
そして降り注ぐ魔法をかいくぐり、
「――〈究極神剣 破天〉!!」
見たこともない動作で聞いたこともない技名を叫ぶと、魔法使いに斬りかかる。
少年の剣と魔法使いの杖が激突し……そこで動画は終わった。
「すげえ……!」
たった数秒の動画だったが、俺にDLCへの期待感を煽るには十分だった。
俺は慌ててDLC情報のページに飛んだ。
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DLC第五弾!
空前絶後の超超アップデート!!
内容
・新たなる出自!
主人公の出自に「魔の島の少年」を追加
このスタートだけの驚きの特典とは!?
・新たなる流派!
プレイヤーの皆さんの破壊欲をさらに促進!
超消費&超威力の一撃が全てを過去にする!!
・新たなる敵!
存在するはずのない七番目の〈魔王〉が出現!!
「魔の島」と深く関わるこの敵の正体は!?
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「なるほど、さっきのは新しい〈魔王〉か」
道理で見たことがないはずだ。
正直、新しい出自にはあまり興味が湧かなかったが、新しい技と追加の〈魔王〉にはワクワクしてしまった。
さらにページをスクロールしてみると、今度は新主人公のデフォルトのビジュアルと、その設定が書かれていた。
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・キャラ紹介「魔の島の少年」
【ルイン・スラーツ(名前変更可能)】
「――オレは、世界一の剣士になる」
外界から隔絶した島で、やがて有名な剣士になることを夢見て質素だが穏やかな暮らしを送っていた少年。だが彼の十七歳の誕生日、「漆の魔王」の襲撃によってその日常は脆くも崩れ去った。
家族を失い天涯孤独となった彼は、愛用の剣と形見のペンダントだけを手に生まれ育った島を飛び出す。全ては魔王に復讐を遂げ、「夢を叶えて」という妹の最期の願いに応えるために……。
今、少年の孤独な旅が始まった……。
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「復讐系かぁ」
ブレブレでは割とハードな設定のイベントが多いので、想定の範囲内と言えば想定の範囲内だ。
それに、画像の暴力と言うべきか。
どうせ主人公の容姿なんて適当に変えると分かっているのに、こういう形でビジュアルを載せられて、ストーリーを見せられるとプレイしたくなってしまう。
我ながら単純だなぁ、と思いながらさらに次、新しい出自に関する詳細のページに飛んで、俺はそこで凍りついた。
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☆☆追加DLCを購入してライバルに差をつけよう!!☆☆
「ブレブレは難しすぎる!」と嘆いていた皆さんに朗報!!
新たな出自「魔の島の少年」はここがスゴイ!!
1.初期レベルが30!!
ちまちまとレベル上げなんてする必要はありません!
この魔の島スタートなら最初から無双状態!
オープニング直後に遺跡を攻略することも可能です!
2.最高の能力値と素質!!
オープニングでパワーアップイベントがあるため
レベル以上に強い状態でゲームが始まります!
強くなりすぎて物足りなくなっちゃうかも!?
3.超強力な専用クラス!!
クラス選びの悩みとはこれでおさらば!?
新主人公専用の超強力な新クラス「シャイニングレオ」を
初期クラスにしてスタート!!
4.「光輝の剣」が最初から使える!
主人公専用のスキル「光技」の内容を一新!
新たな「光技」なら初期から「光輝の剣」が使用可能な上
新技が増えて既存の技も使いやすく生まれ変わっています!
5.全く新しいストーリー
魔の島の少年スタートでは「漆の魔王」との
因縁を軸にした独自のストーリーが展開!
やり込んだ人ならニヤッと出来るイベントも?
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「なんだよ、これ……」
俺は思わず、画面の前でつぶやいた。
ブレブレには、難易度設定がない。
一般に、こういったゲーム性の高いゲームではプレイ前に、ビギナー、イージー、ノーマル、ハード、ナイトメアやインフェルノ、エッチはエッチでも Hell の方だがなぁぁぁーっ!のような何段階かの設定から自分に合った難易度を選ぶものが多い中、ブレブレで選べるのは「主人公」の出自だけ。
そこで序盤の難易度が左右されるものの、《捧げられた闇の御子》のようなとんでもスタートを選ばない限り、中盤以降はそこまで大きな違いは発生しない。
厳しい世界を、それでも少しずつやり方を覚えて進めていくのがブレブレの醍醐味で、持ち味だったはず。
(なのに、これは何だよ……!!)
本当の意味での「公式チート」。
こんな主人公が実装されれば、ブレブレのゲーム性は全て否定される。
頭をひねっていかに強いクラスを早く見つけられるか考えていた時間も、どうすれば効率的にレベル上げを出来るか考えていた時間も、全て無意味だ。
――そんなものをやるよりも、ただこのDLCを買えばいい。
初期から強力なクラスを持った、初期レベル30の主人公。
そんなもの、ほかの出自の主人公でどんな効率プレイをしても、敵う訳がない。
……本音を言えば、理由は推察出来た。
ブレブレの関連情報を調べるうちに、ブレブレの開発会社がやばいんじゃないかというネットの噂を目にすることがあった。
おそらく、進退窮まった開発はついに、「禁断の果実」に手を出したのだ。
市販のRPGにおける最大の禁じ手。
――課金限定の強キャラの実装、に。
ブレブレはこだわりもあって、非常に難易度が高い。
それは開発側も把握していただろう。
だからそのこだわりを全て捨て去り、その全てを解決する新主人公をDLCで実装し、手っ取り早く金を儲けようと考えたのだ。
さらに言うと、俺が期待していた新しい技も新しい敵も、察するにこの追加主人公のルートを選んだ時の専用のもの。
もしそうだとすると、追加要素は実質この出自一個だけなんじゃないかという疑惑すら湧いてくる。
とはいえこの時点では俺も、何とか怒りを飲み込もうとは思った。
ブレブレが難易度の高いゲームだというのは事実だ。
もしこれを機にプレイヤーの裾野が広がるならば、それは歓迎すべきことなのではないか。
それに、これは選択の自由を与えるだけで、やり応えを求めるなら単にDLCを買わずに、あるいは買っても使わずに縛ってプレイすればいいだけだ。
俺はそう考えて、荒れ狂う感情の波を必死に抑えた。
だが、だがしかし、だ。
予告ページの最後に書かれていた、
販売予定価格 7980円
の文字が全てを終わらせた。
呪われた数字、7980。
そう、あの〈ダイナミックモーションZ〉と同じ、七千九百八十円である。
(結局は金の亡者じゃねえかこいつらああああああああ!!)
俺は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の開発を除かなければならぬと決意した。
俺は怒りの収まらぬままネットの掲示板を見てみると、「シンプルにクソ」「最悪」「はーもう死ねばいいのに」と、いつも静かな掲示板もその時ばかりは大盛況だった。
そして、その願いは叶ってしまった。
……死んだのだ、開発会社が。
もしかすると、このDLC予告はブレブレ開発チームの発した最後のSOSだったのかもしれない。
いや、だからといって本体よりも高いDLCとか正気の沙汰じゃないし、販売会社の審査とかあったら通らないんじゃないかと思うのだが、まあそれはともかく。
ブレブレの開発会社はあっさり倒産した。
俺のやり場のない思いと、即日ダウンロードストアにチャージした八千円を置き去りに、潰れてしまったのだ。
DLC第五弾は大仰な予告をしただけで結局発売されることはなく、新主人公である「ルイン」は日の目を見ることなく電子の海に溶けていった。
その、はずだったのだが……。
(こいつが、〈魔の島の少年〉か!)
数年の時を経て、少年は不可思議なこの世界に蘇り、俺の前に再びその姿を見せたのだった。
次回更新は(たぶん)明日!
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