第百七話 既視感の正体
――眼前に迫りくる光の剣。
明確な命の危機が迫る中でも身体は自然と動き、振り下ろされる剣に対して剣を横にして受けようとする。
しかし……。
(――あぁ、なるほど。そういうことか)
その時になってようやく俺は、事態を理解した。
自然と動きそうになる身体に逆らって、光の剣に突っ込むように足を踏み出す。
「なっ!?」
目の前の「暗殺者」から焦ったような声が漏れる。
俺を真っ二つにする勢いで、ノーガードの顔面へと振り下ろされる〈光輝の剣〉。
だが、その一撃が俺を捉えることはない。
「――〈瞬身〉」
剣が俺に触れた瞬間、俺は「暗殺者」の後ろに瞬間移動していた。
「えっ?」
予想外の出来事に思わず固まる「暗殺者」を見て、ため息をつく。
(またイベントに呑まれてた、か)
様々な違和感があったが、振り返ってみれば一番おかしいのは俺自身だった。
戦闘では、俺は条件反射レベルでマニュアルアーツを使う癖がついている。
それが純粋な剣技だけで敵と渡り合って、なんかよく分からん技術でアーツも使わずに敵の剣を絡めとるとか、いくらレクスの技が身体に染みついてたって不自然極まりない。
要するに一連の攻防はイベントシーンの一部。
ゲームによって定められていた流れだったのだろう。
イベントに酔う、とでも言えばいいのか。
自覚するまで自然な行動を取っていると思い込んでしまうのだから、やはりイベントの強制力というのは恐ろしいものがある。
(俺の役目は差し詰め、この「暗殺者」の強さを印象付ける当て馬、ってとこか)
もし、俺が流れに逆らわずにあのまま〈光輝の剣〉の攻撃を剣で受けていたら、俺はきっと少なくないダメージを受けていただろう。
しかし一方で、死ぬほどの怪我を負ったとも考えにくい。
推定だがこれは、「あ、あのレクスに手傷を負わせるなんて!?」と「暗殺者」の株を上げるための一幕なのだ。
俺が「レクス・トーレン」だからその役目を割り振られたのか、単に同行している戦士キャラクターなら誰でもよかったのかは謎だが、便利に使われたことには腹が立つ。
ただ今はその怒りを抑えて、状況を見極めるべきだろう。
「い、いつの間に……!?」
ようやく俺が背後に回っていたことに気付いた「暗殺者」が俺に剣を向け直す。
その姿はとても教育を受けたアサシンとは思えず、経験不足を感じさせる。
(ならやっぱり、こいつは「主人公」……なのか?)
〈光の勇者〉にしか使えない〈光輝の剣〉を生み出した以上、この「暗殺者」こそが「主人公」だと考えるのが自然だが、確証が持てない。
「主人公」の容姿や能力は、プレイヤーによって自由に変えられる。
一応各出自ごとにテンプレートのようなものがあったと思うが、正直そんなの覚えてないし、その通りになっている保証もない。
実際、目の前に立つ「暗殺者」とゲームで遭遇した記憶はない。
ただ一方で、どこかで見たような引っかかりがある。
届きそうで届かない。
そんなもやもやした思いを抱えながらも、俺は〈看破〉を発動させる。
―――――――
ルイン
LV 35
HP 740
MP 165
筋力 405(A-)
生命 320(B)
魔力 115(C-)
精神 335(B+)
敏捷 205(C+)
集中 360(B+)
能力合計 1740
ランク合計 64
―――――――
(なん……だ、これ!?)
まず、「ルイン」という名前。
アインとどこか共通点があるが、ゲームで見た覚えはない。
なのにどこかで見た覚えがあるような、さっきと同種の戸惑いがある。
だがそれ以上に、ルインの能力に目が行く。
行ってしまう。
(強すぎるだろ、これは!!)
レベルは今のラッドたちと同等な上、能力の割り振りはともかく、総量だけで言えば計算して育成を行ったラッドたちよりも上だ。
まだゲーム開始からそこまでの日が経っていないし、俺はかなりの駆け足で育成を進めてきたという自覚がある。
いくら素質に恵まれた「主人公」だとしても、ここまでの伸びが実現出来るものなのか。
いや、「主人公」がNPCになった例なんてない訳だから、どんな育ち方をしていても一概に否定することは出来ない。
出来ない、が……。
(くそ! 何がどうなってる!!)
事態は明らかになってきているはずなのに、知れば知るほど混乱が募る。
焦燥を隠しながら互いに剣を構えながらにらみ合っていると、「暗殺者」の方から口を開いた。
「王子の傍にいる黒尽くめの剣士。まさかお前が〈極みの剣〉か?」
「は?」
全くの想定外の言葉に、思わず素の反応を返してしまった。
いや、〈極みの剣〉ってなんだよ。
そんな厨二全開の名前、ゲームですら聞いたことないぞ。
「人違いだ」
俺は平静を装って首を振ったが、内心では狼狽していた。
ここへ来て新情報とかやめてくれ。
あとアインも、ちょっとは部下を選んでくれ、と言いたい。
「とぼけるつもりか!」
相手にはなぜか激昂されたが、知らないもんは知らないし、暗殺者相手に正直に答える義理もない。
代わりに、こちらからも質問を投げかける。
「お前は、ニーバーの『遺跡攻略者』か?」
「っ!? こっちのことは、お見通しってことか」
明らかに動揺を見せたものの、相手は否定しなかった。
つまり、この「暗殺者」がニーバーの遺跡を攻略した「光の剣の使い手」なのは間違いないだろう。
しかしこいつが「主人公」だとして、ここでアインを狙う理由がさっぱり分からない。
まさか、と思いつつ、次の質問を投げかける。
「テレビ、自動車、インターネット。これらの言葉に聞き覚えは?」
「知らないな。魔法か?」
嘘をついている様子もない。
その異様な強さも、謎の行動を取っているのも、俺と同じ転生者だと考えれば辻褄は合うと考えたが、その可能性も消えたようだ。
だとすると、ますます分からない。
仕方なく、俺はその疑問をストレートにぶつけることにした。
「冒険者が、なぜ王子を狙う! アインを殺してどうするつもりだ?」
「殺す? オレはただ、強い剣士と戦いたいだけだ」
「な、に……?」
またまた予想外の返答に、俺は一瞬言葉を失った。
(こいつ、戦闘狂かよ!!)
いまだに混乱が収まらない俺に、「暗殺者」いや、「主人公」が叫ぶ。
「――オレは、世界で一番の剣士になる! ならなきゃ、いけないんだ!」
その奇妙なほど切迫した言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中で、何かがカチリとはまり込んだ。
ルインという名前、記憶を刺激する容姿、聞き覚えのあるフレーズ。
それに「光の王子アインの暗殺」イベントに酷似した、しかし見たことのないイベント。
全ての点と点が、線でつながる。
――そうだ!!
うろ覚えでも当然だった。
俺がこいつの姿を見たのは、ゲーム内じゃない。
公式の予告した最後にして最悪のDLC。
DLC第五弾「追加主人公」のキービジュアルだ!!
最悪のDLCの中身は次回!!
「5月まで書き溜め作ってGWは連続更新します!」ってにじゅゆの方で言いましたけど、ここだけの話、初日の朝の時点で書き溜め二行しかなかったんですよね!
いやーよく続いてるもんです!
もうストック作るとかいう非現実的な夢はあきらめて自転車操業で頑張っていくので、やる気が途切れないように皆さんも感想とか評価ポイントとかポコジャカ入れて応援してください!
いいですねッ!(謎の強気)





