第百四話 生贄
なんかまた間があいた錯覚がしますが更新再開です!
というか一度更新が途絶えると死ぬと分かってきたので、ゴールデンウィークは一話を心持ち少なめにして毎日更新をしていくつもりです
止まるんじゃねえぞ!!
「構え! 〈エアスラッシュ〉!」
「〈エアスラッシュ〉!」
王都の訓練場に、気合いの入った叫びが響き渡る。
王都中に響きそうな声で叫びながら剣を振り下ろしているのは、〈聖光騎士団〉の面々だ。
各々の攻撃の速度は若干のばらつきがあるため一糸乱れぬ、とは言わないまでも、一斉に、整然と武器を振るってみせる。
「次! 〈紅蓮撃〉!」
「〈紅蓮撃〉!」
騎士たちが振るう武器が炎を帯びる。
それを眺めながら、「聖光騎士団臨時教官」とかいう長ったらしい役目を賜った俺は、内心で感慨に耽っていた。
何しろ、今騎士たちが一斉に使っているのはただのアーツではなく〈マニュアルアーツ〉。
あの光景こそが、俺の指導が無意味ではなかったという証拠の一つなのだから。
「――だいぶ、形になってまいりましたな」
そんな俺に近寄り、まるで俺の心を読んだような言葉をかけてきたのはセルゲン将軍だった。
質実剛健、と見せかけてなかなかの茶目っ気を持っているこの歴戦の戦士に、俺は腕を組んだまま答えた。
「手を焼かされたからな。この程度、やってもらわないと困る」
年上の将軍相手にタメ口を利くのは内心ビクビクものなのだが、王子にタメ口で将軍に敬語使っているとそれはそれで問題にされかねない。
あくまでレクスロールプレイでふてぶてしい態度を保ちながらも、俺はこれまでを思い返す。
初日のアイン王子との決闘。
それからの騎士たちとの百人組手でどうなるかと思ったが、二日目からは驚くほど普通の指導になった。
いや、普通というのは違うか。
初日に殺意でギラギラしていた目を、今度はやる気でギラギラにさせて、俺に迫ってきたのだ。
流石に騎士団だけあって統率は取れていて、俺に無茶を言ったりはしなかったのだが、熱意ってのも時に暴力になるんだなぁと感じるほどすごい迫力をしていた。
「実際に剣を交えたからこそ、その有用性が見えてきた、ということでしょうな」
などとセルゲン将軍は言っていたが、あの泥沼の百人組手をそんな美談みたいに片付けないでほしい。
ともあれ、初日のあの殺気立った様子からは窺い知れないところだが、ゲームでの〈聖光騎士団〉というのは戦闘力も人格も優れたエリートの集団であり、人々の憧れの存在だった。
この世界でも全員が呑み込みが早く、大抵が最初につまずく「武器に魔力を通す」という技術も大半が比較的早く習得し、指導から十日経った今、ああして全員がマニュアルアーツを扱っている。
「ここだけの話、すでに実戦においても成果は出ておりましてな。彼らがまともに使える技は三種類ほどですが、それだけで魔物の殲滅速度が明らかに違う」
マニュアルアーツの指導については、ラッドたちや冒険者たちにやって一応のノウハウがある。
指導期間が短いこともあって、騎士たちにはおそらく一番使うことになるだろう三種類の技を徹底的に指導した。
かつてのラッドと同じように、今は正面に一定の速度でしか撃つことは出来ないが、それでもマニュアルアーツの威力、応用力はオートのアーツとは比べ物にならない。
税込み二万三千七百六十円を生贄にした力は伊達じゃないのだ。
「なぜもっと早くあなたをここにお呼び出来なかったのか、それが悔やまれます。何でしたら、騎士団教官の称号を期間限定ではなくすというのも……」
「悪いが、やることがあるんでな」
意外にも、騎士の中にも「俺に指導を続けてほしい」と言ってくる人間が何人かいた。
評価してもらえるのは嬉しいが、俺が騎士たちに指導をしているのはあくまで「主人公」捜索のため。
それに、今の俺にはもっと頭を悩ませなければならない問題が残っているのだ。
※ ※ ※
「……さて」
騎士たちに見送られ、訓練場をあとにする。
基本的に、騎士団の指導は午前中まで。
それでも普段ならしばらく訓練場に残って、クラスの熟練度上げをしたり、指導の続きをしたりするのだが。
(……いい加減、決めないとな)
今日ばかりは、訓練も指導もお預けだ。
護衛としてずっとついてくれていたレシリアにも「一人で考えたいことがある」と言って離れさせ、俺はブレブレの情報が書き記された手書きの手帳を開く。
周りに誰もいないことを確認してから、何度も読み込んで開き癖がついてしまったページを、俺はもう一度読み返した。
――――――――――――
【魂の試練によるステータス振り直し技】
ゲーム開始から一定時間経過後に発生する「光の王子の失踪」イベントからの連続イベント「魂の試練」を利用することによって、疑似的な「ステータスの振り直し」をするというテクニック。
育成に失敗したキャラを正しく育て直せることが一番のメリットだが、必要な装備をそろえ、計画的に行うことで必ず能力値の総量を大幅に上げられるため、仮に最適な育成をしていた場合でも実行するメリットはある。
ゲームを通じて一回しか行うことが出来ず、その手順の複雑さからプレイヤー以外での実行は不可能なため、実質的にはプレイヤー専用の強化イベントと言っても間違いではないだろう。
しかし、その効果の大きさに比して達成の難易度も高い。
「魂の試練」イベント自体のクリアが非常に困難であり、パーティ人数たったの二人、しかも制限を受けた状態で、レベル五十を誇るボスを倒す必要がある。
通常の育成状況での達成は難しいため、狙うのであればゲーム開始直後からこのイベントを視野に入れ、プレイヤー自身の強化に加え、参加キャラクターの選定と育成を行うことが急務となるだろう。
ただし、最大の留意点として、試練に連れていく仲間は必ず「主力にするつもりのないキャラ」を選ぶこと。
理想を言えば、「一緒に戦えばギリギリ試練をクリア出来る程度に強いが、それ以上の伸びしろのないキャラクター」が望ましい。
なぜなら、この技はあくまでキャラクターの能力値を調整するテクニックであり、この方法でもってプレイヤーの能力値を上げた場合、連れて行った仲間の能力値は致命的に減少するからである。
――試練の難易度を鑑みて、どれだけ最適な「生贄」を選べるか。
それが、この試練の最大のポイントとなる。
――――――――――――
パタン、とページを閉じて、その場に突っ伏す。
「……はぁ」
これが、俺の目下一番の懸案事項だ。
この【魂の試練によるステータス振り直し技】でレクスを育て直すことは俺の中では決定事項だ。
ただ、俺と一緒に〈魂の試練〉を受けてくれる「生贄」を……いや。
生贄と言うとちょっと誤解を生むので「協力者」としておこうか。
この「協力者」を誰にするかを、俺はいまだに決めかねているのだ。
(能力的に考えるなら、実質三択なんだよな)
試練を乗り越えられる程度の力を持ち、そんな胡散臭い試練にほいほいとついてきてくれる相手となると、ラッドたち〈ブレイブ・ブレイド〉の面々か、レシリアだけ。
ただ、〈魂の試練〉は能力を好きに振り直せる訳ではなく、法則に従って「キャラクターの能力を調整する」ものだ。
諸々の条件を鑑みて振り直しの効果を考えると、「協力者」は筋力の高い相手が望ましい。
――ラッドかプラナか、あるいはレシリア、か。
究極の選択だ。
(詳細を伝えずに協力してもらうならプラナ、か? でも、プラナはプラナで読めないところがあるからなぁ)
誰に頼んでも快く受け入れてもらえそうだし、誰に頼んでも難色を示されそうで困る。
いや、そもそもこの三人の中から選んで本当にいいのかという迷いもまだ残っている。
俺だってこれだけの期間面倒を見ていれば、流石に情くらいは湧く。
欲を言うなら身内にはほかより強くいて欲しいという気持ちはあるが、しかし……。
(うああああ!! もう突然どっかから最適な「協力者」が降ってこないかなぁ!!)
やけくそになった俺が思わず天を仰いだ時、
「やぁ、レクス。探したよ」
まるで図ったようなタイミングで声がかけられた。
だが、振り返った先にあったのは神の助けなどではなく、
「アインか。悪いが今は、お前に構ってる暇、は……」
とびきりの悪戯に成功したような悪い顔をしたイケメン王子と、
「――紹介しよう。彼女はロスリット。僕の、最愛の人だ」
その王子に寄り添う、フェイタルイベントを背負った王子の婚約者だった。
次回更新は明日!
コミックと二巻以外に何かを宣伝する予定だった気がしますが小説書くのが大変で忘れました!!
あ、コミックと二巻は26日に出るのでよろしくお願いします!





