第百三話 決意
デデーン!!
「主人公じゃない!」書籍二巻 & 「主人公じゃない!」コミック一巻
の発売日が五月二十六日に決定しました!!
表紙はレクスVS剣聖ニルヴァ!
ニルヴァのデザインは色々あってどういう風にしてもらうか悩んだんですが、結果的にかなりカッチョイイのを描いてもらえたなーと
もうアマゾンさんとかでは予約始まってるらしいのでよろしくお願いします!!
そして二巻のあとがきの締切を伸ばしてもらえたので無事に更新です!!
(あとがきが無事とは言っていない)
男二人、言葉もなく並んで、ぼんやりと星を眺める。
何の意味もない、全くの無駄な時間。
だが、こんな時間も、なかなかいいものに思えた。
「ああ、そういえば……」
「うん?」
ただ、ぼんやりと星を眺めているうち、俺はアインに聞いてみたかったことがあったことを思い出した。
「昼間、俺たちと出会った時。俺が記憶を失ってるって話をすぐに信じたのはどうしてだ?」
言ってはあれだが、記憶喪失だなんて荒唐無稽な話、笑い飛ばされてもおかしくなかったはずだ。
それをあれほどすんなりと信じたことが、俺の中でずっと引っかかっていた。
「その質問をする時点で、君が記憶をなくしていると自分で言っているようなものなんだけどね」
「どういう、ことだ?」
俺は重ねて尋ねたが、アインは首を振った。
「これは、僕から説明する訳にはいかないな。君のいじらしい妹に怒られそうだ」
「いじらしい、ねぇ」
俺の知っているレシリアとはまるで一致しない人物評に、俺は首をかしげた。
しかし、アインはこれ以上この話題に突っ込むつもりはないようだった。
出来の悪い弟でも見るような目で俺を見ると、諭すように口を開き、
「君も、女の子は大切にしないといけないよ。この前、ロスリットも……」
そこまで言いかけて、首を振った。
「ああ。彼女のことも、忘れているんだったね。ロスリットっていうのは僕の……」
「婚約者、だろ」
俺が言うと、アインは照れ笑いを浮かべた。
「なんだ。知ってたのか」
「そりゃ、有名な話だからな」
……そう。
アインには公爵の娘であるロスリットという婚約者がいる、というのはゲームでも有名な話だった。
婚約者キャラがいると女性人気が下がりそうなものだが、〈光の王子アイン〉はまるで逆。
婚約者のことを話しているアインが可愛いだとか、恋人を大事にしているところが好感が持てるとか、そういう意見が多かったはずだ。
まあ、アインに婚約者がいてもあまり人気が下がらなかった理由は見当はつく。
一つには、ブレブレでは女性主人公が選べなかったことと、それから、もう一つ。
イベントの進め方によっては、ロスリットは……。
「さて。名残惜しいけど、僕はそろそろ行かないと。明日は朝から忙しいからね」
俺が考え事に没頭していると、アインが欄干から背中を離す。
どうやら、雑談の時間は終わりらしい。
「流石、王子様は大変だな」
いまだに欄干にもたれたまま俺がそう口にすると、アインは嫌味なく笑ってみせた。
「普段はそれほどでもないんだけどね。ただ、もうすぐ〈王の試練〉がある。その準備をしなくちゃいけないのさ」
「〈王の試練〉……」
その言葉に、ドクンと心臓が跳ねる。
「〈王の試練〉というのは、ブライティスの王族が挑まなければならない通過儀礼なんだ。定められた装備だけで指定されたダンジョンに挑み、その最奥で儀式を果たす。試練を乗り越えた暁には、王家に伝わる『力』を継承出来ると言われている」
知っている。
俺は、誰よりもそれを、知っている。
――なぜならそれが、〈魂の試練〉のトリガーだからだ。
これからアインは〈王の試練〉に挑み、そして〈魔王〉の罠にはまって行方不明になる。
そうしてアインが姿を消してから、自力で罠を抜け出すまでの数週間。
それが、「主人公」が〈魂の試練〉に挑戦出来る唯一の期間となる。
喉が、カラカラに乾く。
俺は〈魂の試練〉を利用してアインより強くなる。
さっき、そう誓ったばかりだ。
だから、〈王の試練〉は受けてもらわなきゃならない。
こいつは止められないし、止めちゃいけない。
なのに……。
「それは、絶対にやらなきゃいけないことなのか?」
なのに気付けば俺は、かすれた声でそう尋ねていた。
俺の言葉に、王子は屈託なく笑う。
「あはは、君も今時あんな試練は前時代的と思うかい? 確かに王に必要なのは、必ずしも個人としての強さじゃない。だけどね」
穏やかな表情でアインは振り返り、王宮から見える街の明かりを眺める。
「こんな時代だ。僕に力があれば、それだけ多くの人間を守れるかもしれない。だから、僕は行くよ。たとえ誰が止めても、ね」
「……そう、か」
そう答えて、俺はそっと天を仰ぐ。
ゲームにおいて。
〈王の試練〉は何のリスクも生まないイベントだ。
救出に行って〈魂の試練〉を起こしても死亡リスクはほとんどなく、もし救出しに行かなくてもゲーム的には何のデメリットも発生しない。
放置してもアインは死なず、勝手に強くなって帰ってくるだけだ。
けれど……。
ゲーム的ではないデメリットなら、発生する。
〈魂の試練〉がそうであるように、その基となる〈王の試練〉も二人一組で行われる。
そのためにアインは、「将来王族となるはずの女性」と、自らの愛する婚約者ロスリットと共に〈王の試練〉に挑むのだ。
そして、「主人公」が〈魂の試練〉を受けずに放置する、あるいは〈魂の試練〉を上手くクリア出来なかった場合……。
(――アインの婚約者、ロスリットは、自分の命を捧げて敵の罠を打ち破る)
空の星が、ぐるぐると回る。
忘れかけていたこの世界の厳しさに、のしかかった命の重さに、押しつぶされそうになる。
だが、
「……アイン!」
俺は立ち去る背中に向かって、声をかける。
「これから何があっても、あきらめるなよ。最後の瞬間まで、あきらめずに戦え。そうしたら……」
「そうしたら?」
不思議そうに振り向いたアインに、俺は傲然と言い放った。
「――俺が、助けに行ってやるよ」
真顔で言った言葉を、きょとんとした顔で受け取ったアインは、心底おかしそうに破顔して、
「頼りにしてるよ、親友」
曇りのない笑顔を見せて、戻っていった。
「はぁ。柄じゃ、ないんだが……」
無人となったバルコニーで、俺はふたたび天を見上げる。
(負けられない理由が一つ増えた。ただ、それだけだ)
俺は身勝手で我がままな人間だ。
だからこそ、自分の我がままに巻き込む以上、誰も死なせない。
そんな決意を胸に、俺は空に手を伸ばす。
――指の隙間から見える星空では、まるで作り物のように輝く星が、キラキラと瞬いていた。
たぶん小説書いたことある人の八割くらいが賛同してくれると思うんですが、夜のシーンの星空の使い勝手の良さは異常
あ、ちなみに一応言っておくと、前話で言った休載中の修正点は、素質鑑定の手続きで鑑定用紙手渡しするのが係員って書いてたのをレクス本人に修正したのと、アインに対する決め台詞のとこで肝心の引用した文章が間違ってたのでそこの修正と、あとはなんか日付関連だったはずです
まあどれも今後に関わる部分ではないので、これまで気にならなかった人は特に思い返す必要はないかなと
次回更新はたぶん明後日です





