第百二話 星下の誓い
うおおおおお今日も更新間に合ったぞおおおおおおおお!!
ということで、エイプリルフールの予告通り、今日から余裕の更新再開です!
あ、休載中に書籍化作業してる間に見つけたガバとかちょこちょこ修正しました
あとなんか連絡することあった気がしますが思い出せないので本編どうぞ!
「……つかれた」
豪華なバルコニーの手すりに寄りかかるようにして身を預け、ぼそりと呟く。
光の王子アインとの決闘のあと。
俺は訓練場で一日中騎士たちの相手をしたあと、「今日はもう遅いから」とよく分からない理屈で王宮に招かれ、俺たちは王宮のおそらく客人用である部屋に宿泊することになった。
王宮の客間は豪奢な作りで見るからにすごい部屋だったのだが、俺は根っからの一般庶民だ。
豪華すぎる部屋ではどうにも落ち着いて寝られず、ついふらふらと部屋の外に出て、王宮の庭園を見渡せるバルコニーにやってきてしまった。
「……はぁ」
なんとなくのノリで騎士団の指導なんて引き受けてしまったが、これって案外大変なことじゃないだろうか。
そもそも俺がここに来たのは、「主人公」の捜索のため。
あの「闇深き十二の遺跡」を攻略した冒険者を見つけるためだ。
それが、どうして王子と決闘やら騎士団の指導やらになってしまったのか。
(それもこれも、全部あのチート野郎のせいだよなぁ)
一国の王子でありながら、戦闘力も最強という〈ブレイブ&ブレイド〉で一番のぶっ壊れキャラ。
憎たらしいあのさわやかな笑顔を思い出しながら、天を仰いで星空を眺めていると……。
「――やぁ、レクス。こんなところにいたんだね」
噂をすれば影、という奴だろうか。
今回の元凶、アイン王子がノコノコとやってきた。
「お前、あんなことやっといて、よく顔を出せるな」
決闘までの流れが仕組まれたこともそうだが、正直、決闘に勝ってからの方が大変だった。
勝負事だったとはいえ、騎士たちが敬愛する王子を目の前でぶん殴ったのだ。
当然、それで収まるはずもない。
騎士たちが殺気立ち、一触即発といった空気の中で、この王子はこともあろうに奴らをけしかけやがったのだ。
「これで彼の実力を疑う人はいないね。それじゃあ、君たちも彼に稽古をつけてもらうといい。……そうだね。初日だし、君たちの実力を見せるために僕みたいに決闘するのはどうかな?」
アインがそう言った時の、騎士団の連中の目の色の変わり具合は今でも忘れられない。
流石に騎士だけあって一対一のルールだけは守っていたが、俺を倒そうと我先に群がってきたのはトラウマだ。
そうして突如始まった騎士たちを相手にした百人組手。
全員が高レベルの騎士団を相手に連戦はほんとにきつかった。
特に、一般騎士団員にしれっと混じってきたセルゲン将軍。
世界一決定戦で剣聖ニルヴァに負けてから密かに訓練していたのか、突然マニュアルアーツを繰り出してきた時はほんとに肝が冷えた。
まあ全部勝ったけどな!
ざまあみろ!
しかし、アインは俺の嫌味に対しても、楽しそうに笑ってみせる。
「あははは! ガス抜きだよガス抜き! それに、顔を殴られた恨みもあるし、ね」
「〈決闘の間〉の効果でダメージなかっただろうが」
そもそも、俺とアインの間には大きな能力値の開きがある。
〈決闘の間〉のシステム上、ダメージの有無にかかわらず攻撃を当てられたら敗北になるようだが、あれが現実だとしてもダメージがあったかどうかも怪しいものだ。
アインはにらむ俺を無視して勝手に俺の隣までやってくると、バルコニーの欄干に背中を預ける。
それから、完璧王子らしからぬ行儀の悪さで「んー」と両手を伸ばした。
「いやぁ、ほんとに今日は楽しかったよ。あんなに楽しかったのは、いつぶりか分からないくらいだ」
「俺はひたすら迷惑だったけどな」
「あはは! それは悪かったって! 埋め合わせはするからさ」
すかさず俺が返すと、アインはまた、こらえきれないという風に笑った。
ブレブレでのアインはもうちょっと真面目な奴だと思っていたが、今日のこいつはどうにも笑い上戸らしい。
ひとしきり笑ったあと、アインは手すりに背中を預けたまま、ぽつりぽつりと話し始めた。
「ここだけの話だけどね。僕には、心の底から『友達』と言えるような人はほとんどいなくてね」
「そりゃ、その性格じゃあな」
俺が混ぜっ返すと、アインはやはり楽しそうに笑う。
「あはは。性格や身分、もちろんそういうものもあるんだろうけど、ね」
アインはそこで、何かを思うように、空を見上げた。
上を向いたままのその口から、言葉だけが降ってくる。
「こんなことを言うと、まるで自慢のように聞こえるかもしれないけど」
「うん?」
「どうも、僕はね。……優秀すぎる、みたいなんだ」
ほかの誰が言っても嫌味にしかならないその言葉。
だが、ほかならぬ完璧王子のアインが言うと、その言葉は不思議な説得力を持った。
「昔から、なんだって出来た。勉学も、剣術も、魔法も。僕が何かをするとみんな褒めてはくれるけど、その度に少しずつ、彼らとの距離が開いていくのが感じられた」
空を見上げたままのアインがどんな顔をしているのかは分からない。
ただ、それを確かめようとは思わなかった。
「だけど、ね。その中で、僕と対等に付き合ってくれた数少ない人間の一人が、昔の君だったんだ」
「……そう、か」
ゲームをやっている時から、ずっと不思議だった。
レクスとアイン。
まるで接点のない二人がどうやって知り合い、どうして親しくなったのか。
その詳細は、いまだに分からない。
ただ、俺が想像していたよりも、二人の絆は深いものだったのだろう、ということだけは理解出来た。
「……レクス」
不意に。
天を向いていたアインの顔が、地上へと戻る。
その目は、俺をしっかりと俺を見定めていた。
「やっぱり君は、昔の君とは違うね。姿かたちは同じなのに、まるで別の人と話しているみたいに感じるよ」
「……そりゃ、記憶を全部なくせばな」
アインがそう感じるのも当然だ。
今の俺は、かつての「レクス」とは本当に別人なのだから。
だが、それを明かすことは出来なかった。
得体の知れない罪悪感に胸をチクチクと刺される俺に、しかしアインは手を伸ばした。
「――でも、それを分かった上で、僕は、『今の君』と友人になりたい」
ハッとして王子の顔を見る。
全く曇りのない瞳が、そこにはあった。
「君と本気で戦い合って、こんな風に軽口を言い合って。それは、昔の君とは何もかも違う。……だけど、うん。僕は、楽しかったんだ」
だから、とアインは言葉をつなぎ、
「――僕の、友達になってくれないか?」
そっと、俺に向かって手を差し出した。
(俺、は……)
差し出された手を前に、俺はわずかに躊躇った。
迷惑こそかけられたが、別に俺はこいつが嫌いじゃない。
いや、少なくともここで一緒に話をして、ゲームの最強王子様じゃない、「アイン」という人間に、勝手に親しみのようなものを覚えている自分がいるのを否定は出来なかった。
もしこれが現実じゃなく、ゲームだったとしたら、俺はすぐさまその手を取っていただろう。
だが、俺は首を横に振った。
「悪いが、買い被りだ。俺は自分よりずっとすごい奴が隣にいて、嫉妬もせずに笑ってられるほど、人が出来ちゃいない」
俺は、自分がそんな大層な人間じゃないと知っている。
誤解を抱えたまま、誰かと友人になんてなりたくはなかった。
「そう、か。そうだね。ちょっと、虫がいい話だったかもしれない。それでも……」
「だから……!」
肩を落とし、何かを言いかけるアインを遮るように、
「――俺は、お前より強くなってやる!」
俺は、そうはっきりと言い放った。
「レク、ス……?」
今度言葉を失うのは、アインの番だった。
呆然と俺を見て、目を見開いたまま固まっている。
自分でも、無茶なことを言っているのは分かっている。
確かに、アインはこのブレブレ世界で文句なしのスペックを持つ最強のチート野郎だ。
その素質値の合計は三十六。
素質値の合計が九しかないレクスは元より、二十五の素質値を持つ「主人公」でも総合力ではとても追いつけない。
――だけど、「総合力」ではなく、「戦闘力」でなら。
一つだけ、あるのだ。
部分的とはいえ、この最強チート野郎すらぶっちぎり、それ以上の強さを身に着ける方法が。
そのための最適解、いや、唯一解こそが〈魂の試練〉。
――〈魂の試練〉を利用した、「筋力特化型剣士」への能力振り直し。
それが、ゲーム中隔絶した能力を持つアインを超える、唯一の選択肢。
もちろん、今の俺が簡単にアインを超えられるとは思っていない。
〈魂の試練〉で能力の振り直しをするには入念な準備が必要だし、今の俺は「主人公」ではなくレクスで、この世界の仕様もゲーム時代とはだいぶ異なっている。
(――だけど、可能性はある! あるんだ!)
だから俺は、あきらめない。
この世界で生きるレクスとして、そして、かつてブレブレに青春を捧げた一人のゲーマーとして。
俺は必ずお前を超えてやるという意思を込めて、今度は俺から手を差し出した。
「……まいったな。本当に君には、驚かされっぱなしだ。だけど、はは」
アインは苦笑して、一度引いた手を前に出す。
そうして、さわやかなイメージに似合わない、まるで悪戯小僧のような表情を浮かべて……。
「――これから、楽しくなりそうだ」
踊る星々の光の下で、俺たちは今度こそ手を握り合う。
それは、きっと……。
訳も分からず放り出されたこの異世界で、俺に初めて「友達」と呼べる存在が出来た瞬間だった。
マナ「……うへへ」
ということで、いよいよお待ちかね!
次は「主人公」の話と、二章くらいからずっと引っ張ってきた〈魂の試練〉のエピソードが始まります!
次回更新は二巻のあとがきがすんなり書けたら明日!
そうじゃなかったら明後日です!
つまり明後日ってことです!!





