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乗り換え

作者: ぱらさ

短いのでサクッと読んでいただけるかと思います

「彼は、初めて女性の陰毛をそのキャンバスに描いた画家としても有名なんだ」


 前の彼女と別れて1年、そろそろ新しい彼女をと思っていた時に現れたのが、エリカだった。エリカは積極的だった。実はまだ、しつこく付きまとう元彼がいたみたいだが、僕とつきあい出してほどなく消え去った。エリカとはまだ3か月ほど。今日は週に1度のデート、新鮮で楽しいひと時だ。


 上野の西洋美術館でゴヤの「光と影」展を鑑賞した後、スターバックスの心地よいソファに深く腰掛け、エリカに説明をしていた。彼女はカフェモカを両手で飲みながら、相槌を打つ。僕は、バニラフラッペチーノを吸いながら、説明を続ける。

「知ってたかい?マハというのは、人の名前じゃないんだ」


「私、そろそろ帰らなきゃ。今日は親がお出かけだから、犬の世話とかしなきゃいけないの。」

と、僕の説明を遮った。

 ゴヤについては、もっともっとエリカに知ってもらいたいことが山ほどあったけど、話を切り上げてホームに向かった。



 銀色の車体に緑色のラインを入れた車輌がホームに滑り込んで来て、僕たちは吸い込まれるように乗り込んだ。

 山手線の電車は、乗客がまばらにいる状態で、僕たちは適当な席を選んでシートに腰をおろした。冬の日差しが斜めに射し込み、ゆっくりと走り出した山手線の青っぽいシートの上を、柔らかい光と影が交互に流れて行った。


 エリカは恵比寿のマンションに家族と暮らしている。僕は、戸越で一人暮らしだ。彼女は、このまま山手線で帰宅できるが、僕は五反田で乗り換えることになる。

 そういや、五反田という地名は存在しないって話、エリカに教えてあげたっけかな?


 エリカは携帯でメールを打っているようだ。こうして車内を見回していると、誰も彼もが携帯をいじっているのに気づく。僕たちの向かいのシートには、浜松町から乗ってきた茶髪の男性が、やはり携帯をいじっている。エリカが気になるのか、時々エリカを盗み見している。

 どうやらエリカもそれに気付いたらしく、携帯から顔を上げて、彼の方を見たりして、メールに集中できないようだ。


 向かいの茶髪がいきなり、「やっぱりエリカだよね?隼人だよ?覚えてる?」と声をかけてきた。

 僕とデート中のエリカにいきなり声をかけるだなんて、マナー違反だよと僕は茶髪を睨む。エリカにこんな下品な友達は似合わない。エリカが僕の横顔を見る。

 隼人と名乗った茶髪が、「どう川崎で飲まない?」ってエリカを誘う。もう一度、エリカが僕の横顔を見る。

 この茶髪は僕の彼女を、しかもデート中なのに。なんて奴だ。


 当然断ると思っていたのに、田町駅に到着すると、「ごめんね」の一言とゴヤについて語り足りない僕を車輌に残し、エリカと隼人は、向かい側に停車中の京浜東北線に乗り込んでしまった。


 並んで走る京浜東北線の車輌を見つめながら、

「女ってのは、いつでも乗り換えの電車を探しているんだよな。」

と呟いた。

 そして、2本の列車は離れて行った。

ちょっとでも何か感じるところあれば、他の作品も読んでください。

お願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何で彼女が他の男と飲みに行くのを見送ったのか意味不明なんだが。 別段上手くない言葉を言って自分を納得させようとしてる馬鹿にしか見えない。
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