第四十七夜 「君の一年が美しくありますように」
Live Novel というサービスを使って書きました
これでわたしも速筆になれるかもしれない……
今為すべきこと、成せることをヨーナスとともに考えた。
ヨーナスは手紙の閲覧をこの冬季期間中にできるかを問い合わせつつ、今回の盗難事件の容疑者三名の身元をその出自から追えるか調べようと請け負った。
時は一年が終わるその日だった。
新しい年になれば宮廷舞踏会であり、その期間中になにかを行うなどできないだろう。
まんじりともせずにその数日間を過ごす他ないのか、とユリアンはため息を吐いた。
モーリッツ氏が関与したことが否定される要素が見つかるといい。
接点はマンフレートのみだ。
後の二人となんら関わりがないと証明されれば、筆跡鑑定を待たずしていくらかの安心は得られる。
ユリアンはその点を調べることにした。
イルクナーの家令・ヴァルター氏とじっくり話す必要もあるだろう。
「新年はご夫婦で迎えたらどうですか、伯爵。
せっかくの新婚なんですから」
時計の針が夜半に差し掛かり、ヨーナスはからかうような声色で言った。
「わたしも休むとしますよ。
良い年越しを」
蒸留酒のグラスを持ってヨーナスは泊まっている部屋へと辞した。
その通りだな、と思ったユリアンは、広げた資料を黒鞄へと詰め込んで鍵をかけ、さらに収納棚に隠してそこにも鍵を掛けた。
そしてオイルランプの火を落とし、寝室へと向かった。
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控えめにノックをすると、オティーリエの小さな返事があった。
音を立てずにするりと中に入って、「起きていた?」とユリアンは訊ねた。
「はい。
今年を、見送ろうと思って」
少しだけ開けられたカーテンの窓の景色は、しんしんと雪が振っている。
オティーリエはそこに椅子を寄せて外を眺めていた。
ユリアンも椅子をひとつ取ってそこに並んだ。
手を握るとやっぱり冷たくて、温めながら「少しなにか飲もうか?」とユリアンは訊ねる。
「そうね、少し」という言葉を聞いて、いつもの蒸留酒を戸棚から取り出してグラスに注ぐ。
手渡した後、オティーリエがそれを口に運ぶのを見るともなしに見て、ユリアンは説明すべき言葉をなにも考えていなかったことに気付いた。
オティーリエは何も訊ねなかった。
それはユリアンにとっては都合が良かったけれど、いつまでもそうしていられるわけではない。
並んで座って、言葉もなくふたりで外を見た。
その時間が心地よいと思えるほどに、オティーリエはユリアンの生活の一部になっていた。
立て続けに起こった事件と悲嘆に多くの機会が奪われてきたが、まだ二カ月に満たない婚姻生活はユリアンにとっては代えのきかないかけがえのないものだ。
これからゆっくりと歩んで行ければいい。
そのためにすべきことをするだけだ。
壁時計が遠慮がちに深夜と新しい年の訪れを告げた。
ユリアンはオティーリエを膝に抱き上げて、「君の一年が美しくありますように」と、決まりの文句を呟いた。
「あなたの一年も、美しくありますように、ユリアン様」
グラスを窓際に置いて、オティーリエは少しだけ温まった指先をユリアンの首に回した。
喋むような口づけを交わして、二人は寝台へと移動した。
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遅い朝を迎えて、ユリアンはヨーナスが外出したことを知らされた。
特別言付けはなかったとのことだったが、忙しない彼のことだから新年早々調べ物に奔走する気なのだろう。
本来ならユリアンも明日から始まる宮廷舞踏会の準備に忙しくしている日だが、今年は故人を悼む期間だった。
こんなにゆっくりとした新年は初めてのことのような気がして、積もった雪の香りすら新鮮に思え、従僕たちが除雪をしているところに参加しようとしてリーナスにたしなめられた。
「当主に雪かきをさせる伯爵家がどこにあるというのです」
ここにあってもいいじゃないか、と呆れ声に小さく反論した。
今日一日はゆっくりとして、明日はオティーリエと共にイルクナーに行こう。
マクシーネ夫人と家令のヴァルターに先触れの手紙を書いて、ユリアンは従僕に届けさせた。
ヨーナスが戻って来たのは夜更け頃だった。
たくさんの資料を持ち込んで部屋にこもり、「ちょっと調べ物に数日いただきます、あ、食事は部屋までよろしく」とのことだった。




