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君の愛は、美しかった  作者: つこさん。


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第四十六夜 「平等とは、かくも難しい」


いつも読んでいただきありがとうございます。

この部分は加筆・改稿する可能性があります。



 


 ユリアンの父であるヨーゼフ・フォン・シャファトは、宮廷会議(Hoftag)の議長としてここ十五年余を過ごしてきた生粋の貴族政治家だ。


 そしてどの派閥にも属さない中立派であることも知られている。

 それはフォン・シャファト家が長く求められてきた立ち位置でもあった。

 宮廷会議議長は終身職であり、ヨーゼフが議場を降りぬ限りは任期が切れることもない。

 執政官の身分も終身であり、すべて貴族位の人間によって構成されている。

 外朝すべてがそうであると言ってもいい。

 永きに渡ってトラウムヴェルト王国は貴族政治によって成り立ってきた。


 ユリアンの目に父は理想家として映っている。

 幼い頃からその背を見て過ごし、父が目指すもの、その視線の先に何があるのかも知っている。

 同じものを知りたい、見聞きしたいと思ってその軌跡を辿ろうとしたこともあった。

 いくらかの願いは叶わず今があるが、自分は自分の道を行けばいいという気持ちもユリアンにはある。

 しかし、父が見たいと思っているものを、ユリアンもまた見たいと願っていた。




「平等とは、かくも難しい」




 そう呟いた父の言葉は、重々しくユリアンに届いた。


 隣国のフロイントリッヒヴェルトは民主制を導入している。

 それは過去に凄惨な歴史を経て得られた結果だ。

 若き日の父が赴いたそこで何を見、何を思ったのか、ユリアンにはわからない。


 民衆のために政治を開きたいと、父が持つその願いが実現不可能に思えるほどに現状は冷酷だ。

 それは貴族制そのものを否定することに他ならず、父の立場も、ユリアンの現状をも、崩すことを意味しているから。

 明確に言うと、ユリアンはそれがどういうことなのかを正確には理解していないのだろう。

 今の生活がなくなるかもしれない想像は、この生活しかしたことがないユリアンには手に余った。


 けれど、美しいと思うのだ。

 平民と同じ目線で語り合える生活は。




 かつてまだ国境線が引かれていなかった時代、その頃は誰もが自由だった。




 ユリアンは今日も貴族位という服を着込んで一日を始める。

 自らの手で成したものではない名と爵位を名乗る。

 それがユリアンに用意された人生だった。

 疑問に思うこともない。

 だからといって何も考えずにいられるほどに、盲目でありたいわけではなかった。



 フォン・シャファト家の領地はとても穏やかな天候が続く、肥沃な土地だ。

 現代において領民が飢えに泣くこともない。

 そして王都ラングザームは美しく栄えた都市であり、市民の生活水準も高かった。

 だからともすると見失いそうになる。

 自分が恵まれた立場であり、その恩恵の陰には毎日を生きるだけで精一杯の人々もいるのだと。




 ユリアンの目に父は理想家として映っている。

 その理想をユリアンも心のどこかで夢として抱いていた。


 それは最終的には富の再分配だ。


 政治を貴族位の者で専有するのではなく、市民へ。

 そしてそれは現在貴族位として栄華を享受している者たちに、その蔵を開き、一般市民と手を取り合うようにと促す行為とも言えた。

 不均衡が生じているのはそこなのだから。



 父、ヨーゼフ・フォン・シャファトは、その闊達な性質ゆえに多くの者に愛されている。

 そして心の底から疎まれてもいた。


 平等なのは議会上の採決のみでよい、と。

 結局は、上位貴族に属する者の夢想に過ぎないと。


 どんな言葉にも父は誠実であろうと努めていることをユリアンは知っている。



 現在ユリアンはどっちつかずの立場を取っていた。


 このままではいけないと内側から自分を急かす声が聞こえる。

 今こうして、目の前の問題に立ち(すく)み、ようやく気付いた。




 自分はその議論の枠外で、傍観することなど決してできないのだ。


 愛する父の背中を追うことを願うのであれば。




「わたしがなぜあなたの弁護依頼を受けたかわかりますか?」


 富裕市民層であり、人権に関する専門家でもあるヨーナスが訊ねた。


「あなたが、シャファト伯爵だからですよ」




 その信頼に、どう応えたらよいのだろう。



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別視点

わたしの素敵な王子様。

本編

いねむりひめとおにいさま

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