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君の愛は、美しかった  作者: つこさん。


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第二夜 「お誘いくださりありがとう」


 忙しい毎日を過ごしていると自分のことを疎かにしてしまう。

 いけないと思いつつもユリアンは仕事に没頭していた。


 宮廷会議の議長を務める父の背中を見て育ったからだと思う。

 国の根幹に触れる仕事は楽しかった。

 自分も何か役に立てているという感覚は、ユリアンの心を有頂天にさせた。


 若い時期をこうして国の重要機関で働けることは、きっとなによりもの糧になる。

『七光り』と揶揄する声があるのは知っている。

 けれどそれでいいじゃないか、結果わたしはこうして望む仕事に就けたのだから。

 ヨーゼフ・フォン・シャファトの息子であることは、ユリアンにとってなによりも得難い宝だった。



 遅くまで仕事をしていて、「もう明日にしよう」と窘められるまで朝廷で時間を過ごした。



 だからある日言われるまで忘れていた。

「次のハルデンベルク候の夜会は出るんだろう?」

 ……ああ、出ないと母さんにどやされる。



 ****



「わたくしと一番に踊ってくださいましね、ユリアン様」



 げんなりとしてユリアンはその声の主を見た。

 いつもそっと入場してもすぐに見つけられてしまう。

 エスレーベン伯のご息女、レギーナ嬢だ。

 今日も薄い色の金髪をこれでもかと巻き上げて、きつめの目の周りは青く縁取っている。



 まずは挨拶をするのが社交というものではないか、とユリアンはため息を呑み込み、「ごきげんよう、エスレーベン嬢」と呟いた。



「レギーナと呼んでくださいましと言っているではありませんか。

 見てくださいまし、このドレス」

 これ見よがしに一回転してみせるレギーナ嬢に、ユリアンは頭痛を覚えた。


 赤、真っ赤。

 ユリアンの髪の色だ。


 これはもう早々に撒くに限る。

 付きまとわれて要らぬ噂などたてられたら目も当てられない。

 用意していた文句でユリアンはその場を後にした。



「今日はハルデンベルク候のご招待ですからね、最初はハルデンベルク嬢に申し込みますよ」



 身を翻すとレギーナ嬢が何かを喚いた。

 令嬢としていかがなものか。

 あの方は本当に苦手だ。



 ****



「もてるなユリアン」

「見ていたなら助けろ」

「いやー、あのご令嬢おっかないから、近付きたくないもん」

 本当に友人甲斐のない。

 カイ・ヴェンツェル・ベルネットは、はしばみ色の目を楽しそうに歪めた。



「今度捕まったら、おまえの良いところを二十くらいでっちげて吹聴してやる」

「おいおい二十で収まらんだろう、わたしの良いところなど星の数より多いぞ」

「そうだな、わたしの友人は優秀だからな、きっとエスレーベン嬢もお気に召すだろう」

「やめてくれよ? あの令嬢は本当に勘弁だ」

「わたしもごめんだ」

 ユリアンは苦い顔をした。

「関わりたくない」



「なんかあったのか?」

「訊くな、言いたくもない」

「いやー、そう言われて訊かないわけがないでしょ、なに、なにあったの」

「おまえみたいな口の軽い奴に言うわけがないだろう」

「えー、ユリアン、なんだよ、なにあったの、気になる、気になる」



 追い縋るようにカイはユリアンの腕を引き、そっと耳元で呟いた。

「なに、誰もいない部屋に引きずり込まれて、既成事実作られそうになった?」

 ユリアンは腕を捕り返して、壁際へと速足で退いた。



「……誰に聞いた」

「え、ジル。

 てゆーか、皆知ってるって。

 茶会で話題になってたもん、カレンベルク侯の夜会の時、おまえが悲鳴上げて使ってない部屋から飛び出してきたとか」


 ユリアンは全力で項垂れた。


「普通逆じゃない?」

 カイは若干同情を込めた目で言った。

 ユリアンは言葉もなかった。


「大丈夫、友人の名誉を守るために、おまえのことはちゃんと擁護しといたからな」

「ありがとう」とユリアンはか細く答えた。



「いやー、ほんと、なんで最近夜会出てないのかなーと思ってたら、仕事忙しかったんじゃなくて女が怖かったってこと? 難儀だねー、もてると」

「……あんなのをもてるとは言わない、わたしの背景が欲しいだけだから」

 唸るようにユリアンは言った。

 肯定の意味でカイは肩をすくめた。



「で、なんで今日はきたの」

「母が最近うるさいんだ……たぶんゲオルクが結婚したから……」

「そんな急ぐもんでもないのにねー。

 大変だな、一人っ子嫡男は」

 次男でよかったー、とカイは言った。



「あの……ユリアン様……ダンスのお相手は決まりまして?」



 横手からおずおずと声がかけられた。

 今度は違う令嬢だった。

 ユリアンはもう一度先程のセリフを使った。



「今日はハルデンベルク候のご招待ですからね、最初はハルデンベルク嬢に申し込みますよ。

 お誘いくださりありがとう」


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別視点

わたしの素敵な王子様。

本編

いねむりひめとおにいさま

【閲覧ご注意ください・イメージを損なう恐れがあります】君の愛は、美しかった・登場人物イメージ

君の愛は、美しかった・登場人物イメージ(活動報告ページへ飛びます) script?guid=onscript?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] 『思いついたらすぐに口にしないと気が済まない人なんです』 シェイクスピアを思い出しました。 『忘れたの? 私は女。思ったことはすぐ口にする』って感じですかね!
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