第十四話:女と恩
第十四話です。
よろしくお願いします。
ブクマありがとうございます!励みになります(´∀`)
予選会終了後、決勝進出者が集められ決勝トーナメントの説明が行われていた。
「それでは今からルールを説明する。といっても内容は事前に配布した紙に書いてあるものと殆ど変わりないが、決着について説明を加える」
バーンは他の七人をちらりと見る。
魔法使い、戦士、僧侶、騎士、侍が見た目から判断できる。
そして、あのアサシン、タルカスもおりこちらを睨みつけている。
(やっぱりそれなりに腕があるみたいだな。口だけじゃねえってことだ)
バーンは視線を軽く流したが、今度は最後の一人、長い黒髪の女がこちらを見ている。
ニヤァ……と口角を上げて笑っているが、目は笑っていないその顔に少し狂気を感じる。
(すげー顔でこっちを見てんな……美人だから尚更こぇぇ……)
女は臀部に到達する程の長い黒髪に、黒いピチッとしたズボンを履き、上はノースリーブの白いブラウスを着ていた。
身長は百七十センチ程だろうか。
大胆に開けた胸元からは、溢れんばかりの胸が見えている。
手に鋼が付いた黒いナックルガードをしていることから格闘家と推察できる。
女が腕を組んでいることで、胸が更に強調されている事もあり、戦士や僧侶が横目でそれをチラチラみていた。
「何みてんだよ?」
運営員の説明を遮り、女が美しくドスの効いた声で戦士達に睨みを効かせる。
当の戦士達は心外だと声を荒げ、見ていないと騒ぎ出した。
(まぁ間違いなく見てたけどな……俺も)
「はっ! なさけねぇ……見るならもっとちゃんと見ろってんだ。横目でチラチラと、そんなにあたしとヤりてぇか? はぁん!?」
「なっ!?」
「下品な女だ!」
運営員が慌てて止めに入るものの、特に言われた二人が激昂しているため中々収まらない。
運営員は一段と大きな声で通告する。
「やめたまえ! その元気は本番で使うように! これ以上騒ぐなら失格にするぞ」
「はい、はい」
「ちっ、覚えてやがれ」
「後悔するぞ、女」
やれやれ、と運営員が頭を抱える。
まぁ荒くれ者が多い冒険者が互いに戦うのだから無理もない事だ。
「説明が途中になってしまったからもう一度だけ言う。決着は、相手が降参する、場外に出る、気絶した時に決まる。また、不正が発覚した時や、相手を死に至らしめた場合は失格となるので注意するように」
決勝トーナメントの開始は一時間後、抽選の結果バーンは侍と一回戦第一試合で当たることとなった。
説明が終わり、バーンがアリスの元へ行こうとした時に声を掛けられる。
先ほど聞いた美しくドスが効いた声で。
「なぁ、あんた。すごいねぇ……まさかタイカ石をぶち壊しちまうなんてさぁ! たまんないねぇ……あんたみたいな上物とヤれるなんて、今日はツイてる」
(やっぱ狂気を感じるな……コイツ)
「んじゃ、決勝で……な? 黒い騎士さん」
そう言って女は去っていく。
ピチピチのズボンが妖艶さを醸し出し、尚且つその動きで強さが伝わってくる。
(決勝ね、まぁあいつなら上がってくるだろうな)
何故なら、あの女こそタイカ石で金色を出していた女だからだ。
過去数百と行われた中でも、一日に金色に輝くタイカ石が二回観れたことはない。
その事実が否が応でも観客の期待を煽り、近年稀に見る盛り上がりを見せていた。
しかも片方は女だったから尚更である。
(強そうだなぁ、ふーむ)
バーンが少し思案していると、また声を掛けられる。
耳障りな嫌な声だ。
バーンは心の中でため息を吐く。
現れたタルカスはニヤニヤ笑いながらバーンを煽ろうと必死なようだ。
タイカ石を壊したバーンに実際は怯えているのかもしれないが、この手の手合いは自分ならそれでも勝てるという変な自信があるので対応が面倒くさい。
「よかったなぁ、俺と当たるのが二回戦で。あんだけ派手にやっといて一回戦負けじゃ恥ずかしいだろ?」
バーンはああそうだなと軽くいなす。
それがタルカスの琴線に触れた。
「……てめぇ、舐めてんだろ」
ビキッ、とタルカスの顔が変わる。
バーンは手を前に出し、ヘラヘラ笑いながら答えてやった。
「おいおい、落ち着けよ。失格になるぜ?」
「後悔させてやる……絶対にな!」
激昂し去っていくタルカスの背中に、心の中で声を掛ける。
(やれやれ、それは……こっちの台詞なんだよ)
バーンは激しい怒りを心に鎮め、アリスの元へ向かう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、バーンさん! ここです!」
身長百五十センチの程のアリスが人混みの中、必死に手を伸ばしぴょんぴょん跳ねている。
その姿が愛らしい。
「やっと会えました」
アリスがにこっと笑う。
つられてバーンも笑顔になってしまう。
思い出したようにアリスが続けた。
「あ、バーンさんに会いたいって人がいるんですけどいいですか?」
「俺に? 構わないが」
「ダッフィさんいいですよー」
ダッフィと呼ばれた男が柱の影から顔を出す。
初老の男性は、白髪混じりの髪と髭がダンディな印象で、かなり真剣な表情をしている。
「観客席で隣に座ってたダッフィさんです。色々教えて貰いました!」
「そうなのか、ありがとう。礼を言うよ」
「いやいや、構わねぇ! そんなことよりすまん、決勝トーナメント前に悪いんだが、どうしてもあんたに聞きたいことがあるんだ」
「構わないが場所を変えよう。ここは目立っていかん」
周りを観客に囲まれたバーンは照れ臭そうにしている。
だったら、と観客を押しのけバーンを連れて外に向かう。
「ちょいとごめんよ! 通してくんな!」
ダッフィに連れられ、その場を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一度、闘技場から出て、近くにあるダッフィの店に入る。
彼は武器屋らしい。
椅子に座り、彼は一層真剣な顔でバーンに自分の想いを語り出した。
「違ってたらすまねぇ……あんた、ひょっとして……勇者ディーバの息子じゃないか?」
なんとなくそう言われるような気がしていた。
過去、あの石が壊れたのは三十年前、ディーバがこの大会に出場した時のみだ。
ダッフィは見た目から五十代くらいと思われる。
過去に見たディーバとバーンが重なったのだろう。
「いや? 人違いだ。俺は普通の冒険者さ」
そう答えるがダッフィは納得していない。
必死な表情を見て少し心が痛む。
「だ、だが……感じるんだ。三十年前にここに来た勇者ディーバとあんたが何か関わりがあるって!」
再度それを否定したが、項垂れるダッフィが余りに残念そうなのを見て何故そんなに固執するのかが気になってしまう。
訳を聞くと彼はポツリポツリと語り出した。
「俺は……三十年勇者ディーバに助けて貰ったんだ。この町が魔物に襲われてな。俺のために怪我までさせちまったのに、笑顔で大丈夫かって……何か礼をしたかったが、なんもできねぇまんまだった」
ダッフィは俯いたまま続ける。
二人は黙ってそれを聞いていた。
「んで、ヴァンデミオンがあんなことになって、いよいよ恩が返せなくなっちまった。でも、今日あんたを見てな、そうに違いないって思った……あの人にはなんの恩も返せなかったから、せめてあんたにって」
三十年も恩を忘れずにいてくれた事と、そう思わせる父親が誇らしかった。
アリスが時計を見て開始時刻が迫っているのに気付く。
「バーンさん、時間が……」
「ああ! すまねぇ! 集中しなきゃいけねぇ時間に、こんな話……忘れてくれ」
バーンは立ち上がり店から出ようとするが、ふと立ち止まり背中越しに話しかける。
「きっとその、勇者の息子はあんたに感謝してるぜ。三十年も恩を忘れずにいてくれてありがとうってな。それだけで十分だ」
「あ、あんた……」
「んじゃ、見ててくれ」
そう言って、店から出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バーンとアリスは闘技場に向かう。
二人は無言だったが、意を決したアリスが絞り出すように声を出す。
「バーンさん……あの……」
「アリス、大会が終わったら話す」
アリスの想いは届いていたが、今はまだ話す時ではない。
ゆっくりとしっかり話したかった。
「は、はいっ! バーンさんなら絶対に優勝です!」
「まかせろ」
様々な想いが錯綜する中、戦いの幕が切って落とされようとしていた。




