74/81

Ꮚ・ω・Ꮚメー（74:今日はよろしくお願いします）

背脂所長に寄越してもらったグレーターグリフォンをバックに、私は群馬ダークと一緒に配信カメラの前に座りました。

　頭には、トレードマークとして認知されている紅のベレー帽。

「はじめよか。三、二、一、ゼロ」

　群馬ダークが手元に浮かべたウィンドウの開始ボタンをタップし、配信開始です。

「こんばんは、群馬ダークです。今回は現在私が出演している東京大迷宮の配信番組、『ダンジョンエクストリーム』で起こったグレーターグリフォン襲撃事件が『ダンジョンエクストリーム』と私、それと私の友人である頭テスタと呼ばれる人物が関わった自作自演だったのではないか、という指摘について、実際の経緯について説明をするために配信枠を立てさせていただきました。では、まずは紹介から始めさせていただきます。私の友人で、先日販売したアップサイドダウンケーキなどの制作者、ソル・ハドソンさんです」

「はじめまして、ソル・ハドソンです。今日はよろしくお願いします」

　カメラに向かって頭を下げて挨拶をします。

「クラス構成はベーカーのエピック、ソルジャーのレア、アンダーテイカーのアンコモン、私が知る限り、東京大迷宮で最強のパン屋さんにしてケーキ屋さんです」

　群馬ダークが真面目な調子で紹介すると、

＜知ってる＞

＜小麦粉をヤバい粉にする女＞

＜容姿補正クラスがない……だと……？＞

　手元のウィンドウにそんなコメントが流れました。

　別のウィンドウに表示された情報によると、現時点での視聴者は以前からのドンレミ農場チャンネルの登録ユーザーが大半のようです。

　グレーターグリフォン襲撃事件や自作自演疑惑そのもの興味を持っている層は、同時に配信を開始した『ダンジョンエクストリーム』の公式配信枠のほうに流れているようです。

　エピックというのは嘘なのですが、特に疑うようなコメントは流れてきません。

　初心者の初配信ということで、ドンレミ農場チャンネルへのコメント書き込みは、騒動以前からチャンネル登録をしている旧来のリスナーのみに制限されており、かなり落ち着いた雰囲気です。

「それと、後ろにいるのが問題のグレーターグリフォンとなります。世間でいうようなテイム状態にはなっていませんが、ソルさんとの間にはある程度の信頼関係があり、荒れ狂っているところをなだめて落ち着かせる程度のことは可能です。今回は『ダンジョンエクストリーム』との合同配信になっていますので、あとは映像を接続して配信を進めさせていただきます」

　群馬ダークが制御ウィンドウを操作して配信画面を分割、同時に配信を始めていた『ダンジョンエクストリーム』の皆頃シスターズの配信画面とくっつけて、四人横並びの形に調整しました。

「接続完了っスね。よろしくお願いするっス」

　スタジオにいる皆頃シエルの声が飛んできました。

「はい、よろしくお願いします」

「今回の配信は、グレーターグリフォン襲撃事件の収拾において大きな役割を果たし、暴露系インターネット配信者から自作自演事件の中心人物であるというように言われている冒険者、頭テスタさんこと、エピック級ベーカークラス保持者のソル・ハドソンさんから、直接姿を見せた上で事件の経緯について説明をしたいとの申し出を受け、急遽配信を決定したものです。この配信によって『ダンジョンエクストリーム』やその出演者、群馬ダークさんのドンレミ農場への風評被害を払拭することができればと考えております」

　皆頃シオンが解説をしてくれました。

「では、早速、ソルさんのほうから事件の経緯をお聞かせください」

「はい」

　改めてカメラに向き直り、呼吸を整えました。