Ꮚ・ω・Ꮚメー(71:レジェンダリー)
石動新の背中に撃ち込んだのはホームズに頼んで皆頃シオンに貰ってきた追加の粘糸弾です。
エピック級重騎士クラス、カタフラクトの保持者である石動新に銃でダメージを与えることは困難ですが、粘糸弾のようなデバフ型の弾薬はある程度の効果が見込めます。
完全に動きを封じることは出来なかったものの、鎧の背中に貼り付き固まった粘糸弾は石動新の体幹の動きを阻害し、振り向きざまの攻撃の速度を減衰させました。
シールドの一撃をかわして距離を取ると、今度はゲイボルグの間合いです。
轟然と繰り出された稲妻のような一撃、その周囲に同時展開した数十本もの魔力の副刃の弾幕の隙間を左右に動き、すり抜けるようにかわしつつ、三竜の石迷宮でもらった『水の護石』の力を励起。ゲイボルグが引き戻されるタイミングに合わせて踏み込んでタワーシールドにシャークトゥースシャベルを叩きつけました。
エピック級武器シャークトゥースシャベルの攻撃には、水属性の追加ダメージが乗り、『水の護石』には水属性攻撃の威力を増強する効果があります。また、私の三つのクラスの一つであるアンダーテイカーは、穴掘りとスコップの扱いに長けた埋葬用クラスで、スコップ戦スキルを持っています。
そして、三竜の石迷宮で焼き、地下壕を出る前に食べた、ホスチアと呼ばれる無発酵パンの食事効果。
ゲイボルグ迎撃に使った聖体弾と同様、カトリックの聖体拝領という儀式に用いる薄い丸形のパンですが、宗教上はイエス・キリストの血肉と同じものとされているためか、異様に高い食事効果を持っています。
具体的なステータスでいうと、
救世のホスチア
レアリティ:レジェンダリー
品質:最高
食事効果:バイタル全回復
メンタル全回復
バイタル自動回復(極大・7日間)
メンタル自動回復(極大・7日間)
ストレンクス (極大・7日間)
フォース (極大・7日間)
プロテクション (極大・7日間)
アキュラシー (極大・7日間)
レフレックス (極大・7日間)
クイックセンシズ(極大・7日間)
リヴァイブ (極大・7日間)
ステータス異常無効(極大・7日間)
バザール出品不能
だそうです。
だいたい全部の能力が一週間、7倍程度に上がるとのこと。
ストレンクスが筋力、フォースが魔力、プロテクションが防御力、アキュラシーが作業精度、レフレックスが反応速度、クイックセンシズが五感に対応しています。
リヴァイブの極大についてはブラックアウトダメージに七回耐える上、所要時間ゼロで全回復してしまうそうです。
あまりに滅茶苦茶なのと、信徒でもないのに宗教儀式に使うものを軽率に口にしていいのだろうかという遠慮、また単純にひとつしか作れなかったということもあり、使いどころがわからなかったのですが、今がそのタイミングだと判断しました。
こちらの戦闘クラスはレアのソルジャーにアンコモンのアンダーテイカー、エピッククラス保持者の石動新を相手どるには、この程度のブーストは必要でしょう。
味のほうがどうなっているのか心配でしたが、元が水と小麦粉だけだったせいか、意外とおとなしめでした。
頭から宇宙ネコを出している場合ではないのでそれで問題はなかったのですが、少し拍子抜けでした。
エピック装備のシャークトゥースシャベルに『水の護石』の属性強化、ソルジャーの白兵戦スキル、アンダーテイカーのスコップスキル、レジェンダリーパンの増強効果。
ここまで色々盛れば、エピッククラス保持者が相手でも容易に圧倒できるようです。
分厚い盾が大きく変形しながら吹き飛びました。
「ぐおっ!」
驚愕の表情を浮かべ、呻き声をあげた石動新は後方に飛びつつ、ゲイボルグを繰り出そうとしましたが、粘糸弾の行動阻害効果はまだ続いています。
再度距離を詰めるには、充分すぎる余裕がありました。
側面に滑り込みつつ水のブレードを展開、大上段から振り下ろした一撃は石動新の首の付け根を直撃、厚い鎧をひしゃげさせ、引き裂いて、鎖骨の下にまで到達し、血飛沫をあげました。
通常ならば致命傷のはずですが、鎧の方にリヴァイブとバイタル回復の効果があったようです。
「がっ……あっ……!」
石動新はわずかに白目を剥きましたが、意識を喪うことなく踏みとどまり、食い込んだスコップのブレードを掴みます。
血反吐を吐きながら、しぼり出すように声をあげました。
「……なんだ、おまえは……オレは、オレは、エピック、なんだぞ、なんで、こんな、簡単に……」
そこは私も知りたいところです。
レジェンダリークラスなので、というのが答えなのかも知れませんが、私自身の納得感が足りません。
そもそもどうしてこんなおかしなクラスになってしまったのか、というあたりが大きな疑問点です。
ともかく、無力化を済ませることにします。
リヴァイブとバイタル回復効果が発動しているようですが、石動新のバイタルゲージは恐らくレッド状態、本来の戦闘能力を発揮できる状態ではありません。
タワーシールドも吹き飛んでいますので、強い抵抗はもうできないでしょう。
ゲイボルグを携えた右腕にシャークトゥースシャベルを当て、鎧の関節部分を肘ごと破壊しました。
よろめき、ゲイボルグを取り落としたところで膝に一撃入れ、地面へと転がしました。
「ひっ、やめっ、やめろっ……殺すぞっ! 俺を殺せば黎明放送が! 埼京連合が!」
ゲイボルグを取り落とした石動新は来るな、というように左手を突き出し、そんな声をあげました。
黎明放送や埼京連合の報復がある、と主張しているようですが。
「殺さないためにやっています」
それだけ答えると、もう一つの膝関節を破壊、最後に左腕の肘関節を破壊しました。
メェ (なるほど、鎧の関節を潰してバイタル回復を封じるわけか)
メエェ (バイタル回復効果があっても鎧が潰れていては元通りにはならないからな)
メメェ (手ぬるいのかやり過ぎなのか判断が難しい)
「殺していいのかどうかわかりませんから」
黎明放送や埼京連合の復讐はともかく、あとで聞きたいことがあった、背後関係を探りたかった、と言った話になると困ります。
生命活動が出来る程度のバイタル回復は続いていますが、戦意と意識のほうは持たなかったようです。仰向けに倒れた石動新は再び白目を剥き、動かなくなりました。
無力化はできたようですが、何かの弾みで回復してゲイボルグを投げられると困ります、回収しておくことにしました。
全長でいうと二メートルほど、エピック装備の中でも上級に位置づけられる装備だそうですが、銃やナイフ、スコップなどとは違って扱ったことのない種類の武器です。
メェ (ナイススティック)
メメェ (バームクーヘンを焼くのに使えそうだ)
メエェ (ゲイボルクーヘンと名付けて売り出そう)
想像だにしない用途を提案されてしまいました。
火に掛けた丸い棒に生地を垂らしながら回していくことで木の年輪のような層を持つお菓子になるそうです。
ちょっと楽しそうだと思ってしまいました。




