Ꮚ・ω・Ꮚメー(41:また石をもらいました)
第一目的はグレーターグリフォンの沈静化なのですが、グレーターグリフォンに叩きのめされたドラゴン達についても、可能なら回復しておくよう依頼されています。
『ダンジョンエクストリーム』のスタッフ隊全体の責任者でもある皆頃シスターズと接触した私は、バイタル回復効果の高いワイルドチキンの照り焼きと香草を乗せたピザなどを提供し、建築家のレアクラス保有者の群馬ダークの力も借りて、三竜の石迷宮のドラゴンたちを救護して行きました。
普通のドラゴンではなく『ダンジョンエクストリーム』という番組の目玉モンスターですので、死んでしまうと背脂研究所に賠償責任が発生して困るのだそうです。
自分の祭壇に逃げ帰ったレッドドラゴン、頭をぶつけて目を回していたブルードラゴンについては特に苦労しませんでしたが、瓦礫の下敷きになっていたイエロードラゴン救出については群馬ダークの力が必要でした。
「作業者権限をいただければ、瓦礫を改修できますが」
大量の建材や瓦礫、土砂などを収容できる建築用のアイテムボックスを持った群馬ダークは石迷宮に手を加える作業者権限を受け取ると、軽く手をかざすだけで周囲の瓦礫を収容し、消し去ってしまいました。
興奮し、再び暴れ出そうとしたイエロードラゴンの口にレストレイドがブリトーを放り込んで回復させると、また石をもらいました。
竜石『炎の護石』
レアリティ:レア
装備効果:
・火属性攻撃強化(小)
・火属性防御強化(小)
竜石『水の護石』
レアリティ:レア
装備効果:
・水属性攻撃強化(小)
・水属性防御強化(小)
竜石『雷の護石』
レアリティ:レア
装備効果:
・雷属性攻撃強化(小)
・雷属性防御強化(小)
火と水の石はひとつずつですが、『雷の護石』だけ2つ出てきました。
瓦礫の撤去をした群馬ダークへのギフトのようです。
私が一種ずつ三つ、群馬ダークが『雷の護石』を1つ受け取ることになりました。
メー(装備していると属性攻撃力や防御力を底上げできる)
「電気工事のとき便利かな?」
特に雷属性の攻撃手段などを持っていない群馬ダークは、少し考え込むような調子でそう呟きました。
「アイテムとかにも効果があるんでしょうか」
電磁トラップやグレネード弾などの威力も変化するものなのでしょうか。
そんな話をしていると、少し気になる視線を感じました。
「なんでしょう?」
収容されずに残っている大きな瓦礫から顔だけ出す恰好で、皆頃シスターズの妹の皆頃シオンがじっとこちらの様子をうかがっています。
大きな蜘蛛の下半身に上品そうな少女の上半身が乗った、アラクネというモンスター。上半身もさることながら、黒い蜘蛛の部分もよく出来た芸術品のような美しさがありますが。
敵意や悪意はなさそうですが、奇妙な粘着感を感じさせる視線です。
「どうかお構いなく、私のことは通りすがりの瓦礫と思って無視してください」
優雅に微笑んでいますが、何を言っているのかはわかりませんでした。
「笑顔がニチャってんじゃねぇか、困惑させるんじゃねぇよ」
姉の皆頃シエルが溜め息をつきました。
「なんかスイマセン、こいつ、ええと、なんだっけ……マンドラゴラで」
「マンドラゴラ?」
意味がよくわかりません。
ゴゲ?
群馬ダークが肩に乗せたマンドラゴラも不思議そうな声を出しています。
「違います」
皆頃シオンが厳しい口調で言いました。
「グンマンドラです」
群馬ダークの配信やドンレミ農場ライブカメラのコメント欄に入り浸っている熱心な視聴者が自称している呼称だそうです。
「そうだったんですか、ご視聴ありがとうございます」
屈託のない表情で笑いかける群馬ダークに、皆頃シオンは耳や頬を赤くして「はい……」と応じました。
「なんで素人みたいになってんだよ。おまえも一応プロだろが」
「しかたないじゃありませんか、プロでも推しの前では一匹の豚や一枚の壁に過ぎないんです! 壁で在るべきなんです!」
皆頃シエルの指摘に、皆頃シオンはよくわからない勢いでよくわからない台詞を返しました。
「しかも頭テスタさんつきですよ。壁がないなら瓦礫になって見守るしかないじゃありませんか! 群テスは実在ったんですよ! 群テス豚の理想郷がいまここに!」
「何言ってんのか本気でわからねぇ……とにかく正気に戻ってくれ。番組やべぇっつってんだろ、壁とかブヒーとか言ってる場合じゃねぇんだバカタレ」
「どういう話なのか理解できますか?」
頭テスタというのが私を指していること、グンテスというのが群馬ダークと私をまとめた呼称であることまではわかるのですが。
「わかるけど、ソルちゃんはわからんままでおって欲しい」
苦笑気味にそう言った群馬ダークは、皆頃シスターズの二人に「よろしいですか?」と声をかけました。
「ハイ!」
「なんでしょう!」
喜劇めいたやり取りをしていた二人が、慌ててそう応じます。
「このダンジョンを直さないといけないんですよね?」
群馬ダークが訛りのない調子で確認しました。
「そうなりますね。最悪もうこういうダンジョンってことでこのまま押し切るって手も……」
皆頃シエルも真面目な調子で答えます。
「さすがに競技的に不公平になります」
皆頃シオンも真顔に戻って言いました。
「……だよなぁ」
「良ければ修復をお手伝いしましょうか? 石壁を元に戻すだけなら十日もあればできると思います。ソルちゃんのフォローがあればもっと早く」
建築スキル行使で消耗するメンタルの回復役が欲しいということでしょう。
「……修復工程の撮影は可能でしょうか」
皆頃シエルは興味深げにそう言いました。
「配信するということでしょうか?」
「はい、この様子だと、予定通りに決勝を実施するのは難しいので、穴埋めとして修復状況や工程を配信しても面白いんじゃないかと。実際にやれるかどうか、ギャラなどについては上と調整する必要がありますが」
「私は大丈夫です。顔と名前は売りたいほうですから」
群馬ダークは迷う様子もなく言いました。
「私も出た方がいいんでしょうか?」
「ソルさんの露出については、慎重に判断した方がいいと思います」
皆頃シオンが言いました。
「群馬ダークさんに比べると元の知名度が低いわりに、生産物のクオリティが高すぎます。ソルさんお一人では対応しきれない問い合わせが殺到する可能性があります」
グンマンドラだからか、私の事情への理解度も高いようです。
「せやね。ソルちゃんの場合、表に出るのはちょっと早いかもって気がする」
「そうですか」
配信界隈のことは、まだいまひとつわからないのですか、ともかく慎重に判断したほうが良いようです。




