Ꮚ・ω・Ꮚメー(40:落ち着きましたか?)
アークシャークの突進で吹き飛んだグレーターグリフォンの体が地響きを立て、砂煙をあげながら山肌を転がって行きます。
「えらいところに来てしまった……」
ゴゲー……。
私を前橋号に乗せてきてくれた群馬ダークとその肩のマンドラゴラが息を呑むように呟きました。
一応騎乗スキルはレベル2まで取って上げてありますが、群馬ダークの騎乗スキルはレベル5だそうです。
3レベルも差があると、自分で馬に乗るより同乗させてもらったほうが早くて安全です。
レアリティでいうとレアクラスに相当するという名馬前橋号の力強い走りで、出発から五分ほどで現地に到着した恰好です。
「離れて待機していてください」
「わかった。気を付けて」
グレーターグリフォンと面識と信頼関係があること、グレーターグリフォンの攻撃を抑止する星石♌を受け取っていることは道中に話をしてあります。
武器の代わりにグレーターグリフォンの敵意を避けるための星石♌、アークシャークの攻撃の巻き添えを避けるための星石♓をアイテムボックスから出し、にらみ合うグレーターグリフォン、アークシャークに近づいて行きます。
プロテクター類は保険に身につけていますが、手袋については戦闘用のグローブではなく、オーブン料理用の耐熱ミトンを付けました。
ワトソンは連絡役として『ダンジョンエクストリーム』のスタッフに接触してもらっているので、ホームズとレストレイドの二匹だけがついてきています。
グリィィィィィィ……。
接近に気付いたようです。
視線を下ろしたグレーターグリフォンは、鋭い眼で私達を見下ろしました。
ドラゴンたちとの戦いやアークシャークとの激突では、そう大きなダメージは負っていないようです。
羽根の付け根に口を開けた大きな傷口が、一番目を引きました。
シャァァクゥゥー……。
アークシャークもまた、激昂したグレーターグリフォンを牽制するように唸り声をあげます。
「大丈夫です」
アークシャークにそう告げて、グレーターグリフォンに向き直ります。
興奮し、攻撃的になっているようですが、星石を与えた相手に攻撃を仕掛けるほど分別をなくしているわけではないようです。
前脚で叩き潰しに来たり、嘴でついばんでくるような様子はありません。
この様子なら、難しいことはなさそうです。
アイテムボックスのストックから、切り分ける前のベーコンとほうれん草のキッシュ、ソーセージミートをヨークシャープティングの中に入れ、土の中の蛙に見立てて焼き上げたトード・イン・ザ・ホールなどの大きめの料理を出し、熱操作スキルを使って再加熱します。
小麦とワイルドボアの脂、バター、卵、香辛料の匂いが濃く漂って。
グリー!
グレーターグリフォンがぴんと尻尾を動かしました。
後ろの方で、
シャーク!
メー!
ゴゲー!
他のモンスター達まで反応していますが、一応予測の範囲内です。
「これを」
鱈と鮭のクリームパイを出し、バロメッツ達に託します。
ジュルル (ユーバーシープの出番か)
ジュルメェ(苛酷な仕事だ)
クリームパイを受け取った二匹が、アークシャークにクリームパイを運んで行き、グレーターグリフォンの食べ物に手を出さないよう気を引きます。
尻尾をぴんと立てたグレーターグリフォンはシートを敷いて並べたキッシュとトード・イン・ザ・ホールに興味を示している様子ですが、すぐに口を付けようとはしませんでした。
体と意識が戦闘態勢に入ってしまっていて、なにかを口にするような状態ではないのかも知れません。
「少し、離れていてもらえますか?」
そう頼むと、アークシャークはシャークと鳴いて、高空へと姿を消してゆきました。
視界内に大型モンスターがいなくなったことで、少し落ち着いたようです。
逆立てていた体毛を戻したグレーターグリフォンは、ゆっくりこちらに歩み寄ると、用意したキッシュに口を付けてくれました。
今回用意したキッシュにはバイタルとメンタル両方の回復効果があり、トード・イン・ザ・ホールのほうにもバイタルのみですが回復効果があります。
グレーターグリフォンの体が淡く輝いて、翼の根元の傷が癒え、翼そのものの歪みも綺麗に治って行きます。
キッシュとトード・イン・ザ・ホールも綺麗に平らげられました。
「落ち着きましたか?」
グリー……。
少し間延びをした調子で鳴いたグレーターグリフォンは、そのままゆっくりと丸くなり目を閉じました。
メェ (もう問題ない。食うだけ喰って、傷が癒えたら眠くなったようだ)
メメェ(寝かせておいて起きたら帰そう)
ドヨメー(しかし)
ズンメー(朝の楽しみがなくなってしまったな)
「また焼いておきますから」
グレーターグリフォンが目を覚ますまで待つ必要がありそうですが、まずは山場を乗り切ったようです。




