Ꮚ・ω・Ꮚメメメー(30:ドンレミ農場チャンネル動画アーカイブより 【新桃】群馬聖のケーキをいただきました))
「こちらです」
カメラの死角に出しておいたケーキを見える場所へと移す。
<パイ? ケーキ?>
<やべぇ、うまそう>
<急な飯テロやめろ>
<鬼畜!>
「飯テロもなにもさっきまで美味しい桃のシャーベットの動画を配信していたんですが……」
カメラにじとっとした目を向けると、
<圧来た>
<ごめんなさい>
<最初から飯テロでした>
<猛省いたします>
とコメントが戻って来た。
いつものやり取りなので、そのまま話を進めていく。
「とりあえず説明させてもらうと、実は、昨日の大雨でわさび田のマンドラゴラが流されとって、たまたま通りすがった冒険者が助けてくれたんです。それで、お礼のつもりで群馬聖を渡したら……こんな姿で戻ってきました」
<群馬聖を焼いたのか>
<チャレンジャーだな>
<無茶しやがって>
<でも大成功してるっぽい>
<ガチのパティシエ?>
<すげぇ美味そう>
<鑑定データはどんな感じ?>
「生産者さんの個人情報とか鑑定データとかはNGなんやけど……色んな意味でやべーブツであるのは間違いないと思います。もう匂いとかヤバい。飯テロ的な意味で死にそう」
<企業案件だったりする?>
<仕込みの匂いがするぜ>
そんなコメントも飛んできたが、相手にせずにフォークを手に取った。
「では早速、実食してみようと思います」
<目がガンギマってやがる>
<後世にいう飯テロ大虐殺の始まりであった>
「ではいただきます、ほんとに飯テロになりそうな気がするから、皆さんも気をしっかり持っておいてください……行きます!」
ケーキには小さなケースに入った生クリームが添えられていたが、まずは使わずにフォークを押しつける。
表面のカラメルが心地よい音を立て、ソテーされた群馬聖の果肉とスポンジの間を、フォークをすっと通り抜ける。
<あかん……>
<やべぇ、これ……>
<見た目と音だけでダメージが来る>
<飯テロに屈するわけには!>
<なんか断面変だぞ、果肉も生地も全然潰れてなかった。どんな刃物でカットしたらこんなことに>
<そういうスキルなんだろうけど、マジでやべぇやつの仕事じゃね?>
<飯テロには勝てなかったよ……>
<あれ、これ、ASMRじゃあないはずなのに……?>
<うわあああああーーー……>
<やめてくれ>
<脳を破壊されるぅっ!>
飛んでくるコメントに目を通す余裕はもうなかった。
カラメルでコートされた群馬聖とその下のスポンジをまとめてフォークでとり、口へと運んだ群馬ダークは、そのまま息を止め、目を見開いた。
<大丈夫か?>
<もぐもぐ助かる>
<どうした?>
<食レポはよ>
<美味いぞビーム出そう?>
「……かん」
スポンジやカラメルは口の中でほどけてなくなり、美しく焼き上げられた群馬聖の果肉を呑み込んだ群馬ダークは、どうにかそれだけ口にした。
「あかん……人は本当にあかんやつを喰わされるとあかんとしか言えなくなる……」
<語彙力の問題では>
<美味いか不味いかで言うと?>
「魂抜けて頭から宇宙ネコ生えてきた感じ」
<スイーツの食レポで宇宙ネコを生やすな>
<草生えるwww>
「いや、ほんと、語彙力追いつかないんやってこれ」
苦笑してそう応じた群馬ダークの頬を、涙が一筋伝い落ちた。
「あれ?」
<どうした?>
<言い過ぎた>
<慰謝料:50,000PP>
「あ、ううん、そうじゃなくて、ごめんなさい……慰謝料ありがとうございます。慰謝料高!」
<香典:3,000PP>
「香典ありがとうございます。死んでません。いや、そういうのじゃなくて、なんか、美味しすぎて壊れる、情緒……うぅ……にゃー」
そのまま二口目を口に入れ、あむあむと咀嚼した群馬ダークは、今度は「ふへへ」と笑い声を漏らしたり「むぇ」と唸って十秒以上動きを止めたりしながらケーキを崩して行き、
「……ないなった」
そんな悲痛な声をあげた。
二ピースあったケーキが両方、いつの間にか消滅している。
<こんな絶望的な目してる農場長はじめて見た>
<病み顔かわいい>
<配信普通に忘れてたな>
<情緒破壊ケーキ>
<結構サイズあったのにあっと言う間だったな>
<食べてみたい>
「失礼しました。あかん、また情緒壊れとった……本当にあかんやつやった……なにこれ」
ケーキが姿を消した皿を見下ろして呟き、容器に少し残っていた生クリームを舐める。
「あかん、止まらん」
<容器舐めそう>
「舐めへん……おいしい」
<食べたい>
「私もまた食べたい。もっと大きいの焼いてもらえんか相談してみる」
どこまで商売気があるのかはわからないが、バザールへの出品などは普通にやっているようなことを言っていた。
交渉の余地はあるはずだ。




