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パンと弾丸とダンジョンと  Ꮚ・ω・Ꮚメー(パンは銃より強くておいしい)  作者:
《第一部》ようこそ東京大迷宮へ

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Ꮚ・ω・Ꮚメー(3:まずはクラスを見てみよう)

 私が生まれたのは東京大迷宮の出現とほぼ同じ時期。

 物心ついたときには名古屋の児童養護施設に居て、十二歳からは兵役の対価に教育と衣食住の提供を受けられる滋賀の奨学兵団に籍を置きました。

 要塞都市や装甲鉄道、発電所や通信基地の警護などが主な仕事でしたが、二ヶ月前に発動した京都奪還作戦で配属部隊が壊滅。自分も感染者になってしまいました。

 発症の遅い潜伏型だったことから即時殺処分は免れたのですが、二、三ヶ月以内に発症、死亡するという余命宣告を受け、発症時に血液凝固剤を投与する薬液リングを首に付けられて兵団を除籍されました。


「東京大迷宮ならアンデッド因子感染症を治療する薬が手に入ると聞いて、冒険者を志望しました」


 メェ (なるほど、確かにここには治療の術がある)

 メエェ(アンデッド因子抑制剤や万能薬が有効だ)

 メメェ(入手難度の問題はあるが)


 メェ (アンデッド因子抑制剤はレアクラス、万能薬はエピッククラスの消費アイテムになる)

 メエェ(アンデッド因子抑制剤はバザールで手に入るが、一日の延命に一万PPが必要だ)

 メメェ(初期PPを使い切っても十日分)


 メェ (万能薬を使えば完治が見込めるが、バザールには滅多に出ない。最低取り引き価格は一千万PP。市場状況によってはそこからさらに跳ね上がることもある)

 メエェ(あとはダンジョン内でのドロップだが、アンデッド因子抑制剤はバザール専売アイテムでドロップモンスターがいない)

 メメェ(万能薬はエピックアイテムなので、ドラゴンなどの上位モンスターからでないとドロップしない)


「一日一万PP以上稼いで抑制剤を買い続けて一千万PP貯めるか、ドラゴンのようなモンスターを倒して万能薬を手に入れる。現実的に達成可能な条件でしょうか?」


 メェ (難しい条件だが、そのあたりの難度は保有クラスによって変わってくる)

 メエェ(まずは保有クラスをチェックしてみよう)

 メメェ(テーブルを使わせてもらっても?)


 バロメッツたちはどこからかタロットのようなカードを取り出すと短い足でシャッフルし、テーブルの上に並べました。


 メェ (好きなカードを三枚引きたまえ、それが君の保有クラスとなる)

 メエェ(ある程度は、君自身の経歴に左右される)

 メメェ(従軍経験がある場合は兵士系のクラスが出やすい)


 道中に読んできた東京大迷宮ガイドブックによると、クラスというのは冒険者となった人間が発揮できる能力、技能の方向性を示すもので、誰でも初期登録時に三つ与えられるそうです。

 職業と書いてクラスとルビを振ることもありますが、カタカナ三文字のクラスが正式名称。

 バロメッツたちのいう通り、軍経験があれば兵士系というように、それまでの人生経験で得た能力や技術に合わせたクラスを与えられることが多いのですが、魔法系のクラスなどは前歴などとは関係なく、本当に素質だけで出現するそうです。

 エルフやドワーフといった、種族そのものが変わってしまうクラスもあるそうです。


「わかりました」


 まずはテーブルの真ん中のカードに触れ、開いてみます。

 カードが白く輝いて、フリントロック銃を携えた兵士の絵柄が現れました。

 上の方には星が三つ描かれています。

 星はレアリティを示すもので、一つ星から最大で五つ星。星が多くなるほど優秀ですが、出現率が低くなるそうです。


 メェ (ソルジャーのレアか)

 メエェ(銃火器戦闘に長けた戦闘向きクラスだ)

 メメェ(レアは精鋭級。上々だ)


 出やすいクラスがそのまま出たようです。


「一番上は五つ星でしたよね?」


 メェ (ああ、レジェンダリークラスだ)

 メエェ(この東京大迷宮で、引き当てた者はまだいない)

 メメェ(ひとつの世界に千年に一人でるかどうかだな)


 五つ星や四つ星は出ないものと思ったほうが精神衛生上良さそうです。

 続いて二枚目を引いてみます。

 棺を引きずる男の絵柄と、二つ星のマークが現れました。


 メェ (アンダーテイカーのアンコモン)

 メエェ(葬儀屋か)

 メメェ(渋いところが来たな)


 奨学兵団で働いていた頃は、アンデッドやその犠牲者の死体を処分するのは生活の一部でした。

 そのあたりの経験が反映されたのでしょう。


「ダンジョン向きなんでしょうか」


 メェ (穴掘りとスコップの扱いに長ける)

 メエェ(ダンジョンでは補助的な職業だな)

 メメェ(メインはソルジャーと思ったほうがいい)


 当たりのクラスとは言えないようです。


「わかりました。次で最後ですね」


 そのまま三枚目のカードに手を触れると、今度もカードが光を放ちました。

 それは、レアクラスの時に見た白い光でも、エピッククラスの時に出るという金色の光でもなく――。

 虹のような、七色の光でした。


 メェッ! (なっ!)

 メエェッ!(これはっ!)

 メメーッ!(なんとっ!)


 バロメッツ達が驚愕の声をあげ、もふもふした体を膨らませます。

 一旦手を止め、深呼吸をしたあと、カードをひっくり返します。

 そこには五つの星と『BAKER』という文字だけが描かれていました。


 メェ (ベーカーの、レジェンダリー……)

 メエェ(伝説的パン職人)

 メメェ(信じられん……)


「……パン職人、ですか?」


 これまでの人生とは全く関わりの無い職業(クラス)です。


 メェ (正確にいうとベーキング職人だな)

 メエェ(ケーキやクッキーと言った焼き菓子やパイの類も扱える)

 メメェ(一般的な料理人にできることはだいたいできるはずだ)


「一般的な料理をした経験もほとんど無いんですが……」


 児童養護施設出身の奨学兵という身の上なので、キッチンなどで料理をしたことはありません。

 馴染みがあるパンは配給の食パンやコッペパン、あとは乾パン程度。

 パンを自分でトーストしたことさえありません。

 ネズミを焼いてカレー粉で食べるサバイバル訓練なら受けたことはありますが、それすらも訓練での一回きりです。


 メェ (経験はなくとも才能はあるということだろう)

 メエェ(世界を震わすほどのレジェンダリーな何かが)

 メメェ(具体的なことは正直こちらもわからないが)


 前例がないせいか、バロメッツ達もあまり頼りにならないようです。

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