Ꮚ・ω・Ꮚメー(28:アップサイドダウンケーキ)
群馬ダークと別れてホームエリアに戻った私は、いただいた桃をナイフで切り分けて、バロメッツたちが入れた紅茶と一緒にいただきました。
メェ (いい出来だ)
メエェ(柔らかく蜜も多い)
メメェ(シロップ漬けのような甘さだ)
バロメッツ達にも好評です。
試しに鑑定してみたところ。
白桃『群馬聖』
レアリティ:アンコモン
品質:最高
食事効果:バイタル1段階回復
メンタル1段階回復
とのことでした。
お見舞いに良さそうなステータスです。
フォークに刺した群馬聖を口に運びながらダンジョンネットの閲覧ウィンドウを開き『勇者様vs聖女様vs追放者』という単語を検索してみると、インターネットにある番組の公式サイトが見つかりました。
東京大迷宮が運営するダンジョンネットは地上のインターネットとは別のものですが、インターネットの情報にもアクセスできます。
『勇者様vs聖女様vs追放者』は大宮の黎明放送が放映しているダンジョン探索を題材とするテレビ番組で、一シーズン十二話、一年に一シーズンという形で放送されているそうです。
キャッチフレーズは『ギスギス人間関係パーティー追放リアリティざまぁ番組』
最初は十二人の冒険者が六人ずつの勇者パーティーと聖女パーティーに分かれてスタート。
ダンジョン探索、モンスター討伐、素材収集などの成果を競う対抗戦を行った後、一試合ごとに敗戦パーティー内で投票を行ってメンバー一名を追放。
次の競技では数が多いパーティーから一名を追放して、追放者パーティーを結成。
その次は再び敗戦パーティーから一名、最後は数の多いパーティーから一名と言った形でメンバーを追放してゆき、勇者パーティーと聖女パーティー、追放者パーティーが四人ずつになったところで、強力なターゲットモンスターの討伐を目的とする最終競技を実施。
ターゲットモンスターのドロップアイテムを持ち帰ったパーティーが優勝者となり、一億PPを獲得する、という流れになっているそうです。
勇者パーティーと聖女パーティーのしのぎの削り合いと、それぞれのパーティー内での腹の探り合い、そして追放者パーティーによる復讐劇。
様々な思惑がもつれあい、ヒートアップする極上ダンジョンリアリティエンターテイメント、だそうです。
ホームページには名物プロデューサーにして特別審査委員長、伝説の冒険者という肩書きで、例の石動プロデューサーの姿もありました。
先の自己紹介通り、重騎士カタフラクトのエピッククラス保持者だそうです。
メェ (観もせずにいうのもなんだけれど)
メエェ(低俗番組の匂いがひどいな)
メメェ(胸焼けがしてきた)
バロメッツたちがげんなりした様子で鳴きました。
胸焼けの原因の半分は桃の食べ過ぎの気もしますが。
まだ桃はたくさんあるので、レンタルキッチンに移ってケーキを焼いてみます。
シンプルにショートケーキなどにしてしまっても良さそうですが、今回はアップサイドダウンケーキに挑戦してみます。
まずはケーキ用の型の内側にバターを塗ってからクッキングシートを敷き、シートの表面にさらにバターを塗ります。
次はスライスして種を取った桃をフライパンでバターソテーに。途中で砂糖を加え、焼き色がついたらケーキ型の底に隙間なく並べて行きます。
花びらのように外周を埋め、残った真ん中の空白を小さめのスライスで埋めて花型に並べたら、次はカラメルを作ります。
フライパンに残った砂糖とバター、桃から出た果汁に、追加の砂糖とバニラエッセンス、ブランデーを入れて加熱、焦げ茶色のカラメルソースを作り、ケーキ型に入れた桃の上から流し入れます。
あとはスポンジ生地作りです。
卵に砂糖を加え、泡立て器でかき混ぜながら四十度ほどまで加熱。
ムース状になるまで泡だったら、薄力粉とベーキングパウダー、シナモン、アーモンドプードルをふるい入れ、へらで混ぜ合わせます。
続けて溶かしたバターを加えて均等に混ぜ合わせたら、生地の用意は完了。
桃とカラメルの上から生地を流し入れ、オーブンで三十分ほど焼成します。
オーブンから出したらひっくり返し、型から取り出します。
底にあった桃とカラメルの層が一番上に来るので『逆さま(アップサイドダウン)』ケーキという呼称になるようです。
鑑定をかけてみると、
桃源郷のアップサイドダウンケーキ(ホール)
レアリティ:レア
品質:最高
食事効果:バイタル2段階回復
メンタル3段階回復
ステータス異常耐性(中・6時間)
※1/6から効果が発生する
とのことでした。
ジュル (また凶悪なものが焼き上がったな)
ジュルル(禁断の果実のかけらといっても過言ではない)
ジュルリ(なんと甘美で罪深き芳香か)
食べ頃は焼きたてではなく、二日ほど置いて生地と果汁を馴染ませたあとになります。
今日のところは冷蔵アイテムボックスに入れておこうと思ったのですが、この様子だと収まりそうにありません。
加速機能を使って熟成期間をショートカット、仕上げに粉砂糖をふって六等分、アイスクリームを添えて四切れをテーブルに並べます。
残った二切れはアイテムボックスに納めます。
モグモグメー!(カラメルとブランデーと桃の素晴らしきハーモニー!)
シットリメー!(果汁を含んだスポンジはしっとりと瑞々しくもべたつかず!)
ヒンヤリメー!(アイスクリームを添えることで、さらなる至福が駆け抜ける!)
大げさな寸評にもそろそろ慣れてしまいましたが、人に出しても問題の無い仕上がりでしょう。
アイテムボックスに入れた最後の二切れをリストで長押し、譲渡コマンドを選択します。
フレンド登録させてもらった群馬ダークの名前を選択すると、メッセージを添えて、決定ボタンを押しました。
そう間を置かず、群馬ダークからメッセージが返ってきました。
お礼のメッセージなのですが、最後にちょっと判断のむずかしい質問が書かれていました。
「農場の配信で流していいですか? ということなんですが、どうしましょう」
ネットリテラシー初心者の私には判断の難しい質問です。
個人情報の取り扱いには注意しなければいけない、というのはわかりますが、贈ったケーキを配信に出していいのかどうかというのはラインの外側なのか内側なのかわかりません。
メェ (方針次第だな)
メエェ(新興ベーカーとして名を売りに行くかどうかによる)
メメェ(今はまだ準備不足だとは思う)
「そうですね」
パンやお菓子をバザールに出して収入を得ていますが、本職のパン・菓子職人として売り出しているというわけではありません。
有力配信者の群馬ダークの動画に露出するのは時期尚早に思えます。
メェ (だが、群馬ダークは東京大迷宮でも指折りの農業生産者でもある)
メエェ(今後の食材確保を考えると、友好関係は保っておきたい相手だ)
メメェ(生産者情報を伏せた上で許可するあたりが落としどころかも知れないな)
「……そうしておきましょうか」
なにが正しい答えなのかは結局わかりませんでしたが、この場はバロメッツたちのアドバイスに従い、誰が作ったのかについては伏せるという条件でOKを出すことにしました。
結果からいうと、これがかなり決定的な選択だったのですが、この時の私はそれに気付いてはいませんでした。




