Ꮚ・ω・Ꮚメー(26:『勇者様vs聖女様vs追放者』)
群馬ダークが貸してくれた馬、高崎号に乗って、多摩丘陵生産村へやってきました。
乗馬の経験はありませんので、一緒に鞍に乗ったマンドラゴラが手綱を握ってくれています。
生産村の出入り口の係留場で高崎号の背中を降り、マンドラゴラの手を借りて杭につなぎます。
ゴゲー。
ヒヒーン。
「ありがとうございます」
多摩丘陵生産村は多摩丘陵エリアの出入り口にある高尾山口セーフティーエリアを取り囲む恰好で建築、建設系スキルの保有者たちが創り出したダンジョン内集落。
家屋や店舗などについてはホームエリア化のできるアイテムで安全確保がされていますが、往来などはセーフティーエリア外となり、モンスターの侵入や攻撃を受けてしまうリスクが残っています。それでもネット上のバザールではなく、実際の商品や商人、職人、顧客の顔を見て取り引きをしたいという生産者、消費者が集まって発展し、現在では東京大迷宮のみならず、日本でも有数の賑わいを見せる商業街、職人街となっているそうです。
今回の目的は、自分以外のベーカークラス保有者のベーカリーを覗いて見ることと星石の加工ができる生産者を見つけることですが、自然発生、自然拡大的に無秩序に発展した土地なので、素人が歩き回ると道に迷いやすいそうです。ガイドをしてくれるという群馬ダークの申し出に甘えて、彼女が出入りしているお店のいくつかに連れていってもらうことになりました。
最初に案内してもらったのは、武器防具や農具、日用品の生産を行う鍛冶屋。
それとなくバロメッツ達に聞いてもらったのですが、エピック素材についてはスキルレベル的に手に負えないという回答でした。エピック級の加工スキル保持者でないと難しく、扱えそうな職人も思いつかないそうです。
情報料代わりにアンコモンのパンナイフと包丁セットを買い入れて鍛冶屋をあとにしました。
次は群馬ダークの農場で生産された野菜や乳製品を使って惣菜パンや焼き菓子を作っているベーカリーに立ち寄り、研究用のパンやお菓子を買い入れました。
このお店のオーナーはレアのベーカークラス保持者だそうで、並べられた商品はコモンがほとんど、特選品としてアンコモンのパンやケーキが少量置いてある程度です。
値段のほうも二百PPから三百PPあたりが中心で、回復などの食事効果があるものはほとんどありません。
普通に焼くと基本的にレアが出るというのはやっぱり異常極まりないことのようです。
メェ (悪くはないが)
メエェ(さすがに舌が肥えたか)
メメェ(少々物足りん)
百PPで買ったお買い得焼きそばパンをくわえた三匹が偉そうなことを言っていました。
続いて案内されたのは、イチゴとあんバター、生クリームをシュー生地で包んだイチゴ大福シューのお店です。
多摩丘陵生産村の名店のひとつだそうです。
メェ (甘い、重い、くどい)
メエェ(だが妙にあとを引く)
メメェ(イチゴの酸味がきいている)
お店の前のテーブルで食通めいたコメントを出す三匹の横で紙コップのほうじ茶を飲んでいると、カメラや集音マイクを携えたテレビクルーの一団が冒険者のパーティーを取り巻いて歩いて行くのが見えました。
「どうかした?」
玄人向けらしいダブル餡バターカスタードクリームマシマシイチゴ大福シューを注文した群馬ダークが言いました。
「テレビの撮影をしてるみたいです」
大きな要塞都市でプロパガンダを兼ねた番組、CMなどを制作し、電波を流していることもありますが、東京大迷宮でテレビ撮影をしているとは思いませんでした。インターネット経由で閲覧できる公式サイトや動画チャンネルはありますが、テレビ局などは持っていなかったはずです。
「ああ、『勇者様vs聖女様vs追放者』って番組。ちょっと前からこのへんで撮影しとる。大宮の黎明放送っていうテレビ局」
私の視線を追いかけた群馬ダークが教えてくれました。
なんとなく微妙な表情をしています。
「ユウシャサマバーサス……?」
どういう内容なのか、ちょっと想像がつきません。
そこにまた別の冒険者と撮影クルーの一団が現れたかと思うと、ふたつの冒険者パーティーがにらみ合いを始めました。
両方とも撮影クルーを連れていて、クルー達は普通に撮影を続けていますので、そういうシーンのようです。
さらにそこに新たな冒険者パーティーと撮影クルーがやってきて三つ巴の状態に発展します。
「どういう番組なんでしょう」
「ギスギス人間関係パーティー追放リアリティざまぁ番組」
メェ (ギスギス人間関係)
メエェ(パーティー追放)
メメェ(リアリティざまぁ番組)
バロメッツたちが困惑した声をあげました。




