お礼バレンタイン閑話 いっしょに笑い合えたらいいよね
すみません、ひさびさに慌てて書きました!
間に合ったー! けど、あのひとたちのおはなしです。ごめんね!
ふわり。
白と黒が舞う姿を、自然と目で追った。
小さな、と表現すれば気を悪くするだろうが、実際彼女よりも背丈が低い女性は、あいにく小学生くらいでしか見たことがない。顔のバランスからも相当大きな瞳をいたずらっぽくこちらに向けて、やや小走りにやってくる。
「古賀くん!」
その手に、小さなピンク色の包みを持って。
頬を紅潮させながら、それは差し出された。
「受け取って……くれますね?」
一段と低い囁きと共に。
受け取らなかったらどうなるか……と続きそうな響きに、完全に真尋は硬直した。
続けて、そのとなりにもうひとり。
こちらは白と臙脂色の組み合わせで、いつかのようにツインテールに分け、ふわふわと髪を揺らしている。
「えっと、あたしも、おねがいします!」
完全に頭を下げた徳岡芽衣は、両手で小さな紙バックを捧げ持っていた。
目の前に突き出された二つのブツに、真尋の視線は泳ぐ。
「――早く受け取らないと、ほかの子が来ますよ?」
ふふ、と笑いながら指摘された内容は、まさに忠告であった。
硬直がやや解けたように、ぎくしゃくと真尋は手を動かす。その差し出された手に、二つのブツはそれぞれ載せられ、かつひっかけられた。
「あ、りがとう、ございます……」
呻くように漏らされた感謝のことばに、日和はワンピースごとエプロンの端をつまみあげ、軽く膝を折って見せる。
「こちらこそ、ありがとうございます。
ふふふ。やはりまず、古賀くんに渡さないと……この反応を堪能できませんからね」
「里見さん、ホンットに助かりましたー!」
「いえいえ。では……皆さんのところにまいりましょうか、徳岡さん」
もう用はないといわんばかりに、その姿は遠ざかっていく。
職員用ロッカールームの前で待ち伏せ……ではなく、あえて窓口へ向かう経路途中を選んだのは、たいへん彼女らしい選択である。
やはりロッカールームはごったがえしていたし、その周辺には始業前にと気を急かす男女の姿が複数見受けられたのも事実だ。
そう。
今日はバレンタイン・デー。
――来たる四月に第一回全国メイド執事喫茶交流会が皇海市で開かれるため、その前宣伝としてバレンタイン・デーとホワイト・デー両日に、メイドと執事の衣装を市職員有志に対して無料でレンタルするので、イベントをPRしてもらえないか――
各課最低二名の応援を要請され、「窓口たるもの、皇海市のためなら身を粉にして!」と喜び勇んで女性はほぼ全員が賛意を示し、引きずられる形で部長の「まあ、女性陣ががんばるなら……ねえ?」という強権発動により、男性陣はやや強制参加となった本イベントである。
さすがにそのまま着席するのも気が引けて、真尋は来た通路を戻り始めた。
「あ、そうそう」
先ほどとは打って変わった高い声音が、響き渡る。
足をとめ、少しだけ振り向いたその時。
「今日、柊子が来るそうです。
――楽しみですね」
再度ふふふと続けて、軽やかな足音は薄れていく。
「え、あ、似合ってますから!」
師匠!と続きそうな芽衣の誉め言葉に返事をする間は与えられなかった。
日和を追うように去っていく臙脂色をちらりと見て、ついに真尋は深々と溜息をつく。
「マジかよ……」
うれしいのか、なぜ今日この日なのか、もうわけがわからない。
そんなただの呻き声は、幸か不幸か誰に聞きとがめられることもなく、廊下に転がっていったのだった。
「――おかえりなさいませ、お嬢様」
むしろ開き直った真尋の微笑+燕尾服姿の一礼を前に、柊子は吹き出すのを必死でこらえつつ、スマートフォンを片手に小首を傾げて尋ねた。
「撮っていい?」
「ダメに決まってるだろうが!」
一瞬で化けの皮は剥がれ落ち、いつものやりとりに切り替わる。
軽やかな笑い声と、それをこらえた含み笑いが重なった。
憮然とした真尋の前に、突き出されたのは三つ目の贈り物。
ハッピーバレンタイン。
笑い合える、今の時間がいちばんしあわせ。
ちょっと朝に思いついたので……。
リハビリがてら、少しずつ書きたいです。




