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第151話 雪村とコンタクトはとれるか

 昼食を摂った後は暇だったので、上月と無駄にパズルゲームなどで遊んだ。遊んだと言っても、ゲームの下手な上月と対戦しても数秒で勝敗が決してしまうので、俺がゲームのレクチャーばかりしていたが。


 それでもうまくいかずに、教え方が下手だと上月に怒られたり、それが引き金となって口喧嘩をしているうちに日が暮れてしまった。


「やべ、そろそろ時間だ。雪村に電話しないと」


 焦ってスマートフォンの画面を眺める。時間は午後の六時三十分をすぎている。


 上月がゲームのコントローラーを置いて肩を竦める。


「バカねえ。ゲームに熱中してないで、ちゃんと時間を見てなさいよ」

「うるせえな。お前が下らねえところでミスばっかしてるから悪いんだろ?」

「下らないところってなによ! あんたの教え方が下手だって何度も言ってるでしょ!?」

「なんだと――」


 いや、こいつとこんな内容で喧嘩していたら、それこそ下らないことだ。俺は怒りを静めてスマートフォンに視線を戻す。


 夕方に雪村に電話しようと思っていたが、この時間に電話してもだいじょうぶだろうか。夕食の妨げになったりしないだろうか。


「今は夕食の時間だから、電話しても話なんてできないんじゃない?」


 上月もどうやら同じことを懸念したようだ。


「そうだよな。じゃあ電話するのは夕飯を食べた後にするか」

「そうした方がいいわよ。相手にだって都合があるんだから」

「そういやお前、今日は夕飯つくってくれるのか? 俺も割と腹が減ってきたんだが」


 さりげなく夕食の用意を催促してみると、上月が「はあ? ばっかじゃないの?」という顔をした。


「買い物にも行ってないのに、今からご飯つくらせる気? 頭おかしいんじゃないの?」


 俺の予想を軽く超える罵詈雑言をすかさず浴びせてきやがった。こいつは本当に可愛くないな。


「つくってほしいんだったら、超特急で買い物に行ってきて、三分で帰ってきなさいよ。じゃないと夕食の時間に間に合わないからねっ」


 三分で買い物を済ませてこいって、無茶ぶりも甚だしいぞ。駅前のスーパーを往復するだけで三分なんてあっという間にすぎてしまうというのに。


 今日は比較的におとなしかったから、可愛げがあるじゃないかと見直していたが、この悪女を少しでも可愛いと思ってしまった俺の思考回路そのものがなんというか、劣化していた。


 俺はなんかいろいろとがっかりして長嘆した。


「わかったよ。じゃあコンビニで適当に買ってくるよ。お前はなんの弁当がいいんだ?」

「あんたと同じでいいわよ」


 そう言って上月がゲームを再開させる。


 たくさん文句を言われた挙句に、なんで俺がこいつのパシリにならないといけないんだ? いろいろと理不尽な出来事が一瞬で同時に起こっていたぞ――などと疑問を感じながら、俺は家を後にした。


 遠くまで行くのは面倒なので、駅前のコンビニへと向かう。駅前のコンビニは弁当の品数がいつも少ないが、客の出入りが多いのでそれは諦めるしかない。


 いつもより比較的に静かな店内に入って、雑誌を軽く物色する。


 今日は月曜日だから、漫画の週刊誌の発売日だったな。しかし雑誌は買わない主義なので、無駄に派手な表紙を眺めて、弁当の置かれているショーケースへと向かった。


 ショーケースに並べられた弁当を見ながら、ふと思う。雪村になんて電話しようか。


 俺は彼女とほとんど会話したことがないから、もし彼女が俺の電話に出ても、ちゃんと会話できるかどうか怪しい。


 下手に首を突っ込んで、ださい失敗をして恥ずかしい目に遭うんだったら、電話なんてしない方がいいだろうか。


 というか、雪村は見た目や性格が変わっているとはいえ、女子なんだぞ。


 高校生になるまで女子とろくに会話したことのなかった俺が、ほぼ面識のない女子に電話する日が来たなんて、知らぬ間に随分と出世したもんだな。――なんて考えながら気持ち悪く自嘲していると、ズボンの左のポケットから振動が伝わってきた。


 スマートフォンを手にとってもバイブは振動し続けている。だれかが俺に電話してきたのか。


 スマートフォンの画面に表示されている名前は、雪村旺花――! 向こうから電話してきただと!?


 俺は一瞬にして高鳴った心臓の鼓動を静めて、画面上の通話ボタンを押した。


「も、もしもし」

『あ、ああ! あ、あのっ、えっと、だれさんでしたっけ……』


 この激しいどもり方。そして俺の名前をまったく覚えていない感じ。通話先の相手は雪村で間違いない。


 彼女の挙動不審な姿が思い浮かぶと、気持ちが急速に落ち着いてきた。


「ええと、八神です。八神透矢――」

『ああっ、すみませんすみません! あああの、名前を、忘れてたわけじゃないんですっ。い、いろいろと、事情が――』


 いや単純に俺の名前を忘れてただけだろ。


 そんな下らない指摘をしている暇はないので、俺はそっと嘆息して店を出た。


「俺から電話しようと思ってたんだけど、申し訳ないっすね。今、時間だいじょうぶなんですか?」

『あ、はい。夕食は、あまり食べませんので』


 雪村は夕食を食べない主義なのか。そういえば彼女の身体はかなり痩せていた気がする。


『や、八神さんこそっ、お夕食は、お食べに、なられたのですか?』

「いや、俺も食べてないけど、腹はあんまり減ってないから平気だ」


 本当はかなり腹が減っているが、この通話を切るわけにはいかない。俺は空腹に耐えて通話を続けることにした。


『あの、桂くんから、聞きました。や、八神さんがっ、わたしと、話をしたがってるって』


 桂がそんなことを伝えていたのか。だから彼女から電話してきたのか。桂の意外な気配りに、ちくりと胸が痛む。


『わたしも、あ、あの、柊二くんのことでっ、そ、相談したいので、その、お時間、よろしいですか』


 彼女も同じことを考えて俺に電話してきたのか。彼女の悩みは、山野とよりを戻したいというものなのか。それとも――。


「俺もそのことで話がしたかったんだ。たぶん長話になるから、電話だと無駄に通話料がかかっちまう。どこかで落ち合って話できないか?」

『あ、はい。で、でも、どこで、話をすれば……』


 雪村の家は知らないな。それに、碌に知らない人間に自宅のそばまで来られたら迷惑だろう。


 かと言って俺の家の近くまで来させるのも失礼だ。そう考えると、お互いの自宅の中間地点を待ち合わせ場所にするのが無難だ。


 しかし距離や移動時間をいろいろ考慮するのは面倒だな。それなら、雪村と初めて出会った場所を待ち合わせ場所にしよう。


「じゃあ悪いんだが、うちの高校の近くまで来てくれないか? うちの高校の近くの川辺で話をしよう」

『柊二くんの通ってる高校ですね。はい、わかりました』


 雪村は二つ返事で了承してくれた。


『で、ではっ、お願いします』

「ああ、それじゃあ」


 手短に挨拶を済ませて、その通話を切った。これで雪村と話をすることができる。


 彼女がどうしたいのかはわからないが、最悪な状況に陥ったら嫌われることを覚悟して説得するしかない。俺はスマートフォンのデスクトップの画面を見て決意した。


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