第九十七話 六種の神器
錬色器を全て封印した後、オレは気絶した奴隷商の服をまさぐっていた。
上着の内ポケットに手を突っ込むと手触りの良い感触が返って来る。間違いない、目当ての品だ。
「あったあった……」
高そうな革の財布を抜き取る。
財布を開くと、1万ouroの札が18枚入っていた。
「へへっ、これだけあれば十分だな。
他にも金目のモンは全部貰っておこうーっと」
「……シール君、やってること盗賊と一緒だよ」
ギク、と肩が揺れた。
いつの間にかそこに居たレイラはジトーッと細目でオレの目を見てくる。
「別にオレが使うわけじゃないよ。
洞窟へ戻ろう。締めだ」
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洞窟へ戻る最中、氷漬けにされた風景に出会った。
洞窟の入り口。この光景を作り上げたであろう張本人はいびきをかいて爆睡していた。
多分あの術を使ったんだろうな。
一騎討ちの時、初っ端使ってきたあの術、《氷錠剣羽》……。
「ソナタさん……」
「おい、サボってんじゃねぇ!」
ソナタの背中を蹴り飛ばす。
ソナタはクルクルと地面を転がり、洞窟内の岩壁に頭をぶつけて目を覚ました。
「あれ? 会長?
もう終わったのかい?」
「まだ最後の作業が残ってるよ」
バリューダが居る空間へ戻ると、シュラとバリューダが座って談笑している姿がった。意気投合した様子だ。すでにバリューダの体から傷は全て消えている。
「バリューダ。もう敵は排除したから大丈夫だ。
後は薬を持って帰るだけだな」
「本当になんと感謝すれば……金まで払ってもらって申し訳ない。
なにか、返せる物があればいいが……どうだろう、私が渡せる物なら何でも渡そう」
「本当か? じゃあソレくれ」
バリューダの横、中央に赤の錬魔石を埋め込んだ丸形の盾を指さす。
巨人の盾だ。
「……盾が、欲しいのか?」
バリューダは頬を染めて、声を震わせる。
「無理にとは言わないけど……」
「いや、盾は正直泳ぐ際に邪魔だった。替えの物も故郷にあるからいらないといえばいらないのだが……」
戦士のような雰囲気を持つバリューダにしては珍しく、もじもじと、女性らしい仕草をしている。
「――古くから巨人の里には面白い風習があってね」
なぜかソナタが急に蘊蓄を語り始めた。
「巨人族の女性から巨人族の男性にプロポーズをする際は、自分の愛用の盾を送るんだ。
『盾の代わりに、一生私を守ってください』って意味を込めてね」
「――へ?」
なるほど、それでこの反応か。
なぜだろう、冷ややかな視線を感じる。
「……シール君、お礼にそういうこと要求するのは良くないと思うな」
「さいっていね!」
「お前ら……話の流れからオレに他意がないことわかってるだろ」
「ふふっ、巨人の風習など気にするな。
あくまで、巨人同士で盾をやり取りするならの話だ」
バリューダは盾を持ち、オレの前に立てかける。
盾の影でオレの周囲4メートルほどが黒く染まった。
「この盾、お前に捧げよう。
しかし、お前が使うには少々大きすぎる気がするが……」
「いいんだよ。これぐらい大きい方が面白い!
――“烙印”」
盾に字印を付け、札に封印する。
バリューダはオレの術を見て眉をピクリと揺らした。
「なんだ……? 盾が一瞬で消えた?
お前の術か?」
「凄いだろ? 自慢の術だ。
なぁバリューダ、この盾、名前はあるのか?」
「ない、無名だ」
「そっか……じゃあいま名付けよう」
レイラ、シュラ、ソナタが右手を挙げ、順々に盾の名前の候補を挙げていく。
「巨人の神様から名前を取るのはどうかな? アウルゲルミルッ!」
「名前呼ぶとき噛みそうだから却下」
「こういう時は単純明快が一番よ! 巨人の盾だからジャイアントシールド!」
「捻りが無さすぎる……」
「折角だからバリューダちゃんの名前を入れようじゃないか。
バリューダバックラー!」
「……。」
「本人が照れてるからやめよう」
そうだな……変に捻るのもアレだし、呼びやすく、わかりやすい名前がいい。
「船の帆ぐらいデカい盾だから……帆。
よし、セイルシールドでいこう!」
微妙な顔をする仲間三人。全員自分の提案の方が良いのに、って顔だ。
「いいと思うぞ。私は気に入った」
唯一、バリューダは賛成してくれた。
オレは盾を封じた札に“帆”と書き込んだ。
「シール君、ここから海辺までどうやってバリューダさんを送るつもり?
帝都の近くを通るから、下手したら騎士団に見つかって余計に面倒なことになるよ」
「その件については悩む必要はないと思うよ、レイラちゃん」
「え?」
「そうだぜレイラ。オレが何術師か忘れたか?」
レイラは「あ!」と声を上げる。
そうだ、ここまで来ればなにも問題はない。札にバリューダを封印し、東側の海まで届ければいいだけだ。
「はい、会長」
「ん?」
ソナタは赤色の液体が入った小瓶を渡してきた。
「“魔填薬”。
飲むと魔力が回復する液体さ。液体の色によってどの色の魔力が回復するかわかるよ。
いま渡したのは赤の魔力を回復する“魔填薬”だ」
「助かる。奴隷商との戦いで赤魔は使い尽くしてたからな……」
バリューダとバリューダの剣を封印する。
他三人がバリューダの衣服を分担して持ち、東の海辺に向かった。
~~~六種の神器復習~~~
①名称:オシリスオーブ 初登場:第四話
武器種:指輪 錬魔石{赤}
説明:嵌めると赤魔の消費が始まり、身体能力を大幅に上昇させる。一度嵌めると赤魔が無くなるまで外せない。赤魔の量に比例して効果時間と強化量が上がる。ただし、赤魔の量が一定のラインを超えたら効果時間は打ち止めになる。
➁名称:ルッタ 初登場:第六話
武器種:短剣 錬魔石{青}
説明:青魔を込めると冷気が出て、その状態で斬り殺した相手を確実に冥土送りにする。蘇生封じの剣。ゾンビ類に強い。再生者には効かない。そもそも再生者は死なないので、首を落としても心臓を貫いても『殺した』扱いにならず、冥土送りにできない。シールは短いエモノが好きなため、結構愛用している。
➂名称:獅鉄槍 初登場:第九話
武器種:槍 錬魔石{赤・緑}
説明:赤魔を込めると強度が上がり、緑魔を込めると伸びる。如〇棒とか言ってはいけない。序盤のシールの要の武器であり、作者的にも大いに助かった展開を切り開く槍。最近は便利な錬色器が増えたため、段々と出番が無くなっていくであろう。お疲れ様。
➃名称:偃月 初登場:第六十一話
武器種:ブーメラン(大型) 錬魔石{赤・青・黄}
説明:赤魔を溜めると攻撃力が上がり、黄魔を込めることで自在に軌道を操作できる。青魔はこの複雑な魔力の流れをコントールするために必要。詳しい説明は六十一話にて。必殺技、コンボパーツ、奇襲。なんにでも使える万能武器。赤魔を込めて握って振るえば近接武器としても使える。ミスター万能。
⑤名称:雷印 初登場:第七十六話
武器種:弓 錬魔石{緑}
説明:緑魔を込めると雷の矢を形成する弓。威力は極低。特筆すべきは矢が散った際の雷音と雷光であり、相手の至近距離で矢を炸裂させれば耳と目、同時に眩ますことができる。閃光玉。魔力消費は非常に少ない。千発は撃てる。ある意味どんな相手・格上でも通用する武器である。
⑥名称:セイルシールド 初登場:第九十七話
武器種:盾(大型) 錬魔石{赤}
説明:デカい盾。通称ホタテ。
暫くはこの六つの錬色器でいきます!
ちなみに作者的に一番のお気に入りは雷印です。次点で獅鉄槍です。






