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【WEB版】退屈嫌いの封印術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第四章 封印術師と巨人の戦士

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第九十四話 人形遊び

 煙の強さは濃さでわかる。


 風景を覗けるぐらいの薄い煙は回避・防御の必要はない。


 逆に風景が見えないほど濃い煙は避けないと駄目だ。防御しても突破される。


 奴隷商は煙を自在に変化させ、鳥や虎や蛇や色々な形にして飛ばして来る。

 それらの飛び道具を躱し、前へ進むが、ある程度進むと奴は白煙の(ウェーブ)を起こして来る。これが厄介。


 射程はないが広範囲。ある程度近づいていると避けられない。

 遠距離が得意なタイプに見えて、近接の方が強力。あっちから積極的に近づいてくることはないから雷印や偃月で遠距離戦を繰り広げてもいいがキリが無いし、あっちの総魔力量がわからないから持久戦を仕掛けるのも気が引ける。


 なんて考えていると早速奴はウェーブを起こして来た。



「――このっ!」



 白煙のウェーブに流され、倒れこんだところに追撃が迫る。


「オラオラどうした小僧ッ!!」


 離れたオレに奴は白煙の塊を飛ばして来た。

 地面を転がって躱し、飛び起きる。


 

「……ふぅ!」



 肺に溜まった空気を吐き出し、頭を冷やす。

 攻めあぐねているのは白煙のウェーブのせいだけじゃない。奴の副源四色、これが分からない以上迂闊に前に出れない、攻めきれない。


 さっき偃月で傷ついた腕を治していない。このことから察するに白はない。

 黒か黄色か、はたまた虹色か。

 虹色は一番レアらしいから確率は低い。ここまで出し惜しんでいることから見るに、一番濃い線は必殺能力の高い黒かな……アイツ、オレを人質にするとか言っていたし、黒魔ならそう簡単にまき散らせないだろう。次点で黄魔だ。


「そらよ!

 とっておきの一手だ!!」


 再び白煙の塊を飛ばして来る。今度はかなりデカい、気球ぐらいはある。


 横に逸れて塊を避ける。塊は地面に激突すると周囲に薄い煙をまき散らした。


 パチン、と指を鳴らす音が響いた。


色装(しきそう)、“(とう)”」


 色装!? 

 煙+副源四色、厄介な気配しかしない!!


「《カプノス・ドミナートル》……!」


 煙の色が橙色に変わっていく。

 黄魔の色装……! 中には赤の魔力も混ぜられている。


「俺の《カプノス・ドミナートル》の能力は単純だ。

 この煙を吸った全ての生物を支配下に置く!!」


「全ての……」


 鼻孔から橙色の煙が入ってくる。


「まずいっ!!」


 慌てて煙の外に出るが、多分手遅れだ……!


「終わりだ。俺に従え小僧……!」


「う、ぐっ!!?」


 煙+黄魔、この組み合わせは卑怯だろ!


 か、体の自由が――!

 体の自由が……!!!?

 体の自由が……。


「……。」


――いや、別になんともないぞ。


 手は動くし、思考も正常だ。


「……?」

「……?」


 オレと奴隷商は目を合わせ、一時の静寂が訪れる。


「テメェの副源四色……まさか」


 オレは奴隷商の反応を見て納得した。


「黄魔を使える奴には通じないってオチか?」

「ちっ!」


 理屈はなんとなくわかる。

 黄魔使いは得てして黄魔の扱いに慣れている。多少、他人の黄魔が体に入ったところで青魔で弾き出せるのだろう。もしくは自分の支配の魔力で体の支配権を奪い返したか。

 所詮は煙に混ぜられた塵程度の黄魔、黄魔使いなら意識せずとも支配権を奪い返せるわけだ。

 だけど多分、大量に吸い込んでいたらヤバかったかもな。まぁ色装が付いた時点であの煙の中に長時間居ることはありえなかったけど。


「しかし」


――コイツの能力凶悪だ。


 レイラやシュラがこれを初見でなんとかできるか微妙。もしオレがここを突破されて、アイツらが操られて人質にされたら詰む可能性がある。



 コイツはここで、絶対にオレが処理しないと駄目だ。



「別にいい。だったらコイツらに使うまでだ」



 橙色の煙はオレじゃなく、地面にうずくまる奴隷二人に向けられる。


「なにを……」


 元々指揮下にある奴隷に吸わせて意味があるのか?


 黄色のオーラを纏った奴隷二人の姿を見て、オレは奴隷商のやろうとしていることを理解する。


「――やめろ……」


 他人への色装付与。

 黄魔による肉体のリミッター解除。

 もしそれが煙を介して使えるのなら、戦力は増強するだろう。


 問題はそこじゃない。そいつらは()()()()()()()


 経験したからわかる。黄魔の色装は肉体への負荷が半端じゃない。訓練なしに耐えられるもんじゃない……!


「さぁ、馬車馬(ばしゃうま)のように働け! 

 奴隷らしく、全てを捧げろ!!」


「やめろテメェ!!」


 奴隷商に向けて走る直前に、二つの影が前方を塞いだ。

 さっきまでとは比べ物にならない速度で奴隷二人は動き、おっさん奴隷の拳はオレの腹部を、少女奴隷が飛ばした氷の(つぶて)はオレの頬を捉えた。


「――ッ!?」


 背中を地面に擦り、十数メートルの距離を移動する。

 口の中に血の味、頬の裏が歯に当たって切れたか。血を唾と一緒に吐き捨て、腹をさすりながら態勢を立て直す。


――怯え切った顔が正面にあった。


「なんだ、これ……体が、勝手に……!」

「痛い――いや、やめて。痛いよ……!」


 体の血管が弾け、血を滲ませる奴隷二人。

 自分の体が他人に支配される恐怖、奴隷二人の表情は直視できるものじゃなかった。


 奴隷商は鼻で笑いながら、そんな彼らを眺める。


「まさに操り人形ってやつだ。俺に従わねぇ奴は殺す!

 支配者は俺だ!!」


 涙を流しながら、奴隷二人は迫ってくる。

 ボロボロの体を無理やり動かされながら……、


「……。」


――オレの中で、何かがはち切れた。

ちなみに煙魔術+黒魔はエグイことになります。

形成の魔力で形成できる物質は個人差があります。それはいずれ本編のどこかで説明できればと思ってます。

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