第八十七話 巨人の洞窟
巨人を探すのは簡単のはずだ。
足跡を探せばいい。巨大な人の足跡を。なのになぜ、奴隷商は探すのに手間取っていたのか。
「足跡は魔術かなにかで消してると見ていいね」
とソナタは言う。
「帝都の方面に居る可能性は低いと思うな。
人に見られたら足が付くから」
とレイラは言う。
レイラの意見通りなら場所は限られてくるな。オレらが居た渓谷、もしくは火山か、渓谷と火山の間の狭間道。あとはこの岩石地帯か。
「別の大陸から来たってことは海の方から来たんだろ」
「火山のさらに東にある海だろうね」
「なら、その辺りに居るんじゃないか?」
「海の付近をさっきのギルドの面々が探していないはずがない。火山、狭間道と順々に探して、次に渓谷を探しに入ったところで僕らと鉢合わせした。と考えていいと思うよ」
東側に居る可能性はほとんどないか。
「なら渓谷か、それともさらに西か……」
「渓谷もないわよ。居たら匂いで気づく。
アイツらの体についていた赤い染み、アレ多分巨人の血でしょ?
あの血の匂いと同じ血の匂いは渓谷を歩いていても匂わなかったわ」
「よーし、西に行くぞ。
シュラ、なるべく影に居てくれ。お前の鼻が頼りだ」
「任せなさい!」
行き先を北から西へ、帝都から女巨人が居るらしき山に変更する。
暫く歩いて行くと森へ行きついた。そこまで大きな森ではなく、すぐに抜けることができた。森を抜けた所でシュラの鼻がなにかを察知した。
「血の匂いよ……」
「巨人か?」
「多分ね。匂いを追ってみるわ」
シュラの案内に従い、岩壁に沿って歩いて行く。
シュラが次に立ち止まったのは洞窟の前だった。
「この洞窟の中から匂いがするわ。
ここが当たりね」
「シュラちゃん偉い!」
「なんか……変な雰囲気だな」
ソナタは洞窟の中を観察し、「うん」と頷いた。
「中に苔一つ見つからない、生物の影もない。
これはつい最近作られたものだね。それも人工的に」
「シール君、ひょっとしてだけど巨人が手で掘って作った洞窟なんじゃないかな?」
「可能性はあるな。岩の魔術かなんかで中を整えながら掘っていけば不可能じゃない。
新造の洞窟なら安定していないはずだ。洞窟が崩れないよう気を付けながら進むぞ」
レイラは指先に火を形成する。レイラの火を頼りに洞窟を進んでいく。
洞窟は進むとどんどん広がっていった。入り口から歩いて1分もかからず、オレ達は目的に辿り着いた。
「……。」
顔に刺青の入った女性の巨人。身長は10メートルぐらいか。
片膝を立て、ぐったりと壁に背を預けて座っている。巨人の右手側には赤の錬魔石が埋め込まれた巨大な剣、左手側には赤の錬魔石が埋め込まれた巨大な盾が置いてある。
胸と腰のみ隠した服装。見える肌のあちらこちらには痛々しい生傷が刻まれている。
「ついに、ここも見つかったか……」
巨人は諦めたようにそう呟いたのだった。






