第七十八話 異次元の戦い
アドルフォスは微動だにしなかった。
「おーい、どうした?」
「……。」
石像のように固まってしまったアドルフォス。もしかして、信用されていないのか? なに馬鹿言ってんだコイツ、とか思われてるのだろうか。
目の前で、オレは一枚の札を出す。短剣が封印された札だ。
「ほい」
札からルッタを解封して出して見せる。そしてすぐにルッタを札に封印した。
封印術師としてこれ以上ない証拠だろう。
「お前――」
アドルフォスはようやく焦点をオレに合わせた。
「お前、封印術師なら最初にそう言え!」
今までの落ち着いた様子から一変、アドルフォスは声を上ずらせた。驚いた風に、責める風に、そしてどこか嬉しそうに。
「聞かれなかったからな」
「会う奴全員に『お前は封印術師か?』なんて聞くわけないだろ」
「会う奴全員に『オレは封印術師です』って言うわけないだろ……」
アドルフォスは懐から真っ白の石を取り出し、こっちに向かってぶん投げた。
オレは石を右手でキャッチし、観察する。一切他の色が入っていない、純白色だ。
「なんだよコレ」
「〈エリュギリオン〉。魔力を孕まない鉱石の中で最も硬いモンだ。
それに名を書き込め。“アンリ=ロウ=エルフレア”とな」
「どうして?」
「書いたら教えてやる」
アンリ――ロウ――エルフレア。
「……書いたぞ」
「よし、じゃあ行くぞ」
「え? ちょ――!」
オレは腕を引っ張られ、上空に投げられた。
「うおあ!?」
シャツを引っ張られ、オレは空中で止まる。
オレのシャツを持ち上げながら、アドルフォスは空を竜翼で飛んでいた。
「アドルフォス君。彼をどこに持っていく気だい?」
ソナタはこっちを見上げながら、真剣な面持ちで聞いてきた。
首を回し、アドルフォスの方を見ると、アドルフォスは警戒した様子でソナタを見下ろしていた。まだソナタだけは信用していない感じだ。さっき騎士団のことが嫌いとか言ってたから、騎士団員であるソナタのことが気に入らないのだろう。
「……説明がめんどくさいな。
いいからお前らはそこで待ってろ。すぐに戻ってくる」
「待てって! どこに行く気だ!? まず事情を――おわあああああああああああっ!?」
身体を捻り、空を向いて、アドルフォスの右腕を両手で掴む。
アドルフォスは有無を言わせず雲を突っ切って空を行く。
「今…ら、再…者を、封…しても…う」
「あ!? なんだよ! 風の音で聞こえないって!」
やばい、景色を見る余裕すらない。赤魔で体を固めないと風圧でぶっ潰れそうだ。速すぎるッ!
風で瞼が開かない。今オレはどこに居るんだ? 雲の上か下かもわからない。気温だけが移り変わっていく――
「どわっ!?」
地面を背中に感じ、心の底から安堵する。
見上げた景色には薄っすらと伸びた木の枝が見えた。森……いや、湿気が凄い。
そこら中に水たまりもある。湿地――ってやつなのだろうか。
「おい、アドルフォス?」
体を起こすと正面に鉄で作られた窯が見えた。
アドルフォスは窯の方に歩いて行く。
「――結界が割られてやがる」
アドルフォスは苦い顔をし、さらに歩を進めた。
「おい! いい加減ここに連れて来た理由をだな……」
地面に足をつけ立ち上がる。
ぽと。と何かが落ちた音がオレとアドルフォスの間から聞こえた。
――なんだ?
茶色の染みが、目の前の地面に広がって――
「窯にも穴が……ちっ! 逃げられた!」
アドルフォスの真後ろに、茶色の泥が湧き上がる。湧き上がった泥は女の形を取り、腕を鎌の刃のような形にしてアドルフォスに向けていた――
「アドルフォスッ!!」
オレが叫ぶより速くアドルフォスは振り返り、鉄を溶かしたようなドロドロの銀色の液体を泥の刃にぶつけ相殺させた。
アドルフォスと泥女は互いの魔力圧をぶつけ合い、睨み合う。
「待ってたわよぉ! 色男ッ!!」
「――お前の匂い、鼻につくんだよ。泥女……!」
感想ありがとうございます。
返信はできていませんがちゃんと全部読ませていただいてます。すごく執筆のエネルギーになってます。誠に感謝しております( ´艸`)






