第七十四話 反則の罰則
「【ガアアアアアアアアアアアアアッッ!!!】」
怪人が雄たけびを上げる。
オレは札から短剣を弾き出し、逆手に持った。レイラは両手にナイフを形成する。
「螺旋階段の上に扉が見えるな。
あそこから出られそうか?」
「どうだろうね……」
「よし、ひとまずオレが引き付ける。
お前は扉が開くか確認してくれ!」
「了解!」
振り下ろされる己の体躯より大きな剣。
オレは短剣で剣を受ける。
「おっっも!!」
隕石でも受け止めたのかと思った。
地面に亀裂が入る。しかし亀裂は瞬く間に修復する。この建物は壊れてもすぐに修復するようになってるみたいだ。
レイラが螺旋階段に足を掛けた。オレはそれを確認し、全ての集中力を目の前の怪人に向ける。
左から迫る剣、跳びはね回避する。待ち受けていた剣も短剣で受け、体を回転させて流す。さて、あと四つの斬撃をどう躱そうか……。
「【グオオオオオオオオオオオオオッッ!!!】」
「無茶・無茶・無茶だ!!」
斬撃の竜巻が宙に浮くオレに迫る。
オレは何も考えず来た斬撃に短剣をひたすら合わせた。衝撃が蓄積され、弾けた時、オレは壁に背中から突っ込んでいた。
「シール君!」
スタ、と目の前で着地する音。
オレは額から垂れる血を袖で拭い、「どうだった?」とレイラに問う。
レイラは首を横に振った。
「何らかの魔術で施錠されてた」
「案の定だな。やっぱ倒すしかないか……」
体に刻まれた恐怖を振り払い、オレは怪人に向かって走り出す。
レイラのナイフが走るオレを抜いて怪人の右足に突き刺さる。怪人が足のダメージを気にしている間にオレは壁を駆け上がり、壁を蹴って怪人のたった一つの目を短剣で裂いた。
「……大体、バケモンの弱点は目って相場が決まっている」
――怪人は怯むことなく、空に居るオレを見た。
あれ? 予定と違うぞ。
つーか目、気づいたら治ってやがる。目だけじゃない、レイラが傷つけた足も修復して――
「塔と同じでコイツも回復するのか……!」
「シール君ッ!!」
虫を叩き落とすかのように振るわれる六本の剣。無理、捌けない。
どうする――と考えていると、虹色の魔法陣がオレの前に現れ、中から白い肌の手が出て来た。白く柔らかいその手はオレのシャツを掴み、投げる。
投げられた先には魔法陣に手を突っ込むレイラの姿があった。
空を切る怪人の刃。
オレは地面に着地し、隣に立つ麗人に礼を言う。
「ありがとうございますレイラ様。マジで死ぬかと思いました」
「元はと言えばわたしのせいだから、礼はいらないよ」
怪人は剣を振るい、怪人の目の前にあったレイラの転移門を斬り裂いた。
「ん? お前の転移門壊せるのか?」
「転移門は魔力の塊だからね。
流纏までいかなくても多少青魔をうまく使える人なら簡単に壊せるよ」
怪人はズシズシと足音を立て、こっちを向く。
『ざーんねんでした! その子に与えられた傷はすぐさま治っちゃうよ!』
軽快な女性の声。
オレとレイラは声の先を見る。蝙蝠に似た生物が部屋の中心に飛んでいた。
「その声……受付嬢か?」
『そーですよぉ~受付嬢兼、この塔の召喚獣を操る召喚術師です!』
この塔は一層ごとに一体召喚獣が居るんだから、200層で200体もの召喚獣が居ることになる。
まさかとは思うが、あのお姉さん一人で生成してるわけじゃないよな……。
『それにしても駄目だよ君たち! ズルしたのバレバレだからね!』
「あ、やっぱり?」
心なしか、目の前のガーディアンも怒っている気がする。
『お姉さん怒ったから、最上階のガーディアンに自動修復機能付けちゃったもんね!』
「はぁ!? 卑怯だぞお前!!」
「横暴だよ!」
『いや、君たちに言われたくは無いんだけど……ほらほら、私に構ってると“ロッピ”ちゃんに殺られちゃうよ?』
地面から湧き上がる緑の光……緑の光は雷となり、侵入者を排除せんと放たれる。
「げ!?」
『はーい、頑張ってね~一瞬で致命傷与えないと何度も修復するから~』
プツっと、音が途切れ、蝙蝠は緑色の光となって消えた。
「別れるよ!」
「わかってら!」
二方向に別れてオレとレイラは走る。雷撃は止むことなく繰り出されて反撃の隙間が無い。
最悪なのは魔術を放ちながら怪人は剣を振るえると言うこと。六本の剣は三・三に標的を分けて振るわれる。
一振り目、地面を蹴り、飛んで回避。
二振り目、壁を蹴って飛んで回避。
三振り目、短剣で受け流す。
続く四方を埋める雷撃。――無理。
「いっつ……!?」
雷撃に体を焼かれ、オレは地面に転がる。体を起こすと白い影が視界を埋めた。
ぼふ。となにかが体に激突する。鼻に感じる甘い香りで影の正体がレイラだと理解した。
オレとレイラは地面を削り、倒れこんだ。
怪人は顔を歪め、勝ち誇ったように雄たけびをあげる。
片膝を付き、オレは責めるような声を出す。
「……おい、どうした天才。
暴れ足りてねぇんじゃねぇのか……?」
「わかる?
今からあの子しばくから、カバーしてねシール君……!」






