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【WEB版】退屈嫌いの封印術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三章 封印術師と万物を喰らう者

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第七十三話 第200層

「ソナタ。大隊長ってんだから、相当量の形成の魔力を持ってるんだろ?」


「うん。君がやろうとしていることを実現できるぐらいにはね」


 コイツにはもうお見通しか。


「シュラ、さっき一度アシュと変わってたからまだ時間に余裕はあるよな」

「あるけど、アンタ……まさか」

「一度経験があるお前ならもうわかるだろ?」

「無茶苦茶ね……」

「え? ちょっと、わたしだけ全然わからないんだけど!」


 オレはポケットから“獅”と書き込まれた札を取り出す。


「――これが答えさ。

 獅鉄槍、解封(open)ッ!」


 札から弾きだされる獅子の蒼槍。

 オレは槍を掴み、矛先を地面に突き立てた。


「その槍、確か伸びる奴だよね?」


「そうだ。

 形成の魔力を込めると伸びて、強化の魔力を込めることで強度を保つことができる。この槍で、塔の頂上を目指すぞ!」


「えぇ!?」


「アンタって、ほんっと無茶言うわ……」


「あっはは! 面白い、面白いよ会長!」


 一度シーダスト島でやったことだ。

 槍を伸ばした勢いで上に行く。掴んでいる位置より下の部分を伸ばせば押し上げられる形で天高く飛び上がれる。これで試練をスルーして塔の頂上へ行く。


「全員、槍を握ってくれ」


 オレ、シュラ、レイラ、ソナタは四方向から槍を両手で握る。


「ソナタは緑魔をありったけ込めろ。シュラは赤魔を全力でな。他のことは考えなくていい」


「いいのかい? シュラちゃんの赤魔より僕の緑魔の方が多いから、どっちも全力で込めたら緑魔が(まさ)ってしまう。

 緑魔が多すぎると槍が柔くなっちゃうよ」


「そこはレイラにお任せだ」


「わたし?」


「レイラは二つの魔力のバランスを見てくれ。緑魔だけが多すぎると槍がへなる、赤魔が緑魔に負けている時はお前が赤魔を込めて調節するんだ。必要なら槍に込められた緑魔を青魔で抑制してくれ」


「難しいこと言うね……」


「お前ならできるだろ? 魔力の扱いに関してお前は間違いなく天才だ」


 レイラはオレの誉め言葉に対し、照れた様子で「わ、わかったよ……」と前髪を人差し指で巻いた。


「オレは槍の伸びる先を状況に応じて調整する。

――準備はいいか?」


「ええ」


「いいよ、シール君」


「僕はいつでも準備OKさ」


 失敗すれば遥か上空から地面に叩きつけられる。

 息を合わせないと駄目な作戦だけど、急造のこのパーティで出来るかな……ええい、オレが不安がってどうする。



「いくぞ! 1、2の――おわああああああああっ!?」



 足元から地面が消え、腕に全体重が乗った。

 槍がグングン上に伸びていく。


「あれ!? 1、2の3で行くんじゃないの!?」

「お、オレもそのつもりだったんだが……!」

「え!? アンタが『いくぞ!』って言ったからそれに合わせて――」

「僕も副会長と同じだ!

 みんな集中して! もう待ったなしだよ!」


 体に降りかかる風の抵抗。

 小さくなっていく景色。

 絶対に槍は離すまいと必死にしがみつく。マザーパンクの桜が視界に移り、付近一帯が見渡せる所まで来た――と思ったら、白の景色が視界を塞いだ。


「雲か!?」

「下層雲だねぇ!」

「ウザったい!」

「真っ白でなにも見えない……!」


 視界が白く染まり、風の音がうるさいせいで仲間の声以外なにも聞こえない。

 動揺が脳髄に走る。



 お、落ち着け。槍を真っすぐ伸ばすことだけ意識しろ……!



「会長、雲が晴れるよ!」



 ぶわっ、と鼓膜の詰まりが取れると共に、太陽がオレ達に挨拶する。

 太陽が――でかい。そして、


『寒いっ!?』


 オレ達は口をそろえた。



「よし、頂上が見えて来たぞ!!」



 塔の頂上、そこを追い越す直前で、オレは見た。



――レイラの頭上に落ちる鳥の影を。



 可愛らしい、青い鳥だ。

 この勢いのまま行けば、レイラの頭に鳥が当たり、鳥は間違いなく死ぬだろう。


 オレなら、鳥などお構いなしで行く。だけどレイラは、鳥に気づいた瞬間に――槍から手を放した。


「レイラ!!」


 レイラは風に流され、塔の方へ流れていく。

 オレは反射的に槍の柄を蹴った。


「シール!?」

「会長ッ!」


「――先に行ってろ!」


 空を走り、宙に舞うレイラを両腕で抱き寄せる。


「……!?」

「ぬおおおっ!!」


――塔に掴む場所はほとんどない。

――壁に飛び込む。

――できるだけ上の階に……!


「おらぁ!!」


 赤魔で体を強化して塔の壁に体当たりをかます。


 壁が壊れ、塔の中へオレとレイラは入った。

 地面に転がりながらレイラと離れ、受け身を取る。


「ご、ごめんシール君!」

「ったく、可愛いモノ好きもほどほどにしてくれ……!」


 恐らく、塔の最上層。


 壁に沿って設置されたロウソクが部屋を照らす。マザーパンクの闘技場、そのステージぐらいは広い場所だ。天井も高い。


 受付嬢の話通りだとガーディアンが居る。それも200層目、ラスボスだ。

 相当に強い奴が居るのだろうと、オレは恐る恐る顔を上げて前を見た。


 六本腕、全ての手に剣を持った大きな人型の召喚獣。身に着けるのは腰布と兜。

 一ツ目の巨大な怪人がオレ達を見下ろしていた。


――コイツ、勝てる相手じゃない!!


「壁の穴から逃げるぞ!」


 振り向いた時には、オレらが飛び込み壊れた壁は直っていた。


「裏技を使った罰かな……」


「倒すしか、無さそうだね……!」

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