第六十六話 封印術師と呪い子と転移術師と吟遊詩人
中折れ帽にボロボロコート。
いつもと変わらない恰好をしたソナタ=キャンベルが野原に立っていた。
「そ、ソナタ=キャンベル大隊長!?」
レイラは「信じられない……」と目に尊敬の色を込めてソナタを見る。
そうか、レイラは騎士団志望だったから当然ソナタのことも知ってるのか。
「あ、君がレイラちゃんだね!
君の魔術学院での活躍は聞いていたよ。
まだ入隊してもいないのに騎士団上層部では君の取り合いが起きていたぐらいだ」
「歌が下手な人」
「アシュちゃん、その覚え方は遠慮願いたいな……」
ソナタは手提げバッグを拾い、渓谷の方につま先を向ける。
「アンタも渓谷に用があんのか?」
「うん。会長は興味ないかい?」
ソナタは帽子を手で押さえ、片目だけこちらに向けた。
「バルハ=ゼッタさんのラストパートナー。
――アドルフォス=イーター君のこと」
---
アドルフォス=イーター。やっぱりアイツが爺さんのラストパートナーか。
――『そうさな……強いて言えば私が最後に組み、共に冒険したパートナーかな』
オレが最強の魔術師は誰かと聞いた時、爺さんはこう答えた。
最強の魔術師――興味が無いわけがない。
「僕は今から彼に会いに行くんだ」
ソナタの話によるとアドルフォス=イーターは渓谷の中心に建っている塔、“雲竜万塔”の頂上に居るらしい。つまり、レイラが以前に言っていた仙人っていうのはアドルフォスのことだったみたいだ。
「ついて来るかい?」
「……。」
なんだか、乗せられてる気がする。
コイツ、本当はオレのこと待ち伏せしてたんじゃないか。上手くオレを誘導して、例の新設部隊にオレを加えようとしてるんじゃなかろうか。
勘繰っても仕方ないか。念のため、常に警戒は解かないでおこう。
「いま多数決を取る。
会いに行きたい奴は手を挙げろ~」
オレとレイラは手を挙げ、アシュは手を挙げなかった。
「わたしは興味あるよ。おじいちゃんと一緒に旅した人のこと」
「私は興味ない。あんな高い塔、登るの疲れそう……」
“雲竜万塔”は渓谷の中心にある雲を突き抜けるほど高い塔だ。
確かに登るのは大変だな。アシュ……というか、アシュラ姉妹にしてみりゃアドルフォスなんてどうでもいい存在だもんな。わざわざ無理してまで登りたいと思うはずが無い。
「アドルフォス君はバルハさんと一緒に世界中を旅していた。知識の量はかなりのはずだ。
もしかしたら呪いを解くヒントも、知ってるかもしれないよ?」
アシュが手を挙げ、目的は統一した。
「決まったみたいだね。
じゃあ、気を取り直して渓谷へ向けてレッツゴー!」
「成り行きでお前と行動することになっちまったなぁ……」
「あれあれ? 会長ちょっと不機嫌? あ! もしかして、
……美少女に囲まれて、ハーレム冒険旅! とか、ちょっと夢見てたんじゃない?」
ソナタが図々しく肩を組み、小声で言ってくる。
「そ、んなことぁ……ねぇよ?」
「目を泳がせながら言っても説得力ないよ?」
「実のところ、異性多数ってのは結構居たたまれなかったからな。
正直お前がパーティに加わってくれてホッとしてるよ」
「そうかい?
それは良かった。仲良くしてね」
「裏切る時は先に言えよ」
「……僕ってそんな胡散臭いかな」
アシュラ姉妹。
レイラにソナタ。
そんでオレ。
4人(+1人)で、オレ達は渓谷へ入っていく。






