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【WEB版】退屈嫌いの封印術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 封印術師と常春の街

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第六十三話 本当の笑顔

 マザーパンクの外、野原にオレとシュラは並ぶ。

 見送りにはパールとアカネさん、ディアとガラットが来ていた。


 オレは首を回し、白髪の少女を探す。


「アイツは……居ないか」


 レイラの姿はない。

 結局、手紙を見せた意味はあったのだろうか。

 手紙の内容をオレは知らない。爺さんの手紙を見て、アイツが立ち直れていればいいが……ここばかりは爺さんを信じるしかないな。


「シール君、シュラちゃん」


 アカネさんは優しく微笑み、オレとシュラの頭にそっと手を乗せた。


「辛くなったらいつでも遊びに来ていいからね」


 うっ……なんて母性だ。

 母親が居た経験の無いオレに、この母性は突き刺さるな。


「はい。短い間だったけど世話になりました」


「ま、まぁ気がむいたら遊びに来てあげてもいいわ!」


 シュラもシュラで照れている様子だ。


「ふふっ、

 楽しみに待ってるわ」


 アカネさんの隣ではパールが腕を組み、「がっはっは!」といつも通り笑っていた。


「私もマザーパンクに溜まった仕事を片付けたら帝都へ行くからな!」


「別にいいよ。

 あんま家空けてアカネさんを一人にさせんなよ」


「あらあら、

 シール君は良い旦那さんになるわね!」


 アカネさんが目を細めてパールを見る。

 パールは「うーむ」と申し訳なさそうに目を逸らした。


 夫婦の間を縫って、小さな二つの影がオレの前に出る。ディアとガラットだ。


「偃月になにか不備があったら持ってくるっす」


「あいよ」


「吾輩をモフりたくなったらいつでも帰ってこい!」

 

 スッと右に視点をズラすと、シュラがチラチラとガラットを見て頬を赤くしていた。


「触りたきゃ触ればいいだろうよ」

「うっ……じゃあ、ちょっとだけ」


 シュラがガラットに襲い掛かる。「のわぁ!?」とガラットの叫び声が響いた。

 全員、別れの挨拶が済んだところで、オレ達は旅路へ足を踏み出す。


「よし行くぞ」


 マザーパンクに背を向けようとした時だった。




「待って!!」




 少女の声がオレ達の足を止めた。

 オレは振り返り、その声の主を見て目を丸くする。


「おまっ――」


「アンタ……」


 声の主は白髪の少女だった。


 真っ白な服に身を包んでいる。間違いなく、レイラ=フライハイトだ。

 しかし、その髪は肩の所で切り揃えられていた。腰まで伸びていた長髪は見る影もない。


 頭に花の形をした髪飾りを付け、

 肩には鞄を掛けている。


「どうしたんだ? その髪……」


「ん? 深い理由はないよ。邪魔だったから切っただけ。

 似合ってない、かな?」


――上目遣いでそう聞くのは反則だと思うんだ、オレは。


「い、いや……似合ってるぞ。

 むしろ好きな長さだ」


「ほんと?

 えへへ……良かった」


 短い髪を人差し指でクルクル巻きながらレイラはホッとしたような表情を浮かべる。


「なぁにデレデレしてんのよ。

 気持ち悪っ!」

「お前はなにイライラしてるんだ?」


 シュラはレイラの肩に掛かった鞄に視点を合わせ、指をさす。


「ちょっとアンタ、荷物なんて持ってどこに行くつもりよ?」


「うん、そうだね。

 まずはそのことを伝えないとね……」


 レイラはオレ達を歩いて追い抜き、振り返った。


「わたしも、君の旅について行かせて。シール君。

 わたしも帝都に行きたい。帝都に行って、おじいちゃんの罪を晴らしたい」


「は?」

「なぁ!?」


「ダメ……かな?」


「お断りよ!」

「いいぞ」

「ちょっと!」


 シュラがオレを見上げて睨む。


「なんだよ、戦力的には問題ないだろう」

「ぐっ、そりゃそうだけど……」

「爺さんの家に向かうならコイツが居た方が色々と上手く運ぶ。

 違うか?」

「むー……」


 オレが連れて行かずともコイツは単独でも動いてしまうだろう。だったら目の届く範囲に置いておいた方が楽だ。コイツは、死なせるわけにはいかないからな。

 それに、コイツの能力はオレと相性がいい。一緒に行動して損はないと断言できる。


「よろしくねシュラちゃん!

 ん~! やっぱ可愛い……」


「ふんっ!

 足手まといにはなるんじゃないわよ!」


 レイラに近づく二つの足音。

 パールとアカネさんが寂しそうな顔でレイラを見つめていた。


「レイラ嬢……」


「パールさん、本当にお世話になりました。アカネさんも、ありがとうございました……」


「レイラちゃん。もう、大丈夫みたいね」


「はい……」


 レイラは少し涙ぐみながら夫妻に頭を下げた。

 レイラが頭を上げたところで、オレは口を開く。


「レイラ」


「なに? シール君」


 人差し指を上げ、レイラの頭に着けられた桜色の髪飾りを指さす。


「似合ってるぜ、その髪飾り。

 すげー好みだ。良いセンスしてるな」


 綺麗な桜色だ。

 なんだか、見てるだけで落ち着く色だ。


「――っ!?

 う、うん……ありがと、ね」


 レイラは俯き、スタスタとオレの側を抜けていく。

 あれ? なんか間違えたか? 素直に褒めたつもりだったが……。


「ねぇ、シール君」


 レイラは顔を上げ、オレの瞳を覗く。


「前言撤回の、撤回していい?」


 その笑顔は街を彩る桜のように晴れやかで、一点の曇りなく、綺麗で美しいものだった。




「やっぱり君は、わたしの大好きな人によく似てるよ……」




 常春の街、マザーパンク。

 桜舞い散るこの地で、ようやくオレはレイラ=フライハイトの、彼女の本当の笑顔に出会えたようだ。


「そっか。そりゃ光栄だ」


 新たにレイラを仲間に加え、オレ達はマザーパンクを後にする。


「よし、出発するぞ!

 目指すは帝都〈アバランティア〉だ!」


 こうして、一人の少女のすれ違いは終わり、また新しく物語が始まっていく。

 火山や渓谷が待つ広野に向かって、オレとシュラとレイラは同時に足を踏み出したのだった……。

第二章 完


お手数でなければ評価やブクマ、感想やレビューを頂ければモチベーションアップにつながります。


次の章を読む前に外伝『パーティメンバーを喰いつくしたら強くなれました。』を見ていただけると幸いです。本編の前日譚であり、本編に出て来たキャラも登場します。外伝の主人公が次章でキーパーソンとなるので、是非一読を。


封印術師の更新情報などは活動報告もしくは近々はじめる予定のTwitterをチェックしてください。

Twitterなどで応援してくださった方々、誤字報告をしてくださった方々、本当にありがとうございました。励みになりました。


それではまた第三章で会いましょう( ´艸`)

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