第六十一話 新しい武器を使おう!
旅立ちの朝を迎える。
だが旅に出る前に行く場所がある。
「もう出来てるかな……」
早速新しい錬色器を求めて錬金術師の店へ向かった。シュラは部屋を覗くとまだ腹掻いてむにゃむにゃ言ってたから置いて行った。
錬金術師の店の扉を開けると、カウンターの側で一人と一匹が待っていた。
カウンター台には紫の布で包まれたVの形をした物体がある。
「待ちかねたぞ貴様っ!」
「これでもはやく来たつもりだ。
ディア、それがオレが依頼していたブツか?」
「うっす。
完璧にできたっすよ」
興奮していることを悟られないよう、意識してゆっくりと歩を刻む。
喉が鳴る、胸が高鳴る。
カウンターの前に立ち、オレは紫色の布を掴んで、一気に引いて剥いた。
扉ぐらいある大きさ。
美しい開けたVのライン。
木のような質感の堅い物質、持ち手となる出っ張りにはそれぞれ青の錬魔石と赤の錬魔石、真ん中の尖がりには黄の錬魔石が埋め込まれている。
「おぉ……!!」
思わず声を上げてしまった。
なんというか、こう……店に並んだ武器を買うのとは違う、また別の感動がある。
「銘は“偃月”。
破壊力と操作性に重点を置いた傑作っすよ」
「カタログで見た時は片手で投げる様なブーメランだと思っていた。
こんなデカいとはな……」
「本来はその二分の一の大きさだったさ。
今回は特別だ」
「そんなオーダー出した記憶ないぞ」
「三個もの錬魔石のポテンシャルを活かすならこの大きさがベストなのだ。
しかしこの大きさのブーメランを持ち運ぶのは難しいため、いつもブーメランを作る時は小さめにしている。だが! 貴様は物を収納する術を使う、ならば遠慮はいるまい」
「ガラットの意見で大きくすることに決めたんすよ」
「いいね、手ぶらの奴がいきなりこんなモン出したらビックリするだろうな~」
ブーメラン“偃月”の端を両手で持ち上げる。
――重い。
魔力なしだったら持ち上げることすら叶わないかもしれない。
魔力ありでも両手で投げないと勢い付かないかもな。
「偃月の使い方を説明するっす。
マザーパンクの外の平野にいくっすよ」
ディアの提案で、ブーメランを持って平野に向かった。
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草が生い茂る真っ平な土地。
オレ、ディア、ガラットは並び立つ。
「まずその偃月を使いこなす二つのポイントを説明するっす」
「ズバリ!
“溜め”と“コントロール”だ!」
偃月には三個の錬魔石が付いている。
赤、強化の錬魔石。
青、操作の錬魔石。
黄、支配の錬魔石。
獅鉄槍と同じで、それぞれの錬魔石にはちゃんと意味があるのだろうな……。
「赤い魔力を偃月に込めてみるっす」
偃月を両手で持ち、赤魔を込める。すると、偃月の赤の錬魔石が光り、白い蒸気がブーメランから上がった。
「それが溜め1だ。もっと魔力を込めろ!」
「こ、こうか?」
さらに赤魔を込めると今度は赤い粒、火花のようなモノが白い蒸気に混ざり始めた。
「それが溜め2っす。もっと魔力を込めるっす」
「簡単に言うけどな……! これでも結構全力で――」
赤魔をさらに込める。
きつい……! 赤魔が搾り取られそうだ……!
「――っ!?」
手元が熱くなる。
全力で赤魔を込めた結果――偃月は赤く燃え上がった。
炎に似た赤きオーラが湧き上がる。
「それが溜め3だ。
溜め無しで投げれば一般人を気絶させる程度の威力、
溜め1ならばその辺の雑魚魔物を卒倒させる程度の威力、
溜め2ならばゴーレムすら破壊する威力を発揮し、
溜め3ならば……」
ガラットが肉球を遠くに見える岩壁に向ける。
オレは頷き、偃月を思い切り岩壁に向かって投げた。
「そうらぁ!」
偃月は縦回転し、空間を裂きながら岩壁に迫る。
ゴォォンッ! 鼓膜に凄まじい炸裂音が響く。
岩壁は偃月によって深く抉られた。砲弾でもぶち込んだような破壊の跡が岩壁には刻まれていた。
「溜めを少なくして使えば小回りの利く飛び道具として使える。
最大限溜めれば躱すのが困難な必殺武器となる!」
なんて……なんてオレのニーズに合った武器なんだ。
貧弱だった中~遠距離をカバーし、尚且つ致命的だった火力不足をも補うなんて。
「次に黄魔と青魔の使いどころっすけど」
「ああ、いやそれは何となくわかるから大丈夫だ」
黄色の魔力、支配の魔力を細長くして岩壁に食い込んだ偃月に伸ばす。
支配の魔力を偃月に埋め込まれた黄色の錬魔石にくっ付ける。そんで引っ張る。すると偃月は回転しながらオレの方へ戻って来た。
偃月が手元に戻ってくる直前で黄色の魔力を右に逸らすと偃月も右に飛び、左に逸らすと左へ、上空に伸ばすと空に飛ぶ。上空から舞い降りる偃月を両手でキャッチした。
「――っ!?」
「……。」
「支配の魔力でブーメランを支配して、操る!
こんな感じだろ、偃月の使い方……ってなんだその顔。違うのか?」
「なんすか、そのヨーヨーみたいな使い方」
「“よーよー”?」
「し、信じられん黄魔の量だな……。
あんな無茶苦茶な芸当が成立するとは……」
「どっちみち効率悪いっす。
偃月は投げる前に赤魔と黄魔と青魔を一気に仕込むんすよ」
「ほう」
「手元から離れれば魔力は外に流れ始めてしまうんすけど、青魔でそれを制御するっす。
予め青魔に魔力の動きを指示しておいて投げる。投げられたブーメランの中にある青魔が使い手の指示通りに黄魔を動かし、ブーメランの軌道を変更させる」
「つまり、投げる前に軌道は決まっちまうってわけか」
「貴様の場合、いざ軌道を変えたいってなった時は先ほどみたいに動かしてもよいと思うがな。
しかし、毎度毎度あんなことをしていれば黄魔はともかく青魔は簡単に尽きるぞ」
「とりあえず一度、“まっすぐ行って”、“まっすぐ帰ってくる”。と意識して魔力を込めてみるっす」
「りょーかいりょーかい」
偃月を後ろに振りかぶる。
「あの岩壁の直前までまっすぐ行って、まっすぐ帰ってくると……」
集中し、黄魔と青魔、あと少量の赤魔を込める。
「おら!」
そんで思い切り投げる。
ブーメランは横回転でまっすぐ飛び、岩壁に着くギリギリのところで軌道変更、まっすぐこっちに向かって飛んでくる。
「おっ! うまくいっ――がはっ!!?」
まっすぐ帰ってきたブーメランは止まることなくオレの腹に激突。
オレは宙に飛び、遥か後方で地面に背中からダイブした。
「ダメっすよ、ちゃんと“自分の手元で止まる”ところまで指示しないと」
「愚か者め!」
「先に言っといてくれ……。
だがまぁ、性能はわかった」
立ち上がり、後ろに転がる偃月を殴る。
「――“烙印”」
“封印”
“月”と書き込まれた札に偃月を封印する。
「それにしても珍しい術っすね」
「バル翁の術だろ? 懐かしいな」
「なんだガラット、お前爺さんのこと知ってるのか?」
「少しだけな。前に一度、助けられたことがある」
「ウチもバル翁は知ってるっすけど、これ、バル翁の術なんすね」
爺さん、地味に色んな奴に知られてるな。
案外有名人なのか? あの爺さんは。
「これで説明は終わりっす」
「ありがとな!
すげーオレにピッタリな武器だ。コイツがあれば戦闘の組み立てがグッと楽になる……!
マジで良いぜ。大事にするよ」
「仕事っすから」
「壊したら許さんぞ!」
「へいへい」
時間も良い頃だな。
オレは一度マザーパンクに帰り、シュラを回収しにパール宅へ戻った。
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「お! 帰って来たかシール!」
パール宅へ着くと、リビングでパールがある男と対談していた。
「なんでお前がここに居やがる」
苛立ちを込めた声で言う。
オレに気づいたその男は中折れ帽を取り、軽快な笑顔でオレに手を振った。
「久しぶりだね! 会長!」
「ソナタ=キャンベル……」






