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【WEB版】退屈嫌いの封印術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 封印術師と常春の街

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第五十八話 新しい武器を作ろう! その5

 アドルフォス。

 確か爺さんに恩があるとか言ってたっけな。爺さんもコイツのことは信頼している感じだった。


 爺さんを貶め、大罪人に仕立て上げた相手に心当たりがあるかもしれない。聞いてみるか……

 


「ちっ、またハズレか」


 アドルフォスはオレの顔を見たが、無反応。

 どうやら、あっちはオレのことを覚えてないらしい。つーかあの牢屋に来た時、オレのこと認識して無かったのだろう。――悪かったな、存在感無くて。


「おい、アンタ――」


「何者だ貴様!」


 ガラットが声を荒げる。

 歯をむき出しにして、ガラットはアドルフォスを威嚇する。


「どうした犬っころ?

 なにをそんな……」


「警戒を解くな!

 その男からは魔物の匂いがする……!」


「なに馬鹿なこと言ってるんだ?

 どう見ても人間じゃねぇか」


「いや、その犬……良い鼻を持っているな」


 バサ、と風を切る音と共に、アドルフォスの背中から真っ赤な翼が()えた。

 大きく猛々しく広がったそれは、まさしく――


「ドラゴンの翼……!」


「やはりな!」


 アドルフォスは翼を羽ばたかせ、岩の上に移動し、オレ達に背中を向ける。


「ドラゴンだけでは無いな。

 他にもシルフ、スライムと……あともう一体、魔物の匂いがする」


「――犬の鼻……いや、祝福の力か?

 異常な嗅覚を持ってるな。当たりだ。

 あともう一体はメタルコンダクターって言う、金属を操る魔物だよ」


「貴様、やはり魔人か!?」


「違う。だが遠からずだな」


 アドルフォスは竜の翼を上下に振って再び空に浮く。

 オレの知りうる知識で、無理やりあの竜の翼の原理について考察するなら……あれか、形成の魔力で作ってるのか? 鉄とかも作れるわけだし、魔物の翼を作れてもおかしくはない――かな。


「悪いが、これ以上お前らに構っている暇はない」


「待て! 聞きたいことがある!」


 アドルフォスは翼を止め、岩の上に着地する。


「……なんだ?」


「アンタ、バル――」


 オレが爺さんについて聞こうとした、その時だった。


――ぐぅーという情けない音がオレの話を遮った。


「……。」


 腹の鳴る音だ。

 音の方向からして、今の腹の音は間違いなくアドルフォスだ。


 アドルフォスは「ゴホン」と咳払いし、


「急用が出来た。

 俺はもう帰る」


「は? ちょ、待てって!!」


 アドルフォスはあっという間にどこかへ飛び去ってしまった。


「なにが急用だ。ただ腹減っただけだろ……」


「妙な匂いを放つ男だった。

 あまり関わりたくないな」


 ガラットは踵を返し、マグマロックの死体に近づく。

 バラバラになったマグマロックの死体からは黒い瘴気が天に昇っている。


 マグマロックの頭が溶けて中から黒色の珠が姿を現す。ガラットは珠に歩み寄り、珠を口に咥えた。


「あ、テメェ!」


 オレはガラットが黒色(破壊)の錬魔石を持ち去ると思い、駆け寄る。


 だがガラットはオレの予想とは違い、口に咥えた錬魔石をオレに向かって投げた。「おっとっと!」と後ずさりながら錬魔石を両手で包み込む。


「今回の戦い、貴様らの方が活躍した。

 吾輩はおとなしく身を引くとしよう」


「いや、MVPはさっきの乱入者除けば間違いなくお前だったと思うがな」


「元より一対二だ。貴様ら二人の働きを合計すれば吾輩の働きを超す。

 それに、一度吾輩は貴様らに救われている。あの時点で、吾輩がそれを手にする権利は失われた」


「そうか?

 じゃ、ありがたく貰うぜ」


「ふんっ、大切にしろ。

 じゃあな。吾輩はここで鉱石の採取をする。手土産が無いと恰好つかん」


 ガラットはそのままマザーパンクとは逆の方向に去っていった。

 オレは黒い錬魔石を指先でクルクル回しながらマザーパンクの方へ足を反転させる。


「もふもふ……」


「さぁ撤収だ。

 これで新しい武器が作れる」


 オレは黒の錬魔石を背負っているバッグに入れ、マザーパンクへ向かって歩を進める。

 錬魔石三個付きのブーメラン……一体どんな性能になるのか、今から楽しみだ。

 



 --- 



 錬金術店〈ケトル=オブ=ガラディア〉に戻ると、コクンコクンと頭を上下させる猫耳女子の姿があった。涎でマフラーを濡らしている。


「もふかわ……」


 まぁ確かに愛くるしい姿だ。

 しかし人にもの頼んでおいて寝るか普通。コイツ、錬金術師としての腕は知らないが店員としては失格だな……。


「起きろディア。錬魔石持ってきたぞ」


「ふにゃ」


 はじめて猫らしい語尾が出た。

 オレは黒の錬魔石を放り投げる。ディアは錬魔石をキャッチし、「ほうほう」と眺めた。


「ほぉー、本当に持ってくるとは……」

「それと黄色の錬魔石を交換してくれるんだろ」


 オレはバッグから赤と青の錬魔石を取り出し、カウンターに並べた。


「これで作れるよな?」

「うっす。

 でも少し待ってほしいっす。パートナーが居ないっす」


「お前一人じゃ作れないのか?」


「知らないんすか?

 錬金術師は原則二人一組で活動するんすよ」


 オレが首を傾げるとディアは詳しく錬金術について教えてくれた。


「錬金術の基本は再構築っす。

 素材を破壊して、混ぜ合わせながら再生させる。今回作るブーメランも錬魔石と鉱石を破壊して、組み合わせながら再生させるんすよ。

 これを(おこな)うためには黒の魔力を扱える者と、白の魔力を扱える者、両者が必要なんす」


 黒の魔力、破壊の魔力で素材を破壊する。

 破壊して粉々になった素材を白の魔力、再生の魔力で混ぜながら再生させる……なるほど。確かにうまい具合に魔力を使えば二つの物体が一つになるか。


「素材を破壊し過ぎてもダメ、素材を完璧に直してもダメ。

 破壊の魔力と再生の魔力、この二つの魔力をバランスよく注ぎ込まないといけない。

 錬金術は数ある術の中でもトップレベルに難しいって聞くわ」


 視線を右下に落とすとアシュが居た所にシュラが立っていた。例の如くダボダボ服を着て。


「いつの間に……」

「アンタ、今回黒の錬魔石取るの手伝ったんだから、次もし白の錬魔石を手に入れる機会(チャンス)があったら手伝いなさいよ!」


「手伝ってもらったのはアシュなんだがな。

 いいよ、どうせ白はオレには使えないし」


「まぁまぁそういうわけで、パートナーが帰ってこないと作業に入れないっす」


 じゃあどこかで暇をつぶすかー、と思った時だった。

 ガチャ、と店の扉が開かれた。


「戻ったぞ。ディア」


 重低音の男の声。

 振り返ると誰も居ない。だが軽い足音は聞こえる。

 視線を床ギリギリまで落とすと、そこには犬が居た。


 黒い毛並み、うなじから背まで伸びる白いたてがみ――


ガラット(クソ犬)……!?」


「むっ!?

 貴様は、不埒もの!」

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