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【WEB版】退屈嫌いの封印術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二章 封印術師と常春の街

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第五十六話 新しい武器を作ろう! その3

 人間の言葉を話す犬。

 犬は優雅な足取りでオレとアシュの間を歩き抜けた。



「ふっ、驚くのも無理はない。

 吾輩(わがはい)は呪いで犬の姿に――わぉん!?」



 犬の喋りはアシュの抱擁に止められた。


「もふもふ……もふもふ……」


「や、やめろ! 吾輩をもふもふするな!」


 アシュが犬を撫で、深く抱きしめ、また撫でる。


「やれやれ……」


 オレは札をしまい、戦闘態勢を解いた。


「やめろ! 頭を撫でるな! そんなことをされても――

う、嬉しくなんか……嬉しくなんかないワン!」


「――尻尾ビンビンじゃねぇか」



--- 



 黒い毛並み、うなじから背まで伸びる白いたてがみ。

 小さなバックを背負ったワンコが現れた。


「吾輩はガラット。凄腕の錬金術師である!」


 アシュに抱っこされながらワンコは名乗った。


「錬金術師ねぇ……どうしてこんなところに犬っころが居るんだ?

 飼い主はどうした」


「吾輩は犬だがペットではない!

 元は人間、呪いで犬になったがな!」


「そりゃ可哀そうに」


「同情するなっ!」


「あ、わんこ!」


 ワンコがアシュの腕を離れ、宙で月を描いて着地する。


「吾輩は望んで犬になったのだ!」


「どうしてまた……」


「吾輩は犬が好きなのだ。

 片時も犬と離れたくない、そう願うものの、犬と四六時中共に居ることは不可能。犬の方がストレスを抱えてしまうからな。

 だが吾輩は、常に犬と共に過ごす夢を諦めきれなかった……だから自分が成ったのだ! 犬に!

 吾輩自身が犬に成れば一生(いっしょう)犬と離れることはないっ!」


「――愛情が深すぎる……」


「わんこ。離れちゃダメ」


 アシュが再び犬――ガラットを抱えた。


「で、ガラットさんは何故(なにゆえ)このような場所に?」


「吾輩の相棒が黒の錬魔石を欲していてな。

 ここのヌシを倒せば手に入ると聞き、駆け付けたのだ!」


「ほうほう。そんじゃオレ達と取り合いになるなぁ。

 こっちの目的も黒の錬魔石だ」


「やはりな!

 やめておけ。吾輩は強い。吾輩と取り合いになっても貴様らに勝ち目はないぞ!」


「肉球向けられながら言われても説得力ねぇよ……」


 ガラットがアシュの腕から脱出する。

 アシュから逃げるガラット、ガラットを追うアシュ。二人は円を描いて背中を追い合う。


「ここのヌシ、“マグマロック”は岩石に化け身を潜める!

 奴らの匂いを追えなければ勝負にすらならない!」

「お前は犬の鼻でマグマロックの匂いがわかるってことか」

「そうだ! 貴様ら人の鼻では奴を見つけることはできんっ!」


 嗅覚か。


 シュラは味覚が無くなる呪いを受ける代わりに嗅覚を強化する祝福を受けている。最悪シュラに(たよ)ればいいか? いや、いくら鼻が良いとはいえ、マグマロックの匂いがわかるとは限らない……


「本当にお前はマグマロックの匂いがわかるのか?

 今は犬とはいえ、元は人間なんだろ」


 アシュに捕まったガラットは再び抱き上げられながらオレを鋭い目つきで見る。


「吾輩を舐めるな! マグマロックの匂いぐらい完璧に嗅ぎ分けられるわ!」

「本当か~?

 じゃあなんでこんなところで油を売ってるんだ?

 オレ達に構わず、まっすぐマグマロックの所へ向かえばいいだろう」


「この付近にマグマロックが居るからな!

 まずは貴様らを追い払い、その後で戦いを始めようと……あ!」


「なるほど。この辺にマグマロックが居るのな」


「きっさまぁ! 吾輩を嵌めたな!?」


「いや、嵌めるって言うほど大層なことしてないぞ」


 目ぼしい大きな岩は三つ。


 赤い、二つのコブがある岩。

 黒ずんだ、コゲの匂いを醸し出す岩。

 白く、赤いラインが走る岩。


 オレは順々に指さしていく。


「あの赤い岩か?」

「違う」


「あの焦げた岩か?」

「違う」


「あの白い岩か?」


 ピコン、とガラットの耳が動いた。


「違う」

「あの白い岩だな……」

「むっ!? なぜわかった!?」

「わんこ、わかりやすい……」


 さてと、あの白い岩が魔物だってんなら、先制攻撃を仕掛けて早々に片を付けよう。


「ルッタ、解封(open)


 “祓”の札から短剣を弾き出す。

 

「アシュ。

 黒魔力を付与した魔術であの岩を――」


「わぉん!」


 ふわ、と肩に柔らかい物体が乗ってきた。

 ちく、と頬に毛が刺さる。オレはその感触で肩に乗って来た奴の正体を知る。


「お、おい!

 なにしてんだ犬っころ!」


「き、貴様ぁ~!

 なんだその素晴らしい造形の短剣は!?

 素晴らしいのは造形だけではない。その剣の錬魔石……融度が9はあるぞ!!

 一体どこでこれほどの品物を……!」


「知るかよ!

 はやく降りろ! 纏わるなモフモフッ!!」


 ガタン!


 地が揺れる。

 地響きを鳴らしながら、正面にある白い巨岩が上に伸びていく。



「【うるせえええええええええええええっ!!!!】」



 二手二足。

 岩を繋ぎ合わせ、人型となった岩石族が現れた。赤いマグマを全身に走らせている。顔部分には赤いまん丸の目と長方形の口がある。


 大きいな……一軒家ぐらいあるぞ。


「アレと戦うのかよ……」


「くそ! 貴様のせいで先制攻撃失敗だ!」


「その言葉そのまま返すぜクソ犬……!」


 ガラットがオレの肩から飛び降り、足を広げ戦闘態勢に入った。


「【誰だ! 僕ちんの眠りを妨げたのは!!】」


 ガラットはオレに肉球を向け、オレはガラットに人差し指を向ける。


「そこのクソ犬だ」「そこの不埒者だ」


「【お前らか!

 許さん! ころおおおおっす!!】」


 マグマロックの頭から無数のマグマが天に放たれた。

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