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【WEB版】退屈嫌いの封印術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第五章 封印術師と帝王の洗礼

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第百四十二話 不落が落ちる時

 悪臭漂う下水道の脇道を走っていく。

 目の前では青の長髪が左右に揺れている。イグナシオ……良いタイミングで来てくれた。正直、ちょっと心が折れかけてたからな。味方が1人でも居てくれると精神的にありがたい。


「うおっ!」


 足元がおどり、壁に肩を打ち付ける。

 魔力はまだあるのに、血がマジで足りない。


「大丈夫ですかシール!?」


「大丈夫だ。それより、念のため確認な」


「え? ふぁっ!!」


 イグナシオの両頬を両手でまさぐり、魔力で構成された皮じゃないことを確認する。


「い、いきなりなにするんですか!?」


「マルコが変化した姿の可能性もあるからな……問題ない。本物のイグナシオだ」


「と、当然です! ほら、早く行きましょう! いずれここもバレます!」


 脳内にガンガンと音が響く。頭の中を内側から金槌で殴られている気分だ。

 頭を手で押さえつつ、イグナシオの背を追う。


 下水道は数々の分かれ道があるが、イグナシオは迷いない足取りで道を選択していく。


「このはしごをのぼった先が出口です!」


 あれ? もう着いたのか。

 頭痛に意識を削られて、走ることに夢中で、長距離移動していたことに気づかなかった。


「本当に、助かったぞ……イグナシオ」


「い、いえ……」


 鉄のはしごをのぼり、丸い出口から顔を出す。


 太陽の光を顔に浴び、一瞬目がくらんだ。

 その瞬間にイグナシオがオレの手を引っ張り、下水道からオレの体を外へ持ち上げた。


 地面に立つ。


 ガチッ、と今出て来た出口が鉄の壁によって閉ざされた。


「なんだ?」


 凄い量の気配を感じる。

 馬鹿みたいな数の息遣いが聞こえる。


 目を凝らし、周囲を見る。


「はっ…………!!?」



――終わった。



 その感想が真っ先に出て来た。

 ここは帝都の外ではない。やけに開けた訓練場のような場所。

 見渡す限りの――騎士騎士騎士。空には飛竜があちらこちらに飛んでいる。


「ごめんなさい……シール……」


「い、イグナシ――オ?」


 イグナシオは罪悪感に満ちた表情をして、肩を震わせていた。

 さっきのパールの顔よりも、さらに思いつめた顔だ。



「よくやったぞイグナシオ=ロッソ!」



 この声は……!


「グレン!?」


 騎士の大群の中から、4人は現れた。


 グレン、

 シンファ、

 メグル、

 マルコ。


 親衛隊の面々だ。


「これで明日から小隊長だ! 

 また一つ、レアリティを上げたな!」


 そうか。

 そういうことか……。


「昇進のためにオレを売ったってわけか?

 それがお前の騎士道かよ、イグナシオ……」


「シール、僕は!」


「僕は――なんだよ?

 もういい、もう黙ってろ……!」


 オレのミスだ。

 オレとイグナシオの関係なんて、シーダスト島のあの一件を共に行動しただけのものだ。家族でも恋人でもない、仲間とも言い難い関係。


 けど、一応……友達ぐらいには思っていたけどな……。


 騎士団とオレを天秤にかけて、オレを選ぶわけがない。


 しくったな。


 それでもコイツの性格なら、オレを売るようなことはしないと思ってた。決めつけていた。分かった気になっていた……。


「シール=ゼッタ。観念しろ。お前の命はここで終わりだ」


 諭す様にシンファは言う。


「ごめんねゼッタ君。もう騎士団長様から言われちゃったの。見つけ次第殺せってね」


 マルコが殺意の滲んだ瞳で言う。


「……あぁ、君の死体を持って行ったらレイラせんぱいはどんな顔するかなぁ……」


 メグルは楽しそうに笑った。


 大隊長と同レベルの親衛隊が4人。

 オレは貧血気味で、しかも魔力も万全じゃない。


 戦力はオレ1人――


 助っ人……可能性があるとすればシュラとアシュとレイラとソナタだ。

 でも、どいつが助けに来ても逃げ切れるビジョンが浮かばない。


 やられた。


 完全に殺す陣形だ。

 一片の希望すら残ってない。この状況を打破する方法なんて――何一つない。


「はぁ」


 終わりかよ、オレの人生ノートはここで……。

 なんだこの結末は。

 爺さんの仇も取れず、オレ自身の夢も叶わず……終わりか。



「殺しなさい」



 マルコの号令で、騎士たちは火やら水やら雷やらを大量に形成した。


「さすがにこれは、足掻(あが)く気にもならねぇよ……」


 悪いな、爺さん。

 アンタの未練、果たせなかった。


「ちくしょう……」


 潔く諦めて、

 オレは瞼を閉じた――









 ◆ ◆ ◆ 



 帝都結界外、上空。

 

 竜翼を背から生やした男は、静かに左腕を帝都に向けていた。



合成獣砲(ごうせいじゅうほう)――〈マグライ〉ッ!!!!」



 帝都の結界〈シュッツガイスト〉。

 200年前より設置され、まだ一度も破られたことの無い不落の結界は――今日この日、1人の男の手によって打ち破られた。

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