イルヴァ
案内された部屋にて、ベッドに横になりながら私は女神様に話しかける。
ねえイルヴァ様。私、どうしたら良いの?
(どうしましたか、勇者よ)
私は、本当に魔王を倒せるの?
(私はそう信じています。勇者とは、そういうものです)
具体的な手段は?
このまま魔物が攻めてくるのを待って、迎撃して……それでは、いつか潰されるわ。
(ならばこちらから攻める必要があります)
やっぱりそうするしかないのよねぇ……。
ここを拠点にして、敵の住処にこちらから攻め入るしか。
(魔物の多くはダンジョンに住んでいます。今回の襲撃も、どこかのダンジョンの奥深くから出てきたのでしょう)
つまり、こちらからダンジョンに入って敵を倒せばいいのね。
(そうなります)
ダンジョンアタックか。
まるでゲームみたいね。
(ダンジョンに潜る際には、冒険者の助力を得るといいでしょう。多人数での攻略には向きません)
そうでしょうね。
ところで、なんで魔物ってダンジョンに住んでるの?
(私は魔王と、その眷属を世界各地の地の底深くへと封印しました。それと同時に、ダンジョンを作りました。魔物がそこから外に出られないように。いわば、ダンジョンそのものが封印なのです)
でも、今は出てきているわ。
(封印は少しずつ弱まり、それと同時に地上へと出る魔物も増えました。もうずいぶん前から、魔物をダンジョンに封じておくほどの力は、失われてしまっていたのです。それに加え、魔王が復活したことにより、魔物は人間へ攻勢をかけてきたのでしょう)
つまり、今のダンジョンは、モンスターの巣以上の効果はないのね。
かつては封印されていたんでしょうけど。
(そうです。でも、各ダンジョンの最深部にはまだ封印の鍵が残っているはずです)
封印の鍵ね。
それがあればダンジョンを再封印できるの?
(理論上はそうなります)
ねえ、イルヴァ様。
あなたご本人が顕現するなり何なりして、それをするわけにはいかないの?
(……できなくは、ないのですが)
じゃあやりなさい。
(では、顕現します。すこし、目を閉じていて下さい)
……なぜ?
まあ、いいけど。
じゃあ、目を閉じて、少し待つわ。
目の前に、気配が生まれた。
神々しいとしか言い様がない、強い力を感じるような……そんな感覚がある。
目を開けると、見事なプロポーションの金髪の女性がいた。
「イルヴァ様ね?」
「はい。そうです。もっとも、この姿では人間並みの力しか発揮できませんが……」
「それ、封印の鍵の部屋で直接顕現すればいいんじゃないの?」
わざわざダンジョンを攻略する必要などなさそうなものだけど。
しかし、そうはいかないらしい。
「今の私にはそれは出来ません。それどころか、貴方が近くにいなければ、この姿を保てません」
「なぜ?」
「それだけ、私の力は失われたということです。私が世界に干渉するには、貴方を介さなければならないほどに」
「この剣と鎧も?」
「そうです。私の力が宿った装備は、貴方以外の人には使えません」
そうなのか。
魔法剣を人類に配れば、かなりの戦力になると思ったのだが。
「それが、勇者というものです。私が人間界に干渉するには、勇者を介さなければならない。さらに、直接干渉しようとするならば、この姿のように人間の力しか発揮できない。これは世界のルールです」
「そのルール、例えば魔王はどうなのよ」
「魔王には魔王のルールがあります。とはいえ、私も全てを知っているわけではないのですが……」
「たとえば、どんなものがあるの?」
「魔王は、破壊の象徴なので回復魔法で回復できません。怪我の回復自体を無効化してしまうため、傷が癒えることがないのです」
「それ、本当?」
にわかには信じられない話だ。
それが本当の話なら、魔王退治なんて簡単そうなものだが。
しかし女神は首を振った。
「魔王に傷をつけるのは生半可なことではありません。それに、魔王を普通の生命体と同じように見てはなりません。神と対をなす存在なのですから」
「ふうん。ところで、イルヴァ様は今、どれくらいの強さなの?」
「この姿では、人間の魔法使いと僧侶のレベル20くらいの力しか使えません」
と言われても、レベル20がどの程度の強さなのかまったく実感わかない。
「そういえば、今の私ってレベルいくつなのかしら」
「そうですね。貴方は今、レベル10です。先日の戦いでだいぶ強くなられましたね」
「それってどれくらい強いの?」
「ちゃんとした装備を持っていれば、リビングアーマーと打ち合えるくらいですかね」
動く鎧か。
この魔剣のおかげか、非常に簡単に倒せる相手だった。
「オーガはレベル15、ミノタウロスはレベル20くらいあれば、一騎打ちでも勝負になるかもしれないくらいです」
「あの戦場でそいつらは結構倒したけれど」
「魔剣の切れ味は凄かったでしょう?」
確かに。
なにせ軽くでも当たれば致命傷の切れ味だ。
これが普通の武器であれば、今の私の懇親の一撃をお見舞いしても、頑丈な皮膚に受け止められてしまうに違いなかった。
「でもヒルギガース相手に真っ向から戦ったのは凄かったですね。レベル40はないと、きつい相手だとおもうのですが」
「それこそ剣のおかげだわ」
「えへへ」
えへへって。
女神様、人間形態になってからなんか幼いな。
力が抑えられている影響か何かだろうか。




