小夜
レベル上げとして、森に入って孤立した狼を狩っては森の外へ逃げを繰り返す。途中から二匹と戦うようになったが、それが功をなしたのか、もうレベルが十を超えている。
区切りも良かったから、リックは町に戻って店を見て回ってからログアウトした。
次に彼がログインしたのは夜の時間だった。前回はナイトバットに苦戦したけど、今回は秘策があるようだ。
「使役、使役、使役……」
彼がとった方法はMPの量に任せたゴリ押しだった。使役は色々な数値が関わって成功確率が変わるけれど、このレベルの魔物なら何度も使えばMPが尽きるより早く使役できるはずだ。
「名前は"小夜"だ。よろしくな」
そう言って笑った彼の顔にはほんのりと汗が滲んでいた。もしかしたらMP切れ寸前だったの?
「よろしくね〜」
サヨは間延びした声で言った。のんびりした雰囲気が声から伝わってきて、そんなことで戦えるのか疑問に思う 上から目線(物理)なのもムカつく。
「ユキよ。調子に乗らないでね、新入り」
睨み上げるけれど、サヨはのんびりと「見下ろすぐらいで怒らないで」と言った。ちょっと苦手なタイプかも……。
「強化STR、強化VIT、強化AGI。あのナイトバットに攻撃してくれ!」
まず、強化魔法を三つ使ってサヨに戦わせるらしい。相手は同族であるナイトバット。強化魔法を使っているから負けることはないはずだ。
サヨが足の爪を使って先制攻撃をする。が、敵は翼でうまくとめて蹴りを喰らわす。雰囲気通り、サヨは戦いが苦手らしい。
体制を崩したサヨに敵は噛み付く。サヨは外そうと暴れるが、相手の牙が突き刺さっているようで外れない。
「ユキ、落ちてきたところにとどめを刺してくれ」
「聞こえた? 噛まれたままでいいから地面に落として」
「それくらいなら……」
地面に落ちてきたナイトバットに突進する。味方へのダメージはないから、サヨに気にせず攻撃できるのは楽で良い。
リックもサヨが戦いが苦手だと気がついたようで、明るくなってから森で狩りをすることになった。
朝になって森へ向かう。戦闘以外の道も模索しているらしく、サヨは索敵をしている。彼は「がんばる〜」と言っていたけれど、不安しかない。しばらくすると、彼は三匹の狼を連れてきた。
「ユキ、強化STR! 確実に一体倒してくれ。サヨ、強化AGI、強化VIT、付与麻痺術! 攻撃したらすぐに退避! 狼を麻痺状態にしてくれ」
一匹だけなら問題はない。リックもアクションは苦手じゃなさそうだから多分大丈夫。問題はサヨの方だ。強化魔法があるとはいえ、大丈夫かな……。倒されたらリックは悲しむだろうから被弾なく戦いが終われば良いけど。
スキルを使って早く倒して、サヨとリックの様子を見守る。リックはカウンター狙いかな。危なげもないから無理に手伝わなくて良さそう。
「見てないで手伝ってよお……。無理だってえ」
「思ったより戦えているじゃない」
「逃げるので精一杯だよお。うう、来ないでえ……」
情けない声を出していて逃げ回っている姿は滑稽だけど、痛くはなさそうでもきちんと攻撃は当てているから、敵は麻痺状態になっている。最低限の仕事はしていると言える。時間がかかりそうだから手伝うか。
「回復」
敵を三体とも倒し終わり、ユキたちはリックに回復魔法をかけてもらった。少しだけ休んでからリックはサヨに「敵が居たら教えてくれ」と指示を出した。サヨは元気に頷いたが、今度は四匹の狼を連れてきた。
「ごめん」
サヨは少し申し訳なさそうな顔をして言った。サヨもリックもSTRが低い。ユキが頑張らなくては……。
この戦いでリックのMPは空になってしまったらしく、ユキたちは草原に戻ってきた。ユキはリックにバースベリーをあーんしてもらったから大満足。
サヨは上手く索敵ができなかったことを悲しんでいたけれど、リックの励ましのおかげで少し元気になったみたいだ。今日はログアウトするまで、草原でサヨに索敵と戦闘の練習をさせることになった。
薬草を採取しながらのんびりとサヨが特訓する。強さはあまり変わらないものの、サヨの索敵技術は上がったような気がする。
「ん〜おいし〜」
「ちょっと、リックのあーんはユキのものなのに!」
「だってリックがくれるって言うからあ」
リックはサヨと仲良くなるためなのか、彼が敵を倒すたびに餌付けをしていた。ユキならもっと倒して、活躍できるのに……。
次の日、成果の確認のために試しに森へ行ってみたところ、最初の頃のように多くのモンスターを連れてくることはなく、敵に見つかる前に報告できるようになっていた。少しは成長している、と。
サヨの動きからはぎこちなさが抜け、一体なら攻撃を躱し倒せるようになっていた。ユキが敵を引きつけ、サヨが攻撃するといった連携もできるようになった。回避盾にできるか怪しいくらいのへっぽこ魔物だったことを考えるとかなり成長したように思える。
「まあまあね。これで失敗していたらぶっ飛ばしていたのに」
「怖いよお。でも空を飛んでいるから攻撃は届かないからいいか〜」
「いつか空を飛んでやるから覚悟しなさい……!」
「飛ぶじゃなくてえ、跳ぶでしょ〜?」
連携はできるようになっても、彼の間延びした声は相変わらずで、むしろ距離が縮んだことで煽るような言動が増え、ユキをイラつかせるようになってきた。今までリックと二人きりのデートだったのに。
「ユキ、サヨ、良くやってくれた」
リックがユキたちの頭を撫でる。リックが褒めてくれるなら、苦手なサヨとの連携も頑張ろう、かな。
しばらく狩りを続けてから町に戻った。次は別の狩場に向かうらしい。南と言っていたから……ゴブリンかな。空を飛んでいないならユキが活躍できそう。
「初めての場所なら僕の索敵の出番だねえ」
サヨはわずかに声を弾ませた。のんびり屋といっても魔物である彼は戦いが嫌いではないのだろう。ゴブリンはワイルドウルフと戦い方が大きく異なるけど、活躍できると良いな。




