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Brave and Partners Online  作者: 岩越透香
第五章 王都セントル

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再来1

 変わり果てた鏡の神殿を見て絶句していた俺に黒いもやを纏った魔物が攻撃を仕掛ける。景色に夢中になって気がつくのが遅れた。


 死に戻りを覚悟していると、目の前に半透明な壁が現れる。キララが守ってくれたようだ。


「プレイヤーさん、名前は!?」

「リ、リックです」

「リックさん、さっきのやつをもう一回できる? 壁にぶつかった瞬間、動き回っていたあいつが一瞬止まったの!」

キララの様子を伺ってみる。疲れているように見えるから、もう一回できたとしても、勢いを抑えきれなさそうだ。それだけあの魔物の攻撃の威力が高かったということだろう。当たっていたら木っ端微塵になっていたのかもしれない。


「動きを止めれば良いなら他に方法があります! パーティーに入れてください!」

妨害魔法のレベル十で取得した魔法で、費用対効果が悪く、使うタイミングがなかったが、これはこの時のための魔法だったのかもしれない。


鈍化(スロウ)!」

鈍化は敵ではなくフィールドを対象にし、周囲の速度を全体的に下げる魔法だ。妨害魔法のレベルで効果範囲は変わるが、魔物は十分効果範囲内だろう。


 ゆっくりになってようやく魔物の姿が見えた。豚だ。これは前に鏡の神殿に現れた黒豚と同じか。


「うわっ! 利敵かよ!?」

「すみません! パーティーくっつけてください!」

しかし、効果範囲は味方以外。ここでいう味方は自分とパーティーメンバーとそのパートナーだ。同じパーティーではなかった人には申し訳ないことをしたな。


 この魔法のMP消費は最悪で、発動に十、維持に一秒につき十のMPが持っていかれる。今の最大MPは八十だから、七秒しか持続しない。しかし、ここにいた人たちにとって、それは十分すぎる時間だったようだ。


「よくも逃げ回ってくれたわ、ねっ!」

怒りがこもったプレイヤーたちの攻撃を受け、魔物は消えた。素早く逃げ回る敵だから耐久は低めに設定されていたのだろう。


「ありがとう。あいつ、三十分で再出現だから良ければ次も一緒に戦ってくれない? 何回か戦ったけど、あなたのおかげで楽に倒せたわ」

「こちらこそ、ありがとうございます。その前に、なぜこんなことになったか知りたいんですけど……」

「ついさっきログインしたのね。礼拝所の人に話を聞くとムービーの追体験ができるから行ってみると良いわ」

彼女にお礼を言った後、MPが尽きるまで戦っていた人に回復魔法をかけていく。鈍化をかけてから五秒で倒してくれたため、少しMPが余っていたのだ。


 MPが尽きた後は礼拝所に行く。腕に包帯を巻いたNPCらしきシスターが居たため話しかける。


「異界から方ですね。先ほどの出来事をお話ししましょう――」

視界が暗転して神殿の外の景色が映される。そこにはまだ昨日見た時と同様の幻想的な風景が広がっていた。これがイベントムービーの追体験か。NPCの人目線のイベントって感じかな。NPCの人数分が用意されているのかも。


 綺麗だったのは少しの間だけで、少しずつ空が暗くなっていく。空を見ると黒いもやが発生しており、そのせいで日光が遮られ、鏡も光らなくなっていたことが分かる。鏡の奥の景色――他の神殿も同様のことが起こっているのか、うっすらと黒ずんでいるように見える。


 黒いもやは地上まで広がってきた。澄んでいた水が汚染され、毒々しい色へと変貌していく。もやは次第に一点に集まっていき、何かを形作っていく。


 映像の視界が揺れる。恐怖で後ずさってしまったのだろう。パリン、パリンと鏡が割れていく音がする。割れた鏡の方を向くと、残像のように黒いもやが残っていた。


 ぞくりと嫌な気配がした。映像が激しく揺れる。恐らく、神殿の中に逃げようと走り出したのだろう。


 大きな衝撃の後、視界がぐんと低くなる。再び視界が暗転した。


「この傷は逃げる時に負ってしまったものです。掠っただけでもこの威力でした……」

彼女は腕の包帯をさすりながら言った。


「あれは恐ろしい魔物、いえ、悪魔です。異界からの勇者様、どうかお気をつけて」

シスターさんに見送られて、次の襲撃の際には参加すると伝えるために、俺は一度他のプレイヤーたちの元へ戻った。



 魔物が再出現するまでの時間は海の神殿のムービーを見に行くことにした。この期間中は神殿へのワープはできず、町から向かわないといけないらしい。例外は鏡の神殿で、ここには移動が可能らしい。ここがワープ先になれるのは真実の鏡が無事だからだろう。


 海の神殿は船に乗る時間もあるから、時間を潰すにはちょうど良いと思ったのだが。


「町に魔物を近づかせるな!」

ある者は魔法を撃ち、ある者は小舟に乗って魔物を切り裂いていく。プレイヤーたちの声も入り混じっている。


 セア港では防衛戦が行われていた。この様子ではとてもじゃないが神殿にはいけそうにない。俺は攻撃力が控えめだから、この町で戦うより、鏡の神殿の魔物退治に参加する方が貢献できそうだな。


 町の人に話しかけてイベントムービーを見る。


 たくさんの屋台が並び、港は人々で賑わっていた。そんな中、一人が海の方を指差して「何かが来る!」と叫んだ。人々は最初は神殿からの船だろうと思って落ち着いていたが、それが近づいてくるにつれ、顔を青ざめさせて逃げ出していく。 海から大量の魔物がやってきていたのだった。


 シーダーツなどの海の魔物たちが大量にこちらに向かってきていた。前回の復魂祭の時に来た時には見なかった魔物もいくつか混じっている。もっと恐ろしいことに、クラーケンのような影も見える。クラーケン単体を退けるのも大変だったのに、他の魔物と同時に襲ってくると考えると怖くなってくる。


「あれほど恐ろしい出来事は他にないね。頼むよ、あいつらを倒してくれ」

彼が頭を下げて言った。元々参加するつもりはなかったのだが、鏡の神殿に戻らなければいけない時間まで二十分ほどあったから、十分だけでも魔物退治に参加することにした。


 海から遠いセア港でもこれほどの魔物が押し寄せているなら、海のど真ん中にある海の神殿ではどれほどの魔物がやってきているのだろうか。武術大会が開かれていたらしいから、力自慢のプレイヤーが多く集まっているだろうが、大丈夫だろうか……。



 黒豚を鈍化を使って倒した後、俺は時の神殿に向かうことにした。一番関わりの多い神殿で仲良くなったNPCもいるからだ。騎士団長は「各々好きな町へ行ってくれ」と言っていたから、好きな神殿に行くのが良いと思った。失敗もあり得るイベントだと思うから、思い残しがないようにしたい。


 山の神殿に向かわないのは、騎士団長が「山の神殿を除く」とアナウンスしていたからだ。ここの運営は素直だから、山の神殿には敵が居ないのだろう。ただ、鏡で移動ができないのは山の神殿も同様なため、敵は来ても騎士団が担当しているから大丈夫ってことなのかもしれない。


 時の神殿は鏡の神殿と比べ物にならないほどのNPCが居たから心配だ。みんな無事なら良いのだが……。

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