魔の森を浄化せよ2
アオイ達の元へ向かう道はセーフティーゾーンになっていたため、危なげなく通ることができた。
現時点で設置済みの浄化装置は四つ。アオイたちがいる地点が前に出ているため、急いで合流する必要がある。このイベント中はデスペナなしで制御装置の場所で復活できるが、合流までに前線が瓦解する可能性が非常に高いため死に戻りはできない。何を言いたいかというと、できるだけ早く応援に駆けつけたいということだ。
「やっぱり、強化魔法で……!」
「いや、不要な消耗は避けるべきだ。……周りに敵もいないから、俺は先行するよ」
「そうですね……。じゃあ小夜とハヤテも連れて行ってくれ」
テイルは脇に抱えていたキララを俺に返却すると、振り返らずに走った。それに並走するように、小夜とハヤテも飛んでいく。早いな、みんな。小夜とハヤテのAGIは二倍くらいだから当たり前か。
……俺のSTRが低いこともあり、キララがかなり重く感じる。まあ実際の羊と変わらないサイズだから実際にも重いのだろう。キララを持った分、足は遅くなってしまうが、キララはAGIが少ない上、自ら走ろうともしなさそうだから仕方がない。
しばらく走っていると戦闘音が聞こえてきた。浄化装置の周りにいる人は……四人?
「Daikuさんは!?」
「死に戻って他のパーティーのとこ行った! 回復頼む」
「OK! 強化魔法かけるから浄化装置の側に!」
「リック! AGIは要らない!」
「リックのMPは温存で、耐久です!」
瞑想を挟みつつ強化魔法と回復魔法をかけていく。……MP回復のためではあるけど、戦場でいきなり瞑想し始める支援職って肝が座りすぎている。俺のことだけど。
俺が来るまで回復はどうしていたのかと周りを見ると飲み終わったポーションの瓶がそこらじゅうに落ちていた。そんな所までリアルに作らなくて良いのに。ゴミ拾いのクエストに使ったり生産職の人が再利用したりするんだろうけどさ。
人数が増えたおかげか、防衛に少しだけ余裕が出てきた。さらに近くの浄化装置が設置されたおかげで敵の数も減り、話す余裕もできてきた。
「この後ってもっと奥に進むんですか?」
「……厳しそう」
「奥に進むと敵も強くなって、敵が来る方向も多くなるからな!」
「森の外側の方の浄化装置を設置していく予定ですね。もう片側も設置されたら、他の場所に人数を割きましょう」
「残るのは継戦能力が高い人で……。アオイ、他の場所に行ってもらえる?」
アオイは魔法を放ちながら頷いた。
「今?」
「後でです。この状態から離脱なんてしませんって……。あ、設置完了したみたいなので移動します」
「結局今から……」
ぼそりと言ったうぃーくすさんを置いて、アオイはこの場から離れた。
「皆さん。防衛戦はとても地味です」
はっぴぃさんが語りかけるように言った。
「でも、この役割はとても大変です。ここは設置済みの浄化装置の中で最も奥に位置する激戦地なのですから」
話しつつも彼女は手を止めない。
「四人だけでもやれるってところを――」
「見せてやろうぜ!」
はっぴぃさんのセリフを奪うようにうぃーくすさんが声を出す。拗ねたような声で「私が言いたかったのに」と呟いた彼女だったが、挑戦的な笑みが浮かんでいた。
初回の挑戦は六箇所の設置で終わり、最終的には九箇所までスコアを伸ばすことができた。イベントの終了時にはちょっとしたムービーがあると聞いていたため、クランメンバーと一緒に終了の時を待つ。
『作戦への参加、心より感謝する。おかげで魔の森は浄化された。この国に君たちのような優秀なクランが設立されたことは誇りに思う。これから、君たちの成果を整理して、より優秀なクランを表彰する。間違わないでもらいたいが、表彰されなかったからといって劣っているわけではない。あくまでも、この作戦でどれだけの装置を設置したか、どれだけの時間がかかったかで順位を決めている。これは覚えておいてくれ。順位発表は三日後を予定している』
数と時間が順位に影響するなら、人数も少なく慎重に進めていた俺たちのクランは順位は高くないだろう。
次の日、ムービーの開始五分前にログインする。クランメンバーも同じようなことを考えていたらしく、その場にいるみんなで仲良く見ることにした。
『先日の作戦の結果を集計し終わったので、予定通り発表しようと思う。ここでは最優秀クランとなった一つのクランのみを発表する。十位までのクランはそれぞれで確認して欲しい』
彼はそこで一度言葉を区切った。
『最優秀クランは"conductor"だ!』
「ああ、そうだよな」
隣にいたナルが呟いた。
「有名なの?」
「そうだな。一番デカくて活発なクラン。……リックって他のクランを知らないだろ」
「そうかも。掲示板はそこまで見ないし……」
ナルは「そういう奴だとは思ってた」と少し呆れたように言った。
「生産職的にもかなり重要」
Daikuさんも話に加わってきた。彼もよくconductorの人と交流しているらしい。そこは生産職のプレイヤーが多い上にトップの職業は商人で、売り買いが活発なんだとか。
『最優秀クランには賞品として――』
イベントムービーは優秀クランへの賞品の話を進めていく。俺は順位を見ながらぼんやりと聞いていた。想像通りランキング外だからなんとなく遠い話に感じる。
「なあリック。さっき重複している人は上の順位でカウントするって言ってたけど、そんな移籍を繰り返している人っているのか?」
「移籍とか面倒そう……。あ、これじゃないか? "冒険者連合"ってクラン。七位と十位にいるやつ」
「クラン未所属の人間のためのクランか。それなら重複もあり得るな」
雑談していると、ムービーは締めの挨拶に入っていた。
『異界からの勇者諸君、よく頑張ってくれた。感謝してもしきれない。これにて放送を終わりに――』
『ウィルソン!』
扉を壊して現れたのは、前にも放送に出ていた男。彼は豪華な杖を持っている。その杖で魔法を使って、扉を壊したのだろう。コンタクトでもしているのか、今日は裸眼だった。
『おい、放送中だぞ! 少しくらい待てないのか!』
『そんなことより!』
『そんなことだと?』
『早く来てくれ! 早い方が良い! この剣であっているか?』
『それは俺の剣だが……。何をする気だ?』
騎士団長の一人称が変わっている……。もう一人と親しいからかもしれないが、これは相当な緊急事態と見る。
『では急ぐぞ! 着いてこい!』
『おい、勝手に……! くそっ! ……失礼した。緊急事態が発生したようだ。申し訳ないが、今日はこのまま終わらせてほしい』
彼が頭を下げた場面を最後にイベントムービーが終わった。
「……大変なことになりそうだ」
「次は復魂祭の時か。どんなイベントが待ち受けているんだろうな」
嵐のようなイベントムービーの後、俺たちは顔を見合わせた。




