港にて4
再開しました。
いつも通り依頼達成報告をしにギルドに行ったところ、何やら騒がしい。受付の人に報告がてら聞いてみたところ、クラーケンの動きが活発化しているとのことで、海の神殿に現れた際の撃退を国から依頼されているのだという。予測では今から十日後に海の神殿に現れるのだとか。現実時間では三日と少し――今週末だな。特に予定がないから参加しよう。
ナルとアオイにも参加するか聞いて、参加するようだったら一緒に行動しようと誘ってみようか。
クラーケン襲撃の日がやってきた。大型の船に多くのプレイヤーが乗せられ、海の神殿に向かう。
二人とも予定は空いていたようで、快くOKしてくれた。集合は現地でということになっているし、船襲撃イベントがあってもこの人数なら俺の出番はなさそうだから、中の方でゆっくりしていよう。
俺の予想は外れ、船は何事もなく海の神殿に着いた。賑わう神殿内で二人と合流して、今までどれくらいレベルが上がったのかと成果を報告しあう。
「クラーケンだ!」
プレイヤーなのかNPCなのか、誰かが叫び、それは瞬く間に伝染していった。俺も、周りのプレイヤー達も戦闘姿勢を取る。
海の向こうから現れたのは、俺が乗ってきた大型の船より一回りも二回りも大きい、巨大な蛸のような魔物だ。それは軽い挨拶だと言わんばかりに近くの岩を掴み放り投げてきた。
岩の着弾地点で土煙が上がった。離れていても強力な攻撃をしてくるが、ここまで投げられるほどの力で直接攻撃されたら一溜りもない。
『レイドボス"クラーケン"との戦闘が始まります。現在の参加者数は479人です』
黒い邪悪なオーラがクラーケンを包み込んでいる。これだけの人数を前にしてもなお、クラーケンは恐怖することはなく、襲いかかってきた。二度目のレイドボス戦だが、ボスから感じるこの威圧感には慣れそうにもないな。
レイドボス戦は驚くほど順調に進んでいた。大きな体から放たれる攻撃は威力こそあるものの、動きは遅く短調で避けやすいからか。それとも敵が闇の結晶よりも大きくて攻撃を当てやすいからか。
「簡単すぎねえ? もう半分切ってるけど」
「ですよね……。何か見落としているような気がします」
「そういえば、倒したら漁業に悪影響が出るかもって言っていたな」
「倒したら駄目なボスってことか?」
「追い返したと言っていたから、ダメージを与えたら勝手に帰るんだと思っていたが……」
「そもそもレイドボスを倒さずなんて無理ですよ。こんな大勢を纏め上げるなんて出来ません」
それらしい理由を見つけられず、俺たちは黙り込む。その時、ナルが独り言のように「……そもそも何で襲うんだ? 食べ物なんて無さそうなのに」と言い、「それだ!」と叫んだ。
「へ? なんだよ急に大声出して」
「あのクラーケン、モヤモヤが出てるよな」
「そうですね。レイドボスだからではないでしょうか」
「でも鏡の神殿の豚も黒かっただろ?」
「つまり……。黒いモヤは神殿を襲う敵である印ってことか?」
「そういうことだ、リック!」
ナルは自信満々に言った。ナルが言っていることには確かに納得出来る。魔物はただ人を襲う訳ではなく、そこには理由があるはずなんだ。食べるため、縄張りに入ったから、色々な理由はあるだろうが、クラーケンの場合は一般的なそれらには当てはまらない。クラーケンは前回の復魂祭からこの神殿を襲うようになったのだから。突然襲うようになったのは、時期から考えると、俺たちプレイヤーが現れたからだろうか。
「……クラーケンは囮かもしれませんね」
「それだと……ヤバくねえか?」
「ええ。ここに居ても大したことは出来ませんから、クラーケンから離れた場所を確認しに行ってみましょう」
小夜に人が居ない場所を探して案内してもらう。クラーケンの襲撃があった所のちょうど反対側で黒く光るものを見つけた。欠片だ。俺たちの予想は当たっていたらしい。急いで回収する。
「リック、あれ!」
ナルが指差した方向を見る。
「魔物か!? 欠片から出てきたんだ!」
「水衝撃! 他にもいるかもしれません。探しましょう」
欠片を集めながら魔物を討伐していく。他にもこの事を懸念したプレイヤーが居たのか、他のプレイヤーもやって来て魔物討伐に参加してくれた。
幸いにも、一体一体は強くないため速度を重視して素早く討伐していく。散らばって出現しているのが少し厄介だが、手分けして倒していく。
『レイドボス"クラーケン"の撃退に成功しました』
欠片を拾い終わり、魔物も討伐し終わった頃、レイドの終了を告げるアナウンスが聞こえた。今回は討伐ではなく撃退か。
「向こうも片付いたみたいだな」
「ああ。……ここにいる魔物を見逃していたらどうなっていたんだろう?」
パッと思いつくのは神殿の破壊。破壊されたらこの町で復魂祭の開催は難しくなっていたんだろうな。
「とにかく、成功を喜びましょうか」
神殿内にはまだ入れないということで、俺たちは再び船に乗ってセア港に戻った。
セア港では忙しなく動くプレイヤーたちの姿があった。その中にリンの姿もあったため、何か手伝えることがないか聞いてみる。
「どんな服が好み?」
「え? ああ今の季節だと……。ハイネック、とか……?」
急に言われてしどろもどろになりつつ答える。俺だけ答えているのはなんだか恥ずかしかったから、二人にも聞いてみる。
「俺はロングスカートとか好きだ。この時期は寒いけど肩出す服装とか可愛いよな」
「ああ、オフショルダーですね。でもその二つはゲーム内で着るとなると動きにくそうです。アシンメトリーはどうでしょうか」
「お二人とも、ありがとうございます。参考にします!」
リンは良いアイデアを貰ったと喜んでいた。ハイネックなんて既に作ってたんだろうな。でもノーコメントは少し寂しい。
「今はアイデア探しをしていたのか?」
「それもあったけど、悪魔石の破片を集めているところだよ。冒険者ギルドで依頼を受注できるはずだから行ってみて。依頼を受けるとアイテムを拾えるようになるから!」
「ああ、ありがとう。行ってみるよ」
二人も予定は特にないらしく、このままアイテム探しをすることになった。
「さっきの子とはどういう関係なんだ?」
「リアルの……知り合い、かな?」
「おい、その間はなんだ。ただならぬ関係って事なのか!?」
リアルな事を話すのは良くないと思ってぼやかしてみたが、兄妹と言った方が面倒でなかったな。あー失敗した。今から兄妹って言っても誤魔化していると思われそうだ。
「とにかく、集めてこよう!」
「誤魔化したな! まあ良いか。イベントに集中だ!」
俺は逃げるようにギルドから出て、破片探しに向かった。
次回は別視点が挟まります。




