復魂祭2
台座からユキを持ち上げ、抱き抱える。小夜は俺の頭の上にやってきた。そんな小夜をハヤテはじっと見つめた。種族は違えど、空を飛ぶ魔物同士、何か思うところがあったのだろうか。
ユキは腕の中で、借りてきた猫のように大人しかった。俺のことなんて覚えていないのではないか。不安が頭をよぎる。
「いたっ」
ユキが角を押し付けてきた。怒っているのだろうか。「忘れると思われているなんて心外だ!」みたいに。
会えるはず。そう思ってはいたが、心のどこかでもう会えないと言う自分もいた。諦めないで、無理だなんて決めつけないで、良かった。
「武闘大会一回戦目の最後の試合だ! 戦うのは神殿奪還の立役者たちだ!」
会場に着くともう試合は始まっていた。歓声の中、二人のプレイヤーが戦っているようだ。見覚えがある。片方はレイドボス戦で一緒に戦った人だ。
「そのまま倒し切れー!」
俺も大声を出して応援してみる。この熱気じゃあ俺の声なんて届かないだろうが、力になってくれると嬉しいな。
二人とも剣士のようで、激しい戦いが繰り広げられている。剣と剣がぶつかり合う音が歓声と混じり合って聞こえる。対魔物とは違う戦い方だ。
「リックさんもアイツに呼ばれたんですか?」
試合が終了した後、アオイさんに話しかけられた。アイツって言うとナルのことだろうか。
「ナルになら前に会ったけど、この大会については何も聞いてないな」
「ああ、知らなかったんですね。ナルが出るんですよ。二回戦の第一試合だったから、もうすぐです。あ、ほら入場しましたよ」
前に目を向ける。ナルは観客席に手を振りながら入場していた。何かのスターみたいだ。対戦相手はメイスを持った小柄な女性だ。ローブを着ているが、魔法使いというよりは神官だろうか。
「それでは試合開始!」
合図と共に女性が消えた。消えたのではない、走り出したんだ。そう気づいた時には既にナルの目の前にいた。彼女はメイスを振りかぶった。
「危ない!」
思わず声が出た。その俺の声が届いたのか、ナルは女性の攻撃を避けた。そして、体勢が悪い中でも反撃を繰り出す。彼女は左手でそれを受け止める。手が切れてしまう、と思ったが籠手を装備していたようだった。二人は後ろに飛び、互いの様子を伺った。
再度仕掛けたのは女性。それを見たナルが剣を構える。メイスでの打撃を受け流して、剣で反撃しようとしたのだろう。女性はその姿を見て、メイスの構え方を変えた。彼女は右手を引き、メイスを傾けて持った。その構えはまるで、槍投げだ。
声を出しながらメイスを投げた。ナルは慌てて避ける。避けた先には彼女が居た。彼女の口角が少し上がった気がした。彼女はメイスを手放して空いた拳で思いっきり殴った。ナルの体がふわりと浮いた。
「勝者、percussion!」
審判が女性の勝利を宣言した。彼女は地面で倒れているナルの元へ歩き、手を差し伸べた。二人は何かを話していた。労いの言葉や応援の言葉をかけ合っているのだろう。
「凄いな。俺には無理そうだ」
「そうですか? リックさんは対人戦も割とできそうですけど」
「まず、そんなにやらないからな……。慣れてないし、俺は弱いと思う」
先ほどの戦いについて話すうちに、試合を終えたナルがこちらにやってきた。
「ナル、お疲れ様。凄かった」
「ありがとな、二人とも。勝ちたかったなあ……」
「彼女に二回戦で当たってしまったのは運が無かったですね」
「そこで勝ってこそだ! 負けたけど……」
「メイスの方は有名プレイヤーなのか?」
「そうですよ。撲殺少女とか、撲殺神官とか呼ばれてますね」
「随分と物騒な名前ですね……。神官ってことは回復魔法や強化魔法を使ったり……?」
「使うらしいぜ。一撃で倒して攻撃を喰らわないから要らないとも聞いたが」
脳筋神官とかも似合いそうだ……。考えれば考えるほど失礼な二つ名になりそうだから考えるのはやめておこう。
さっきのあの速度の攻撃は強化魔法ありきだろう。より強い魔法が増えているのか、魔力自体が多いのか、そもそも素のステータスが高いのか分からないが、かなり強力な一撃だった。前衛でも戦える補助魔法士というビルド――いや、彼女の場合は回復と強化魔法が使える前衛なのか? ともかく、似たような戦い方をしそうだから、参考にできるところは参考にしたい。
「撲殺少女と言えば、この大会にあの剣士は居ないよな?」
「掲示板によると新しく解放されたエリアで戦っているそうですよ」
「あの剣士って?」
「さっきの方とパーティーを組むことも多い方ですね。……風魔法で空を飛びます」
「空を……? ……windさん?」
「そうだ。……負けてはいられない! 俺たちも新エリアに向かおうぜ!」
「……悪いけど、俺はしばらくゆっくりしたいな」
ユキ達とピクニックをしてみたいな。βの時には行けなかったところにも行きたいな。スクショが撮れなくて見せられなかったから、後で凛にもユキを見せに行かないと。
「じゃあ、リックは東と西のどっちに行きたい?」
「ナル、話を聞いてましたか?」
「無理矢理連れて行くわけじゃねえよ! ほら、行きたい方は攻略せずに残しておこうかと思ったんだ!」
「そういうことですか。東には港町が、西には避暑地のような町があるそうですよ」
うーん。どっちに行こうか。港だと海があって、水生の魔物が居そうだ。水の中だとユキは戦いにくそうだな。避暑地だと山の中にあったりするのだろうか。俺たち的には西の方が良さそうだ。
「俺はどちらかというと西が良いかな」
「よっしゃ、決まりだ! アオイ、東に向かうぞ!」
「僕には何も聞かないんですね。今からですか……。少し準備しても?」
「おう! バースの門に集合で!」
善は急げと言わんばかりに、ナルは走り去っていった。二人に別れを告げる。
人混みから離れて木陰に座ってパートナー達と触れ合う。昨日買った日持ちしそうな食べ物や採取していたベリーを広げてみんなで食べる。
今まではゲームだというのに、忙しくてあまりゆっくり出来ていなかった。俺は戦うのも好きだが、こうやってのんびり過ごすのも好きだ。そうだ、この光景を残しておこう。凛にも見せられるし。ハヤテはスクショを撮ろうとする気配を読み取ったのかポーズも取ってくれた。ゴーグルと脳内にしっかりと記憶した。
こうして復魂祭は終わりを告げたが、Brave and Partners Onlineは新たな展開を迎えていた。
これで復魂祭は一区切りですが、第三章はもう少し続きます。




