イベント告知
公式サイトに書いてあった時刻にログインする。バースの広場が見やすいと書いてあったため、そこへ行く。人の集中が予想されるため、サーバーが一時的に分けられているようで、混雑はしていなかった。
「久しぶりだな、リック」
「ナルか。えっと、横にいる人は?」
ナルの横にいる、魔法使いのようなローブを身に纏い、フードを深く被った少女を見る。
「コイツはアオイ、俺のフレンドだ。小柄だが男だ」
「リックさん。こんにちは」
アオイさんは肌がくっつく距離に近づいて耳打ちした。
「ご想像の通り、僕は女性ですよ」
「え、でもアイツ男って……」
「女性ってバレると面倒くさいから勘違いされたままにしてるんです。黙っていてくださいね?」
「お前ら何を話してるんだー!」
「ああ、ナルがモテたいからゲームを始めたことや、女子ウケが良さそうなモンスターを使役したことですが?」
「本人のいない所でその話をするか? 普通」
あの二人って仲が良いんだな。本当は女性だと知らないと言っていたが、このゲームで知り合った人なのだろうか?
周りの人の視線が空へと向かっている。釣られて見上げると、半透明のモニターのようなものが中に浮いていた。
「始まるっぽいですよ」
俺は二人に声をかける。二人は仕方がないといった様子で空を見た。
初老の男性がモニターに映った。彼はこちらの様子が見えているのか、少し驚いたような顔をした。
『この数は思っていた以上だ。……失礼した。私は王国騎士団団長をしているウィリアム・ロビンソンだ。これから話すのは時の神殿の奪還についてだ』
時の神殿の奪還……。これがこれから行われるイベントの内容だろうか。戦闘系のイベントっぽいな。
『皆も知っての通り、今から三年前、バースの南に位置する時の神殿はモンスターに占領されてしまった。各地の神殿が一斉攻撃されたことで、我々騎士団も手が回らず、いくつかの神殿は奪われ、今もなおモンスター共の手にある』
騎士団長は拳を握り締め、当時の無念を語った。声や仕草には悔しさが滲み出ている。
『が、神は我らを見捨てなかった!』
握り締めた拳が高く突き出された。熱のこもった口調で、彼は言葉を続ける。
『神はこの世界に異界から多くの者を連れてきて下さった! 彼らはモンスターを従える力を持っている。この力はきっと、この状況を打破してくれる!』
演説は今までで一番の盛り上がりを見せた。この世界の人にとって、神殿の奪還は大きな意味を持つのだろう。広場にいるNPCは歓声を上げ、それに釣られてプレイヤー達の気分も高まっていく。
『この場で礼をさせてもらう。よくぞ集まってくれた、異界からの勇者達よ。時空を超え、この世界に降り立ってくれたこと、感謝する』
彼は頭を下げ、感謝の言葉を言った。顔を上げると、手を差し出しながら言った。
『そして、時の神殿の奪還作戦への協力をお願いしたい。たとえ失敗しても、参加者には報酬を用意しよう』
この言葉に反応したのはプレイヤー。どんな報酬が来るのかと期待する声が聞こえる。報酬も気になるが、俺が一番気になるのは"失敗しても"という言葉だ。この言い方をするということは、失敗もあり得るのだろうか。最悪の場合、この町にモンスターが流れ込むなんてことが起こるのかもしれない……。
俺の心配はよそに、話は進んでいく。
『さらに、完全に神殿を取り戻した暁には、追加報酬も用意しよう。活躍が大きかったパーティーには特別な報酬も用意する!』
彼は力を込めて言った。俺を含めた広場のプレイヤー達の目は輝いた。特別な報酬……気になるな。
『安全のため、作戦にはパーティー単位で参加してもらう。三人程度のパーティーを組み、参加してほしい。他の者と都合の合わず、パーティーが組めない者は、近い実力の者と組めるように、こちらが調整する』
パーティー単位でのイベントなのか。ソロでも問題なく参加できるようで良かった。
『決戦は三日後だ。多くの参加を待っている。……これにて放送は終了する』
空中のモニターから彼の姿が消えた。しばらくしてからモニターも消えた。周りのプレイヤー達は、イベントについて思い思いの会話をしている。
「リックはどうだ?」
「ごめん、何の話だっけ?」
ナルに話しかけられてハッと我に帰る。
「このイベントで一緒にパーティーを組まないかって話だ。一緒に組むよな?」
「その強引なところ、良くないですよ。リックさんに先客が居る可能性もありますから」
「イベント告知が今なのに、先客がいる訳ねえよ! で、どうなんだ?」
「組みたい。一緒に戦ったことがある人なら戦いやすいと思うから」
「リック、ありがとな! エリアボスの共闘、頼もしかったぜ!」
アオイさんが首を傾げた。それに気づいたナルは顔を青くする。
「違うんだ、アオイ。誤解だ」
「誤解のないように聞いておきますが、それは南に居るエリアボスですよね?」
こちらに話を振られたように感じたので、頷く。
「レベル上げをしていたら、リックが居たんだ。それでパーティーを組もうって話になってさ……」
「討伐もした、と」
二人の様子を見て察する。もしかして、二人はエリアボスを一緒に討伐する約束をしていたのでは、と。申し訳ないことをしてしまったな。
「リックさんは悪くないですよ。エリアボスは未討伐の人がパーティーに居れば何度でも出来ますし」
顔に出ていたのか、フォローされてしまった。彼女に俺の考えていることが筒抜けになっているな……。
「それはそれとして、先に討伐されてしまったのはムカつきます」
「くっ……。うやむやにできると思ったのに」
彼女はナルをキッと睨みつける。ナルはサッと視線を逸らした。
「あ、今度は三人で討伐しに行こうぜ!」
彼は名案を思いついたかのように言った。コイツ、立ち直りが早いな。
「アオイさんが良ければ。俺、アオイさんの戦い方を知らないから」
アオイさんが俺に気を使って断ろうとしたため、口を挟む。ちょうど、今日は何をしようか迷っていたため、渡りに船だ。
「リックさんがそう言うなら……」
「それじゃ、決まりだな!」
そう言うと、ナルはパーティー申請を送ってきた。
「パーティー結成だな! パーティー名はどうする?」
「「決めなくて良い」」
「口を揃えて言うなよ……」
ナルはがっくりと肩を落とした。ナルはため息を吐くと、気を取り直してエリアボス討伐に向けた作戦会議を開始した。
「どうやって戦うか、決めようぜ。まずは簡単にスキル構成を言おう」
「僕は魔法使いタイプ。良く使うのは水魔法で、パートナーは風の妖精と水の妖精」
彼女は杖を取り出して、小さな水球を作った。攻撃魔法も色々できて面白そうだ。続けて俺も戦い方を言う。
「俺はバランス型、かな? 強化魔法、回復魔法、妨害魔法、付与魔法が使えて、接近戦も一応できます。パートナーは風の妖精とクイックバードだ」
「二人とも知ってるが、俺は剣士だな。前衛が俺、中衛がリック、後衛がアオイだな」
道中の敵との戦い方や、ボス戦での立ち回りを話し合った。道中では俺が索敵を担当することになった。
「お前らが敬語を使ってると仲が悪いみたいだし、もっとフランクな感じで話そうぜ?」
話し合いを終えた時、ナルが言った。
「では、リックと呼びます。敬語はキャラクター作りの一環ですので気になさらずに」
「俺も、そうします。じゃなくてそうする?」
「なんで疑問系なんだよ。まあ良いか。それじゃあ森を進む者出発だ!」
「「その呼び名は却下で」」
「お前ら、仲良くなるのが早いな?」
俺たちは普通に森の中を進み、ボスエリアまで行った。




