異常事態?2
windさんと別れた後、村まで戻ってからログアウトした。
ログアウトすると、ちょうど凛が部屋に入ろうとしていたところだった。
「どうしたんだ?」
「お兄ちゃんにあげる装備が完成したから一応報告。バースまでいつ来る? 私、まだ先の村には行けなさそうなの」
「へえ。完成したんだ。会いに行くのはいつでも良いよ」
「本当は特殊な素材を使って作りたかったんだけど……」
「特殊な素材?」
凛はBPOの情報サイトを見せながら言った。
「モンスターの素材を使うと、効果が上がるの。今使えるものだとワイルドウルフの毛皮かな。西のモンスターから手に入る糸で布を織るのが現時点だと良いんだけどね」
「西の村なら行ってる人が多いんじゃないか?」
「それでも結構な値段がするんだ……」
俺は凛が見せてくれたサイトを見る。その糸はさっき倒していたグリーンキャタピラーの糸のようだ。
「これなら持ってるぞ」
「本当!? ……でも、貰ってばかりは良くないよ」
「完成品をくれるんだろ?」
「今用意してるのはシャツとズボンだけだし、能力も低いからお礼にならないよ」
「俺が持っていても意味がないし、折角なら貰ってくれ。良い服をくれるんだろ?」
「……そういうことにしておくよ」
凛と会う時間を決める。あのデカい芋虫を狩っていて良かったな。
「ギルドで換金すれば良いのに。私に甘いよね、お兄ちゃん」
「何か言ったか?」
「別に? また後で。お兄ちゃん」
今日の分の宿題は済ませておこう。宿題は早めにやっておくのが吉。……クラスのアイツ、ちゃんと宿題やってるのか? まあ、他人の心配なんてしなくて良いよな。
服飾ギルドの前まで来ると、リンは肩の上にしらたまを乗せて待っていた。
「お待たせ。これが糸だよ」
「ありがとう、リック。これがシャツとズボンだよ。着てみて?」
「今、ここで服を脱げと?」
ギルドは基本的に大通りに面しているらしい。もちろんそれはここも例外ではない。もしかして嫌がらせ? 俺は嫌われていたのか?
ぐるぐる考えていると、リンが吹き出した。
「そんなこと言ってないよ。お兄ちゃんってたまに天然ボケするよねー。装備はステータス欄から変えられるよ。アナログ人間だよね、お兄ちゃん」
否定はできない。今着てるジャケットだって普通に着て装備したし。
「もしかして、発声でしかスキルの発動が出来ないとか思ってたりする?」
「え?」
「え? マジ? 前に戦った時、全部発声で発動してたからまさかとは思ったけど。分かりやすくするためじゃなかったんだ」
俺は顔を覆った。スキルを叫ぶ痛い人間になっていたということ……?
「言い方キツかった? ……ごめん。えっと、早く着てみて?」
リンから装備を受け取り、ステータスを開く。すると、装備の欄が光っていた。そこから、シャツとズボンを装備する。今までの初期装備から、リンお手製の服に早変わり。普通に売られている服のように着心地が良い。
「着心地は良いぞ」
「そっか。よかった! あ、リックのジャケット、ちょっとほつれてない?」
リンに言われて服を見る。確かに、良く見るとほつれている。装備の耐久を確認すると、半分程度になっていた。
「服の耐久が減ると、見た目が変わるんだな」
「そうみたいだね。私、服なら耐久を回復させられるけど、やる?」
「頼みたいな。悪いが、お願いしても良いか?」
「うん! リックには色々貰ってるし、お安い御用だよ! 一時間もあれば終わるから、武器でも見てくれば?」
「武器ってあまり出回ってなかった気がするけど……」
「ああ、それは解消してきてるよ。生産職の人たちも作ってるし、需要に供給が追いついてきているんだ」
「そうなんだ。じゃあ、行ってくる」
リンにジャケットを手渡す。一時間くらい武器を見て時間を潰してこようかな。
町の武器屋も職人街も賑わっている。折角なら一番良いと思える武器を買いたい。槍を中心に武器屋をのんびりと見て回る。
「あ、リックさーん!」
「ジョン? どうしたんだ?」
「居たから声をかけただけですよ。……その武器、まだ使っていたんですか?」
ジョンの視線が背中に担いでいる槍に突き刺さっていた。
「ああ……。買うタイミングがなくって」
「武器はあなたの命を預ける大切な仲間です! そんな雑ではいけません!」
「あ、ああ。ごめん」
目の前の彼から年下とは思えない圧を感じる。が、それはきっと俺のためだ。厳しい言葉の裏に優しさを感じ、心が温かくなった。
「まあ、今日はちょうど良かった」
彼はぼそりと呟いた。俺が首を傾げていると、彼は工房から一本の槍を持ってきた。
「これが俺なりのお礼……。受け取って欲しい」
「装備してみて良いか?」
彼はこくりと頷いた。装備を変えて、ステータスを確認する。
リック
種族:人間 Lv.28
HP:20/20
MP:40/40
STR:10(+5)
VIT:5(+2)
INT:26
AGI:10(+5)
【スキル】
使役 槍術Lv.11 索敵Lv.5 回復魔法Lv.1 強化魔法Lv.6 妨害魔法Lv.2 付与魔法Lv.1 毒術Lv.8 麻痺術Lv.8 料理Lv.1 鑑定Lv.4
【装備】
普通の槍(軽) STR:+5 耐久:300
普通のシャツ VIT:+1 耐久:80
普通のズボン VIT:+1 耐久:80
残りポイント:41
STRは今までよりも高い上、村で持ってみた鉄の槍のように重くない。耐久もまあまああるな。
「良い感じだ。ありがとう」
「そっか! 喜んでくれて嬉しいな。リックさんが初めてのお客さんだから、少し心配でさ……」
自信なさげに俯いたジョン。その瞳には不安さが滲み出ていた。
「大丈夫。俺が望むものをしっかり用意してくれたんだ。心配することはない」
「本当? ありがとう。リックさんさえ良ければ、また俺が作りたい」
「そう言ってくれると助かるよ。この槍っていくらだ?」
「え、お代は要らないよ! お礼だから。それに、えっと、練習作だし」
お金を出そうとすると首を勢いよく振って断られてしまった。お礼はもう貰ったと主張したが、ジョンは槍を押し付けるように渡してくるため、俺の方が折れた。
「今回はありがたく貰っておくけど、次は適正価格で買うからな。覚悟しろ!」
「捨て台詞みたいだな……。ああ、次もよろしくな!」
メッセージが一件届いている。送り主はリンで、要約すると装備が出来たから取りに来いって感じだな。
俺はすぐ行くと返事をして、早速服飾ギルドまで向かった。
「あ、リック!」
ギルドの前に、大きく手を振るリンが居た。肩には相変わらずしらたまが乗っているようだが、少し……いやかなり見た目が変わっていた。
「しらたまの服、作ったのか?」
「そうだよ。可愛いでしょ! 貰った素材で作ってみたの!」
「給仕服みたいだな」
「うん。料理スキルのレベル上げのために食堂でお手伝いの時に料理を運んでくれるからね! 可愛いんだよ?」
しらたまもどこか誇らしそうな顔をしていた。
「あ、忘れてた。ジャケットと、追加で作った装備だよ。良かったらつけてみて」
「ネクタイと手袋?」
「うん。小物だから効果には期待できないけどね」
ネクタイには魔法威力1%UP、手袋には魔法耐性1%UPの効果が付いているらしい。割合なら弱い今に使ってしまうのは少し勿体無いな。
「遠慮せずに使って! 未来の私はもっと良い装備を作るから」
「声、漏れてた?」
「ううん。でもそう思うだろうなって。何年兄妹をやっていると思っているのさ?」
「そうだね。つけてみるよ」
手袋は、手にはめようとすると俺にぴったりのサイズに変わった。着け心地も良くて、戦闘の邪魔になることもないな。ネクタイも制服と同じ要領でつける。
「うん。いい感じ。目立ってるよ!」
「そこまで目立ちたくはないけどな……」
「しばらくすれば落ち着くと思うよ。装備の需要も増えてるし」
「そうなのか?」
「この素材は魔法職の装備として良いからね。それに、NPCからの依頼もあるから需要はいっぱいあるよ」
それなら、作ってもらえて良かったな。
「忙しかったのか? わざわざありがとう」
「気にしないで。リック、また今度!」
「またな、リン」
さて、この装備で早速戦ってみますか!
今度は南方面に行ってみよう。換金と情報収集のために、一度冒険者ギルドに行こう。
良さそうな依頼は討伐依頼くらいだな。これは倒して得た討伐部位を渡すだけだから受けなくても良いな。
折角来たんだから、リンから返された糸の納品でもしようかな。
「納品したいんですけど……」
「はい。グリーンキャタピラーの糸ですね。助かります」
報酬もなかなか良いな。……あのデカい蝶と戦う労力を考えたら少ない気がするが。
「この素材があるってことは、西の村に行ってきたということですよね? 何かおかしなものを発見していませんか?」
「おかしなもの?」
「おかしなもの――例えば異常に強いモンスターとか」
異常に強いモンスター……。あの蝶のことか?
「そうなんですね……。最近発見が増えているんです。復魂祭の影響かと思うのですが……」
「例年はもう少し影響が少ないんですか?」
「そうですね。ここまで強いモンスターは発見されていませんでした。もしかしたら他の影響もあるのかも……」
急激に強くなった理由? もしかして、経験値のボーナスエリアがあるとか? でも、見つけてもあの強い蝶がうようよいる可能性があるから無理だろうな。
「報告、ありがとうございます。あの蝶に限らず、各地で異変が起こっている場合があります。どうかお気をつけて」
ゴブリンも上位個体が増えていたりするのだろうか。気を引き締めていこう。




