つなぐもの2
バースでやることは特になかったので、一度ログアウトして、再度ログインした。
ログイン前に凛にあの人のことを聞いた。用事が終わったらしく、一日滞在した後、帰りの護衛を探すとのこと。ゲーム内は三倍で進むから、そろそろ帰る頃だろうと思ってログインしたのだ。
冒険者ギルドに依頼を出すらしいので、冒険者ギルドに向かう。ギルドのクエスト掲示板には……あるな。これに触れて、クエストを受ける。
「また会いましたね! リックさん」
待ち合わせ場所の東門に向かうと彼女が待っていた。軽く挨拶をして村に向かう。今回も特に危険はなく、村までの道を進んだ。
「リックさんのおかげで町まで行けました! これ、お礼です!」
彼女から服を受け取った。それは淡く赤色で染色されていた。その服からは何かの力を感じられた。
「ジャケット?」
「はい。私の作品です。INTが上がる効果もついているんですよ」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、彼女はニコニコとしながらこちらを見つめていた。着て欲しいのかと思い、羽織ってみる。
俺に合うようなサイズを選んでくれたのだろう。動きやすい。デザインもシンプルで好きだ。
「気に入ってくれたようで何よりです! 今度こそさようならです!」
彼女と別れた後、少し戦ってみた後は村で村人たちの困ったことを解決している。理由はシンプル。彼女を町に送り届けた時に完了したクエスト、【お届けものです。1】の続きがないか探していたからだ。
結局、続きのクエストは見つけられなかったが、村人の手伝いをし続けたところ、称号が手に入った。
【お人好し】
お人好しの証。
条件:ミニクエストを10件クリアする など
ボーナス:信頼されやすくなる
ミニクエスト…クエストではないが、NPCの頼み事。報酬の有無や量はそのNPCとの関係によって変化する。
ボーナスの意味が分かりづらいけど、ミニクエストの報酬に変化が発生するってことかな? ミニクエストらしきものは再度発生がなさそうなものもあったから、検証とかは難しそうだ。検証勢、頑張れ。
ちまちまと頼み事をこなしているとログイン制限が迫ってきた。ゲームしている感じはないが、人助けも楽しいな。
「いやあ、助かったよ。大したものじゃないけど。これ、貰ってくれ」
トマト×5
感謝とアイテムも貰えるからね!
次の日。
流石に二日連続冒険ほぼなしは嫌なので、冒険に出かけようと思う。森へ狩りに行くのを手伝ってほしいというミニクエストもあったし。……昨日と変わらない気もするな。
「強突き!」
狩人のおじさんを襲おうとしたワイルドウルフを返り討ちにする。
「流石、冒険者! 頼りになるな」
「俺だって、そのくらいできるもん……」
パチパチと手を叩いて褒めた狩人のおじさんを見て、見習いの少年は口を尖らせる。反抗期だろうか。ツンツンしている様子を凛に重ねて、頭を優しく撫でる。
「子供扱いするな! 見習いだって立派な大人だ!」
「あー。ごめんな?」
「謝るなら、その手をどけろ! 冒険者がなんだ!」
かなり嫌がられてしまったから、仕方なく手を退ける。まあ、凛もこれは嫌がるだろうからな……。反省しないと。
「ま、心配すんな。あいつ、ニックは恥ずかしがってるだけだから」
狩人のおじさんは見習いの少年が背を向けて歩き出すとこっそり教えてくれた。彼の父は怪我をしてしまった狩人で、その人が目標ということ、鍛冶屋になるため、一年前に町へ行ってしまった兄との仲がギクシャクしてしまっていること。
鍛冶屋と聞いて町で会ったジョンのことを思い出した。兄というと彼くらいの年齢だろうか。兄は彼のことをどのように思っているのだろうか。
そんなことを考えつつ、モンスターを倒していると、日は傾いていた。
「助かったぜ、ありがとな」
礼を言って村へ戻る彼らを見送った後は、森に残ってしばらくモンスターと戦った。
月が上り、すっかり暗くなってしまったので、そろそろ帰ろうかと思った時、足音が聞こえた。足音がした方を見ると、そこにはニックが居た。手には弓を持っていて、狩りをする気のようだ。
俺にだって、と呟いたのを聞いて不味いと思った。ただでさえ夜の森は危ないのに、慢心までしていたら命がいくつあっても足りない。とはいえ、今飛び出してもまた夜の森に行きかねない。俺は槍をぐっと握りしめ、彼を静かに追跡した。
「う、うわあ! なんで熊がいるんだ!」
ニックは彼の目の前に現れた大きな熊を見て思わず声を出した。その声に気づいた熊はゆっくりと振り向いた。獲物を見つけたその熊がニヤリと嗤った気がした。
「強突き!」
熊の意識の外側から攻撃を仕掛ける。
「逃げるぞ、ニック! 拘束!」
熊が痛みに気を取られている隙にニックの手を取って村へ走った。
「なんで、俺を助けたんだ」
ずっと俯いていた彼が口を開いた。
「危なかったから」
「そうじゃなくて!」
「しっ、静かに」
彼は慌てて口を押さえた。今度は声を抑えて言った。
「なんで俺を助けたんだ。お前に嫌な態度を取ったのに」
「さっきも言っただろ?」
「はあ?」
「俺には妹がいるんだ。やっぱり、見捨てられないよ」
「なんだよ、それ……」
彼は力が抜けたように笑った。
遠くから微かに振動が伝わってくる。熊は俺たちを追いかけてきているようだ。熊はもうすぐ俺たちを見つける。村まで逃げるのは少し厳しいか。
「お前は先に村まで戻れ」
「何を……?」
「早く!」
熊の放つ大ぶりな攻撃を躱す。俺の目的はコイツの撃破じゃない。彼が村まで行く時間を稼ぐこと。大体、五分もあれば良いだろうか。
「撤退戦ってやつ? かっこいいじゃん!」
でも、やるからには全力で。倒してしまっても良いんだろう?




