つなぐもの1
町の西側にある職人街にやってきた。工房から作業する音や指示出しをする声が聞こえる。
「おーすごいな」
「おう、すげぇだろ!」
独り言が拾われた。振り向くと、バンダナを巻いた少年が居た。袖は捲られていて、額には一筋の汗が流れている。鍛冶場に居たのだろうか。
「俺はここの工房で見習いをしているジョンって言うんだ。あんたは……武器が欲しいのか?」
「ああ、もっと良い性能の槍が欲しくて」
「ふーん。冒険者か? その槍でよく冒険しようと思ったな」
苦笑いをした。NPCから見ても性能は劣っているのか……。これは買い換えないとな。
「買いたいんだろうけど、ここで探すのはやめた方がいいぜ? ここの職人はみんな頑固ジジイだから。多分売ってくれない。武器屋にでも行けよ」
「なら、良い武器屋を教えてくれないか?」
「俺のおすすめはな――」
「おい、ジョン! さっさと戻らんか!」
工房から怒声が聞こえる。親切な子だったのに、悪いことをしてしまった。彼はおすすめの店の名前を告げると、走って戻っていった。
教えられた名前を頼りに店へ向かう。その店は隠れた名店といった雰囲気の店で、少し奥まったところにあった。
ノックをして中に入る。中には様々な武器が置かれていた。長剣、斧、杖、槍、といった比較的メジャーな武器から、鞭、ブーメランといった変わり種まで置かれていた。
その中から、目に止まった武器を手に取る。
「鑑定」
???
え? レベルが低すぎて見れないってこと? 鑑定は道具相手には成功するはずだが……。
「鑑定は使えないぞ」
黙り込んでいた店の主人が話しかけてきた。
「その槍は魔法が込められているからな」
鑑定は、鑑定したものの名称などが分かるスキルで、レベルが上がると成功率、読み取れる情報量が上がるんだったか。ああ、相手のINTが低いほど成功しやすいとも書いてある。
「性能はどのくらいですか?」
「STRが八十、INTが二十上がる装備で、霊体にも攻撃できるし、魔力も通しやすい。値段はたったの二十五万だ」
「……」
「まあ、あんたには扱えなさそうだがな」
黙り込んだ俺を茶化すように言った。店主によると、武器のステータスより自分のステータスが低いと装備できないこともあるらしい。
「では、俺にも扱えそうな、できれば一万オル以内の、槍はありますか?」
「ないな」
即答かあ……。
「最近、冒険者が急に増えて、武器の需要が高まってるんだ。にも関わらず、魔物が強くなったせいで物流が滞っている。困ったもんだな」
物流を元に戻すっていう隠れクエストがあるのか? ああ、Brassさんが職人街を勧めた理由が分かった。店に行っても買えないってことか。
「そうですか……。ありがとうございました」
気を取り直して、東側の村へ行こう。まだちゃんと見てなかったからな。武器屋もあると嬉しいな。東の村なら、プレイヤーが増えたせいで武器が買えないってことはなさそうだし。武器屋がない可能性もあるけど。
「この前来た冒険者じゃないか! この村とバースの間に居た、エルダートレントは倒しているってことで良いんだな?」
村に入ると、門番のようなことをしている男性に話しかけられた。俺は頷いた。
「そうか! お前さん、若いのにすごいな! ……そんなあんたに頼みたいことがあるんだが、良いか?」
「はい、俺にできることなら」
「そうか、助かるよ! 実は、バースに届けたいものがあるそうなんだが、護衛ができそうな奴がちょうど怪我してしまってな。そいつの代わりに護衛をしてほしいんだ」
快諾すると、彼はほっとしたような顔になった。
「本当か!? 助かった! ああ、急ぐものじゃないから、何にもない村だけど、ゆっくりしていってくれ」
またバースに戻るのか、と思っていたのが伝わったのか、ゆっくりしていってと言われた。武器屋について聞くチャンスだ。
「あの、武器屋ってありますか?」
「武器屋かあ。あるにはあるが、大したものは売ってないぞ?」
大まかな場所を教えてもらい、村の様子を見てまわりながらそこに向かった。
扉に付いているベルが鳴る。店のカウンターで突っ伏していた男は俺の存在に気づくと姿勢を正した。
店に置かれている槍を手に取る。正直、俺に槍の知識はないから、良いものなのかは分からない。
「鑑定」
投擲槍
STR↑
鉄の槍
STR↑
投擲槍は軽いが、鉄の槍は振り回すのが大変な重さだ。値段は投擲槍が八百オル、鉄の槍が二千五百オルだ。
「あの、この槍ってどんな性能なんですか」
「あ、ああ。投擲槍は名前の通り投擲用の槍で、軽くて投げやすく作られている。鉄の槍はまあ、威力重視だな。少々重いが良い攻撃になるな」
「少し振り回してみても良いですか?」
鉄の槍を手に取る。ずっしりとした重さだ。少しの間なら良いが、これを振り回して戦闘し続けるのは厳しそうだ。
「ありがとうございます。俺には少し重いみたいです」
「これが重くて戦闘なんてできるのか? STRが二十もない槍使いがよく生きてこられたな」
苦笑いするしかなかった。ここに来るプレイヤーの適性STRは二十くらいってところか。もう少し、STRを上げようかな……。
他に見るべきものはなかったので、護衛対象の家に行く。その家には大きなリュックを背負う女性が居た。
「あなたが護衛をしてくれる人ですね? 引き受けて下さったこと、感謝します」
女性は丁寧にお辞儀をした。が、背中の荷物が重すぎるせいかバランスを崩し、前に倒れそうになった。
「大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます。すみません、ドジで……。こんな私だから、先輩に捨てられたんだ!」
転びかけたことがトリガーになったのか、彼女は過去を思い出して叫んだ。
「えっと、町に行きましょう? 日が暮れると大変です」
「そうですね! 行きましょう!」
彼女が家から出ようとすると、家の扉に大きな荷物が引っかかった。
「あー! これだからあぁ!」
俺は彼女を落ち着かせ、リュックからいらない荷物を取り出させた。なぜ隣町に行くのにミシンが必要なんだ。
そして、今度こそバースに向かうのだった。
「着きましたね! ありがとうごじゃ……ございます!」
「リュックの大きさを考えたほうが良いのでは……?」
「また会いましょう! リックさん」
彼女は重い荷物を持っていないかのようにすぐに走り去っていった。心配だ。彼女も、その周りも。……ストーカーのようになってしまうけど、追いかけるか。
「何してるの?」
「うわっ! え、リン!? どうしてここに?」
「それはこっちのセリフだよ? というか、町に帰ってきたばかりだからまだ作れてないよ」
俺はいきなり肩を叩かれてビビったことを隠しつつ、今までの経緯を話した。
「なるほど、ストーカーか」
「違う……」
「ギルドの中は所属してないと入れないとこもあるし、諦めなよ。私が代わりに見てあげるからさ」
なんともいえない気持ちになりつつ、ありがとうと言った。リンはギルドの中に入っていった。
【お届けものです。1】…clear




