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05 隠された事実

「お前なぁ……魔王だぞ、魔王!こんな可愛らしい女の子が、そんなやべー生き物なわけないだろうが!」

「お、俺だってそう思ってたわい!」

 一向に信じようとしないレオパルト達に、俺はなんとか言い返す。

 ええい、こうなったら本人の口から言わせてやる!


「おい、ティアルメルティ!」

「ふえ?」

 イケメンであるエルフから可愛らしいなんて言われてニヤニヤしていた彼女に、自己紹介をするように促す。


「んん?何度も言っておるであろう。余こそ魔族を統べる王!つまり魔王ティアルメルティである!」

 堂々と胸を張って、ティアルメルティはレオパルト達に魔王である事を告げた!

 が……。

「うそくせー、なんかうそくせー」

「背伸びしたくてウソをつく時ってあると思うけど、その設定にはちょっと無理があるんじゃないかなぁ?」

 エルフとドワーフの戦士達は、孫のごっこ遊びをやんわりとたしなめる祖父母みたいな顔で、にこやかに否定するのだった。


「な、なぜ信じぬ!?」

「そもそも、魔王にしては迫力が無さすぎだろ」

「それに、こんな可愛い娘に魔族を統率して世界を荒らすような判断ができるとは思えないわ」

 ううん、全然信じてねえなぁ、こいつら。

 とはいえ、俺だって初対面でこんな少女に「自分が魔王でーす☆」なんて言われても、信じられんがな。

 つーか、いまだに信じられんし。


『マスター、地上階層で暴れていた者達の反応が、地下へと移動してきました』

「ふむ……」

 そうこうしている内に、なにやらヤバい奴らが侵入してきたというダンジョン・コアの報告を受けて、オルーシェは小さく頷きながらポツリと呟いた。

「よし。確認してみよう」

「うん?」

 不意に、そんな事を言った彼女に、俺達は全員が「あんだって?」といった顔になる。

 しかし、オルーシェはコアに命じると、ダンジョンへと入ってきた連中との通信回線を開いた。


「あー、テステス」

『!?』

『な、なんだ、今の声は!?』

 突然に届けられたオルーシェの声に、回線の向こうからギョッとした気配が伝わってくる。

 まぁ、最初は普通にびっくりするよな。

 だけど、オルーシェは相手方の動揺を気にする事もなく、さらに話しかけた。


「こちらは、このダンジョンのマスター。現在、君達だけに語りかけてる」

『ダ、ダンジョンマスター!?』

『いったい、どこから話しかけてきているんだ……?』

『それより、この声の感じ……まだ少女のような雰囲気だが……?』

 戸惑う気配が感じられ、奴らが浮き足だっているのがわかる。

 だが、どうせなら声だけじゃなくて、その姿も拝んでみたい所だったな……なんて思っていると、オルーシェはコアに追加の命令を出した。

 それにしたがって、この部屋の壁の一部になにやら四角い枠が現れ、そこへパッと何かが写し出される。


「これは……」

 そこに現れた人物達に、俺達の目は釘付けになった!

 映像越しだというのに、どうにもヤバい気配が伝わってくるような、濃厚な強者の気配。

 少しオルーシェの呼び掛けに驚いてはいるようだが、立ち振舞いには微塵の隙もない……なるほど、レオパルト達の言っていた通り、昔の最上位冒険者に匹敵するって話も納得するしかないな。


『……それで、ダンジョンのマスターがわざわざ我々に語りかけてくるとは、いったい何の用かな?』

「実は、あなた達の主を自称する少女をこちらに預かっている」

『な、なにっ!?』

「おう、皆の衆!余だよ!」

『ま、魔王様ぁ!』

「ま、魔王!?」

 驚愕した四天王の様子とシンクロするように、レオパルト達の驚く声が響く!


『なにやってんですか、あんたは!』

『一人でいなくなったと思ったら、やっぱり面倒な事に……』

『後でお仕置きしますからね!』

『…………』

「えっ?ていうか、本当に魔王な訳!?」

「こ、こんな女の子が……」

 それぞれが頭をかかえたりしながら混乱する中、魔王が力を使えない事を知っている俺とオルーシェだけは少し落ち着いていた。


『というか、なぜ魔王様がダンジョンマスターと一緒にいるんですか!』

「それはもちろん、余にこのダンジョンを献上するように促すためよ!」

『いや、そんな簡単に譲渡するわけがないでしょう!』

「何を言うておるか、余が本気で迫れば……なぁ?」

「いや、譲らないけど」

「!?」

 あっさりと断ったオルーシェに、ティアルメルティは心底意外だといった顔で固まってしまった。

 いや、なんで譲ってもらえると思っていたんだよ……。


「だ、だって、余が魔王であると証明できたし、四天王まできておるのだぞ?これはもはや、降伏して余を崇め奉るしかないではないかっ!」

「結構いい性格してるな、お前……」

「うむ!もっと誉めてよいぞ!」

 いや、誉めたわけではないんだが……。


「……私には、なんであなたが余裕なのかわからない」

「だーかーら、余の……」

「あなたはすでに人質なのに」

「え?」

 オルーシェの一言に、ティアルメルティはキョトンとした顔になる。

 そうして、あらためて自分を囲む面々を見回して……一気に蒼白となった!


「き、貴様ぁ!余を謀ったな!」

「謀ってねぇよ!」

 無茶な言いがかりに、俺は即座に言い返した!

 だが、人間と共闘するエルフにドワーフ。

 そして、魔族の五人衆を屠ったダンジョンの守護者(俺の存在)

 ようやく虎穴に無策で飛び込んだ状況を把握し、あわあわとティアルメルティは焦りだすが、単身で敵陣に乗り込んで来た時点でこうなる事はわかっていただろうに。

 いや……それとも、それだけ自分の魔力に自信があったという事なのかもしれないな。


「た、謀っておらんというなら、余の魔法を使えるようにして、正々堂々と戦うのが筋というものじゃろう!」

「私のダンジョンを奪いに来ておいて、そんな理屈は通らない。なにより、有利な状況を維持するためなら、どんな手でも使う」

 ティアルメルティの主張も無茶苦茶だが、それに対するオルーシェの覚悟の決まりっぷりもたいしたものだ。

 現に彼女に気圧されたティアルメルティは、すでに涙目になってガクガクと震えていた。

 しかし、オルーシェのそんな考えに至るまでの経緯を思うと、おっさんとしては少し胸が痛む。


「おのれぇ、人間はやはり汚い!卑劣な連中だの!」

 涙目になって、ティアルメルティはペチペチと弱々しい地団駄を踏む。

 確かに、ダンジョン内に一切の魔法を封じる罠はあるが、それに引っ掛かったティアルメルティが間抜けだった訳で、批難される謂れはないな。

 むしろ、自分の迂闊さを呪えよとしか言えんだろう。


 しかし、本当に魔王だった事が証明されたとはいえ、さすがにこんな女の子にあんまり手荒な真似はするのは気が引ける。

 それに、覚悟が決まっているとはいえ、同年代くらいのオルーシェにもできればそんな事をさせたくもないしな。

 そんな事を考えていると、四天王の様子を映し出していた画面の向こうから凄まじい圧力(プレッシャー)が俺達へ向けて放たれてきた!


『貴様ら……まさか、魔王様にいやらしい拷問とかするつもりではあるまいな!』

「こんなちんちくりんに、そんな真似するかっ!」

『ふん……貴様ら人間は口先だけでは綺麗事を言おうと、いざとなればどんな卑怯な真似でもする連中だろうが!』

『その通りだ、まさに邪悪と呼ぶに相応しい!』

「な、なんだそりゃ……」

 いくら敵対してるからとはいえ、そこまでボロクソに言われるとは……。

 なんというか、人間に対する憎悪の大きさが凄まじいな。


「はっ!どんな手を使うって点では、お前ら魔族も一緒だろうが!」

「そうさ、アンタ達が襲った場所で、戦えない連中に対して何をしたか……胸に手を当てて思い出してみな!」

 レオパルトとエマリエートが、憤慨する魔族達に対して怒りの声をあげる!

 そもそも、自由な冒険をしたくて冒険者になったこいつらにとっちゃ、戦争に駆り出される要因となった魔族の存在なんて迷惑以外の何者でもないもんな。

 だが、そんなレオパルト達からの反論に、魔族達は舌打ちしながら彼等を睨み返す!


『戦場での出来事はお互い様よ、貴様らとてこちらを一方的に批難できるほど、聖人君子というわけではあるまい』

『それに、そんな戦争になった原因は人間だろうが!』

「なんだと……?」

「おいおい、突然よそからきてこの世界で暴れてるのは、お前らの方じゃねぇのかよ!」

『ふざけた事を言うな、骨野郎!』

 ひ、酷い!

 確かに今の俺は骸骨兵(スケルトン)だけど、そこまでストレートに罵倒しなくてもいいだろうに……。

 だが、奴等の物言いはなんだか妙だな?

 確か、魔族が台頭し始めたのは百年ほど前、別の世界からこちらへ来てたちまち世界を混乱の渦に陥れたと聞いていたんだが……?

 俺達がそんな風に小首を傾げていると、ティアルメルティが厳しい顔付きで声をかけてきた。


「ダルアスよ……お前らは、何も知らんというのか!」

「知らんのかって……何をだよ?」

「人間と魔族の戦争の原因……それは貴様ら人間が、我ら魔族をこの世界に(・・・・・・・・・・)召喚したのが始まりで(・・・・・・・・・・)あろうが(・・・・)!」

 なっ……!?


「なんだってぇ!?!?」


 衝撃の告白に、俺達の驚きの声が響き渡った。

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