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04 驚異のメカニズム

「ようこそ、『オルアス大迷宮』の中枢部へ」

 俺が付いていたため、道に迷う事やダンジョンモンスターに襲われる事も無く、真っ直ぐに降りてこれた。

 だが、そんな楽々ツアーに浮かれていたレオパルトとエマリエートがオルーシェの姿を見た瞬間、ダンジョン内部のどこを見た時よりも驚愕の表情を浮かべる!


「え……ちょっと待って?この娘が、さっき言ってたダンジョンマスターなの?」

「お、お前……ダルアス……」

「な、なんだよ?」

 こんな小娘にしてやられて、情けないって説教ならやめてもらいたい。

 こう見えて、やり手だからなオルーシェは。


「……アナタ、いつから幼女趣味になったのよ!」

「はあぁぁぁぁっ?」

 なにをとんでもない勘違いをしているんだ、この馬鹿野郎どもは!?

「お前ら、馬鹿言ってんじゃねぇよ!オルーシェは相棒ではあるが、俺の……まぁ、娘みたいもんだ!」

 もっとも、俺は所帯を持ったことがないから、娘がいたらこんな感じかな?って思うだけだが。


「娘……」

 しかし、当のオルーシェは何やら不満げに顔を曇らせる。

 いや、確かに他人のおっさんから勝手に娘扱いされていたら、なんか釈然としない物はあるかもしれんけどさ……。

 それでも、性の対象みたいな目で見られてると誤解を招くよりはいいだろう?

 相棒である俺の名誉を守るためにも、ここはそれで納得してほしい。

 そんな俺の思いが通じたのか、オルーシェはため息をひとつ吐くとレオパルト達の誤解を解くように口を開いた。


「確かに……娘という所は否定したいけど、私とダルアスは二人が考えてるようなそういう関係じゃないよ……まだね(・・・)

 うん?

 最後に、なんかポツリと小声で言ってたけど、なんて言ったんだろう?

 そんな彼女の小さな声を聞き逃さなかったのか、エマリエートの耳がピクリと動く。

「ほほぅ……」

 ススス……と地面を滑るような動きで、彼女はオルーシェの横に並ぶ。

 むぅ……『地摩り』を使ってまで接近するほど、オルーシェの呟きは重要だったのか?

 そうして、そのまま肩を組むように密着しながらヒソヒソと話しかけ始めた。

 大丈夫だとは思うが、あんまり変な事吹き込まないといいけど……。


            ◆


「ウフフ、お嬢ちゃん……ダルアスはあんな事を言ってたけど、十年たったら彼を生き返らせるって約束してるらしいじゃない……もしかして、自分が成長するまで待たせたりしてる?」

「っ!?」

 いきなり核心を突いたドワーフの女性の言葉に、オルーシェは顔を赤らめながら絶句する。

「フフ、その可愛い反応……ダルアスの事、好きなの?」

 グイグイと迫って来るエマリエートの押しに負け、オルーシェは無言でコクリと頷いた。


「あら~~~!策士ねぇ、アナタ!気に入ったわ!」

 お姉さんが応援するから頑張ってねと、エマリエートはキラキラと瞳を輝かせながらオルーシェの手を取ってブンブンと上下する。

 そんな押しの強いドワーフに、オルーシェは若干迷惑そうに顔をしかめるが、次の一言でその表情が瓦解した。


「それじゃあ、昔ダルアスが現役だった頃の話でもしてあげましょうか!」

「っ!是非っ!」

 パッ!と華やいだオルーシェを眺めながら、大好物である恋する少女の可愛らしさを堪能すべく、エマリエートは活躍も失敗も含めたダルアスの話を語り始めた。 


            ◆


 何を話してるのかはしらないが、なんだか意気投合したみたいでオルーシェとエマリエートは盛り上がっているようだ。

 そんなドワーフの姿を見ながら、レオパルトは小さくため息を漏らす。


「……やれやれ、本当にアイツは恋バナが好きだな」

「恋バナ?」

 いや、確かにエマリエートはドワーフの割りにそっち方面……特に他人の恋バナが大好物ではあったけど……なんで、今そんな話が?

 流れが見えずに首を傾げる俺を見ながら、「あのお嬢ちゃんも、苦労しそうだ……」なんて呟きを漏らしてレオパルトは肩をすくめて見せた。

 むぅ……なんかおいてけぼり感があって、ちょっと寂しいですよ、俺は。


            ◆


「さて……ここからは仕切り直して、真面目なお話だ」

 オルーシェが用意してくれた、お茶と茶菓子が置かれたテーブルを囲み、キリッとした表情でレオパルトが告げる。

「このダンジョンに現れたという、魔族五人衆のライゼンについて……どう撃退したのか、教えてくれ」

「そうね、私もそれが気になるわ」

 レオパルトに追従する、エマリエート。

 それがオルーシェの隣に座り、彼女を愛でながらでなければキマってたんだろうがな。

 なんにしても、こいつらになら経緯を詳しく説明してやってもいいだろう。

 俺は魔族と戦う事になった発端とも言える、マルトゥマ(現在はマルマ)との邂逅から話を始めた。


            ◆


「──という感じで、ライゼンの野郎を生け捕りにして、魔族の目的について聞かせてもらったって訳よ」

 そう言って、俺は話を締め括った。

 小一時間ほど語った俺達の話を聞き終え、レオパルトとエマリエートは……なぜか顔を伏せて渋面を作っている。

 ……まさか眠いって訳じゃないだろうな?


「あー……色々と質問したいんだが、いいだろうか?」

 そう切り出してきたレオパルトに、俺達は頷いて見せて。

「うん、それじゃあまず最初の質問だが……ダンジョンに食わせて、別の種族に生まれ変わらせるってどういう事だ?」

「うん?」

 質問の意味がよくわからず、首を傾げていると、エマリエートも口をはさんでくる。


「話に出てきたマルマって人物は、地上階層の村で代表者やってたシスターでしょ?おかしな気配はあったけど、まさか魔族からサキュバスに転生してたなんてね……」

「ああ、マルマの正体にびっくりしたって訳か!」

「そうじゃない、さっきも言った通り『転生させた事自体』がどういう事なのかって聞いてるんだ!」

 んん?それって、そんなに気になる所か?


「別におかしくはないだろ、俺だって今はこんなんだし」

「生者がアンデッドになるのと、別の種族に生まれ変わるのとでは、まったく意味が違う。しかも、お前のようにダンジョンマスターの権限を得たから特別にって訳じゃなく、一介のダンジョンモンスター化したのに記憶を持ったまま転生させるなんて、普通ならあり得んぜ」

 そう……なのか?

 かつて、様々なダンジョンは攻略してきたけど、そういった内部のシステムについてはほとんど詳しくないからなぁ……。

 オルーシェとダンジョンコアが色々やってても、割りと当たり前の事だと思ってたぜ。


「まぁ、オルーシェがちょっと珍しい事をやってるのはわかった。でも、そんなに驚くような物でもないだろ?」

「馬鹿言え!場合によっては……」

「このダンジョンを、完全に封印しなくちゃならないかもね……」

 そう告げた二人の顔は、歴戦の冒険者の雰囲気を漂わせ始めていた。 

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